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勘違い、解決

 その晩、夢の中にココが出てきた。

 これが夢だって分かったのはココが二人いたからだ。

 一人はいつもの制服姿で、もう一人はシースルーの際どい下着姿だった。


「実はバンくんに言わなければならないことがあるんです」


 制服姿の方が言った。

 いつの間にか俺はベッドの上に座っていて、下着姿のココに背中からにじり寄られている。


「言わなくても分かりますよね? だって」


 柔らかい胸を背中に押し付けられる。おお。

 これは夢だ。流されても良い気がした。そう思った瞬間、俺はベッドにココを押し倒した状態になっていた。でも、押し倒されたココは制服が乱れていて、目尻に涙を浮かべている。何やってんだ俺は。



 ◆



 目覚めは最悪だった。本当に何やってんだ俺は。

 自己嫌悪を朝の支度でごまかしてせっせと登校する。

 教室に入るとココが文庫本を読んでいた。挨拶しようと手を挙げたが、中途半端な高さで止まる。


「あっ、う……」


 また無視されたらと思うと、とても前向きにはなれなかった。

 ココの横を素通りして自分の席に着く。関西さんの友人が会話をピタリと止めてしまった。教室の空気がギスギスしたのがはっきり分かる。そうなるとギスギスの元凶に矛先が向くのは当然と言えた。


「ねーねー、昨日エルゼ様はああ言ったけどさー、おかしくないですかー?」


 切り出したのはやはり関西さんの友達だ。ぽわぽわっとした雰囲気だが、何かと毒気が強い。席は前の方だが、いつも関西さんと一緒にいて、俺から見て斜向いの席を陣取っている。


「エルゼのは悪かった。だが、俺がその、ち、痴漢したというのは違うんだよ」


「違うー? どういう意味ですかー?」


 ああ、くそ。こういう会話はすぐに墓穴を掘ってしまう。交渉や口喧嘩は苦手だ。


「それはただ関西さんを襲った相手を探るためにだな」


「でもー、だからって触る必要なくなくないですかー?」


 いや、あれは触ってから鮮血でないと分かったのだ。

 かと言って正直にヒドラを追っていたと話すのはまずい。ヒドラを倒したのは公にはエルゼということになっているからだ。連鎖的に吸血鬼ハンターだとバレる恐れがある。


「仕方なかった。やましい気持ちはない」


「きみの気持ちを聞いてるんじゃなくてー、あの子を傷つけたのは事実ですよねー?」


 それもそうだ。何も言い返せない。思わずココに助けを求めようと顔を上げる。


「っ」


 ココと目が合った。なのに顔をそむけ、俺との繋がりを断った。

 俺の視線を捉えたのはココではなく、俺を追い詰める彼女だった。


「またエルゼ様ですかー? ていうか、なんでエルゼ様に気に入られてるんですかー? 大した血等でも無いのに」


 血等ランクだ。十二血族がA、その眷属がB、眷属の眷属がCという風に階級が下がっていく。俺はFランクということになっている。


 ガタッ


 その時、ココが立ち上がった。うつむいたままで。


「血等は関係ありません」


 静かに震える声を絞り出した。

 そうだ。ココもまた同じように血で迫害に遭っていた。

 半吸血鬼であること。それはランク外を意味する。


「はぁー? 関係ないよねー?」


 ココに牽制した。ココはビクッと震える。

 だめだ。俺は目で合図を送る。でも、ココは俺を見なかった。

 差別は無くならない。それに抗うなら相応の痛みを伴う。


「関係あります。バンくんとエルゼ様は私のことがあって、獣について調べてたんです」


 その通りだ。

 俺とエルゼはココのために共闘した。


「だーかーらー、なんでエルゼ様に気に入られてるんですかって話ー」


 エルゼが俺に興味を持つ理由はあの性格を考えると察しが付く。だが、ココとエルゼの関係はよく分からない。ココがエルゼのことを一方的に推しているのは知っているけど。


「それは本人に聞いてみないことには……」


 その通りだ。

 いや、そうだ。そもそもおかしいじゃないか。


「そうだ。本人に確かめないと分からないことで難癖を付けるなよ」


「っ! でも火のないところに煙は立たないしー。……!」


 彼女は言葉に詰まって、そっぽを向いた。だが、その方向には関西さんが立っていた。


「せやなあ。でも火ぃ煽ってんのは自分や」


「でもー、あーしは」


「もうええから。あんたがうちのこと心配して言うてくれたのはよう分かっとる」


 関西さんは陽気な口ぶりでその場をなだめた。

 立ちっぱなしだったココも気持ちを鎮めるように席に座った。でも、この一件でココが俺のことを本気で嫌っているわけでないことが分かった。

 関西さんの友人が俺に謝る。


「ご、ごめんなさい」


 事態が急すぎて付いていけないが、誤解は関西さんが解いてくれたのだろう。


「ああ、良いんだ。俺もはっきりしない言い方をして悪かった」


 ヒドラとの繋がりを隠すためだ。

 関西さんは椅子の横から座って、ひじを俺の机に掛けた。


「許したってなぁ。うちが中途半端にバンさんのこと話してもうたから」


「それで早とちりしたわけか。あれ? 保健室に居たままでは教室の揉め事なんか分かるのか? さすが噂好き」


「噂好きやなくても机叩き割ったんは嫌でも耳に入るやん」


 エルゼが話を大事にしたからこうして早期解決になったのだ。うーん、結果論だが、俺はエルゼにも感謝しておいた方が良いのだろう。やり方はアレだが、あいつが俺を助けようとしてくれたのは事実だし。

 そんな中でエルゼが教室にやってきた。


「おはよう、バン。なんか変に盛り上がってるわね? どうかしたのかしら」


「どうってことはないよ、エルゼ。おはよう、そしてありがとな」


「何のことか知らないけれど、お礼は受け取っておくわ」


 気分良さげにエルゼは自分の席に座った。

 ちょうど良いタイミングでディンゴ先生が来て、出席確認が始まる。

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