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三人でお祭りへ

 深い霧が街を彩る提灯明かりで赤く滲む午後六時半、俺は鳥居の前でココとエルゼに出くわした。

 ココは黒い浴衣で普段の隠された色気を露わにし、道行く男たちの視線を集めている。


「あっえっと、こんばんは……。バンくんこれにはワケがありまして……」


 手をわたわたとして訥々と説明を始めようとするココの前に、金髪赤眼のエルゼが飛び出してきた。

 エルゼは白い浴衣で弾ける爽快さを象徴しており、通りすがった老夫婦が孫を見るような目を向けている。


「あら、バンじゃない。奇遇ね」


 避けて行くつもりだったが、先回りされていたようだ。

 約束の時間は七時ちょうど。それまでに上手く抜け出すのが俺の任務だ。


「よお、二人とも。奇遇じゃないだろ」


「もっと驚くかと思ったのに、残念。ねえ、ココ」


「そ、そうですね……じゃなくて! ごめんなさい、バンくん。私は止めたんですけど、エルゼ様がどうしてもバンくんの姉の友達を見たいと言って聞かなくて……」


 ココはもじもじとしている。

 まあ、止めたのは本当なんだろうけど、本気で止めなかったってところか。


「へー。浴衣、似合ってるぞ」


「えっ、そうですか? ふふっ、頑張って着付けしたかいがありました」


 かわいい。でも、今の発言で全部バレてるのには全く気づいてないようだ。

 隣の白浴衣にも声を掛ける。


「エルゼも似合ってるぞ」


「……あら、そ」


 カランコロンと下駄が鳴る。気のない返事と共に背を向けたが、髪をまとめているから赤くなった耳が見えていた。

 俺はその横に並ぶ。


「しょうがない奴だな。時間まで遊びに行こうか」


 鳥居の向こうに屋台が並ぶ。約束の場所は境内の裏だ。

 この人混みなら上手く抜け出すこともできるだろう。


「遊ぶならめいいっぱい楽しむわよ、バン!」


「おいおい。そんな引っ張るなって」


 エルゼの怪力に抗えず、ぐいぐいと人混みの中へ引っ張られていく。


「待ってくださいよ、エルゼ様! バンくん! 私、人混みは苦手なんですー!」


 後ろから泣き言をこぼすココが付いてくる。

 と言っても、吸血鬼に楽しめる屋台は意外と少ない。

 ほぼ食べ物の屋台だからだ。


「バン! これをやるわよ」


「……射的か。こういうのは得意だぜ」


「へえ、言うじゃない。勝負よ!」


「受けて立とう」


 エルゼは袖をまくって、射的の親父さんの前に五百円を叩き置く。

 俺も五百円を親父さんに差し出した。

 親父さんは射的用のピストルを俺たちの前に置く。


「あいよ。お二人かい? お嬢ちゃんは三百円でいいよ」


「エルゼ、良かったじゃん。まけてもらって」


「……」


 だが、エルゼはわなわなと震えていた。


「どうかしたか? エルゼ」


「……じゃない」


「ん?」


「私は小学生じゃあないわ!!」


 エルゼが唐突に激高した。待て待て、俺は今、これっぽっちも禁止ワードを思い浮かべてなかったぞ。


 パンパンパン!


「いてっ! こっちに撃つな!!」


 暴れるエルゼがいつの間にか台の上にあったピストル片手に乱射した。

 ちょっとした事件だよこれは。


「私はレディよ! 十六歳よ!」


 荒れ狂いながらもいちいちコルクを詰めている。


 パンパンパン!


「いていてっ! どうして急に怒り出したんだよ!?」


 わけがわからなかった。

 不幸中の幸いというか、ただの不幸だが、コルクは俺にだけ当たっているようだ。


 トントン


 後ろから肩を叩かれる。振り向くとココが射的の料金表を指さした。


「バンくん、あれを見てください。中学生以上が五百円、小学生以下が三百円って……」


 ちっ! そういうことか。親父さんはエルゼの逆鱗に触れてしまった。

 そりゃあ怒られて当然だな。


「親父さん! エルゼのどこが小学生なんですか! どう見ても俺たちと同い年の十六歳! だろ!?」


 暴れ狂うエルゼの代わりに俺が親父さんに伝える。


「だがな、こんな銃を乱射するような子、高校生には見えねえよ!」


 その通りだ。その通りだが、これで引き下がっちゃいけない。


「エルゼに謝ってください。そして、黙って五百円を受け取ってください」


 親父さんは俺とエルゼを見比べた。少し間を置いてから渋々と頭をわずかに下げる。


「悪かった。お嬢……、いや、お姉ちゃん。五百円たしかに受け取ったよ」


 そう言って台の上にあった五百円玉を引き取る。

 暴れていたエルゼは静かになって、呼吸を整えていた。

 ココがコルクを台に置いた。


「これ、拾っておきました。全部で六発でしたよね?」


 そこまで俺は把握していなかったが、たしかに台の上にはコルクが六つあった。

 親父さんは頷く。最初からここは六発で五百円なのだろう。

 俺はエルゼの背中をポンと押す。


「何よ」


「一流はこんな時、どうするんだ?」


 エルゼと教会で再会した時、『一流なら一流らしくするんだな』と言った覚えがある。

 それからずっと俺はエルゼを一人前のレディ扱いしてきたつもりだ。


「……さっきは少し取り乱したわ。ごめんなさい」


 エルゼは頭を下げた。癇癪持ちだが、良識はある。

 親父さんも素直に受け取って、いよいよ射的が始まった。


 パンパンパンパンパンパン!


「あんだけ暴れて全弾ハズレかよ」


「うっさいわね。次はあんただから」


 エルゼは残念賞のペーパーヨーヨーを親父さんからもらっていた。

 あの紙をくるくる巻いてるやつだ。


 シュン、ペチ


「やめい」


 ケラケラ笑ってエルゼは一歩引いた。ココの隣に行く。


「エルゼ様、惜しかったです!」


 いや、かすりもしてなかったぞ。

 二人を脇目に俺はピストルを片手に台の上へ身を乗り出した。それくらい近づかないと威力が出ない。

 狙いはビッグサイズのポテチ。ここしばらく食ってないんだ。


「へー、けっこうサマになってるじゃない」


「そうですね、格好良いと思います!」


 隣から二人が横槍を入れてくる。

 ハンターが本業とはいえちょっと照れる。

 くそ、照準が定まらないだろ。


 パン


「あっ! 茶々を入れるから変なとこに飛んで……、え?」


 コン! コン!


 あろうことかコルクが跳弾し、景品二つに当たった。

 そして二つとも台の向こうに落下する。

 親父さんが頭をかきむしった。


「おいおい、あんちゃん。一度に二つも取られちゃ商売あがったりだよ」


 不満を漏らしながら景品を台に置いた。帰れって感じの雰囲気を醸しながら。


「はは、悪いな。ここでやめさせてもらうよ」


 俺は景品二つを受け取る。

 そこへココが駆け寄って小さく拍手した。


「すごいです、バンくん!」


「ふーん、やるじゃない。何が取れたの?」


 エルゼは不遜そうに腕組してココの横に立った。

 袋に入った景品を取り出す。


「一つ目は大きなぬいぐるみだが、顔がすごく不細工。ハズレだな、これは」


「え! 何その子、かわいいじゃない!」


 一転してパッと表情が華やぐ。

 いやその感性ぜんぜん分からないんだけど。

 隣でココも困った笑みを浮かべているし。


「そうか、じゃあこれはお前にやろう」


 俺はぬいぐるみをエルゼに押し付ける。

 エルゼの頭がすっぽり収まって、ぬいぐるみの胴体をぎゅっと抱きしめる形になった。


「えへへ、ありがとう、バン」


 ぬいぐるみの陰からひょこっと顔を出したエルゼの表情はこんなにも無邪気な笑みで、俺は不覚にもドキドキする。かわいい。こんな娘は誰にもやらんって気持ちからの『かわいい』だ。


「う、うむ。では二つ目だが、……ペアのキーホルダーだ」


 赤と青の安っぽいクリスタルが付いたもの。

 これも二人にあげようかな。


「あの……」


 ココがおずおずと切り出した。小さく挙手もしている。


「もしかして、欲しい?」


「はい。片方だけで良いので私にくださいっ」


 元よりそのつもりだ。だが、思いの外、喜んでくれるのなら結果オーライ。


「いいぞ。ココには赤い方をやろう」


「ありがとうございますっ」


 ココはぺこりとおじぎしてキーホルダーの赤いクリスタルを受け取る。


「じゃあこっちの青いのは……」


 もう片方の青いクリスタルをエルゼに渡そうとすると、ココが割って入った。


「待ってください。それはバンくんのにしませんか?」


「え? ん~、別にいいけど、何で?」


 要らないんだよな、正直。


「それは、その、ちょっと待ってくださいっ」


 ココは手で俺を制した。そして唐突に浴衣の襟に手を突っ込んだ。思わず胸の谷間をガン見してしまう。


「え!? まずいよ、人が見てるのに」


 急に痴態を晒すのかと思いきや、谷間から紐が出てきた。

 何も付いていないネックレスだが、元々そこにはペンダントがあったはずだ。

 その紐の先にカチリとキーホルダーを付ける。


「これ、私の宝物にします!」


 見た目はすごくダサい。でも、そう堂々と宣言するくらいの良いものなのか?

 返答に困っていると、青いクリスタルを持った手にココの手がやんわりと触れた。

 あっ。そういうことか。


「わかった。俺も宝物にするよ」


 俺は青いクリスタルを握りしめる。

 ココの頬がゆるんだ。俺はすごく温かい気持ちになった。

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