悪魔のお節介
午後の退屈な吸血鬼向けの授業を受けながら、ココに今日の態度のことを聞こうと心を決める。
放課後になってすぐ俺はココに声を掛ける。
「一緒に帰ろうぜ」
「……すいません、用事があるので」
俺を一瞥し、すぐに黒板の方を見た。
ディンゴ先生がダルそうに廊下に出ていく。他の生徒たちは帰り支度をしていた。
本当に用事なんかあるのかと疑いつつも、頷く。
「そうか。じゃあまた明日」
手を振ったが、無視される。虚しい。
中途半端に上げた手で握りこぶしを作ってシャドーボクシングにする。ダッサ。泣きそう。
◆
ココと時間差で教室を出るつもりが、一時間も教室に居た。
自分以外に誰も居ない放課後の教室で、青春の一コマを空想していたせいだ。
ココと仲直りしなきゃな。あと、関西さんの誤解も。
「よし」
俺は気合を込めて廊下に出る。一階の廊下の窓から、女子寮の前でエルゼとココが話しているのを見つけた。
それは向こうも一緒で、俺に気づくとエルゼがパッと手を上げた。隣でココがエルゼに会釈する。
二人に声を掛けようと窓を開けた瞬間、ココの声が聞こえた。
「あ、じゃあ私はこれで」
ココがそそくさと立ち去る。
「あ、ちょっと! ……あー」
引き留めようと思ったが、もう寮に入ってしまった。
窓から出るわけにもいかない。窓枠に掛けた手を握りしめると、木製の窓枠がパキッと音を立てた。
「あんた、ココに避けられてるみたいね」
エルゼが廊下の外壁に寄りかかりながら言った。
「避けられてるように見えるよなぁ」
ため息を吐いてうつむく。
エルゼの頭がちょうど窓枠のすぐ下にあって、分け目がはっきり見えた。
「何かしたの?」
「昨日、街に出た時に一悶着あってな。直接俺が何かしたわけじゃないんだが」
「ふーん」
エルゼは空返事だ。
ちょうど真下にあるエルゼの頭は何を考えてるんだろう。
「そういえば、さっきココと何を話してたんだ?」
ココは何か用事があると言っていた。それ絡みだろうか。
「大した話じゃないわ。あの子の話はだいたいわたしの称賛だもの」
うーん、それはいつも通りだ。
「何か大事な用とかは無かったか?」
「無いわ。何? そんなに避けられてるのを気にしてるの?」
「してるに決まってるだろ! ココが居ないと俺はつらい! 学校生活もままならない!」
「うわ、正体現したわね」
そうなのだ。俺はココにかなり依存している。
ココの助けなしでは平穏な学園生活は送れない。断言できるもんね。
「ココが居ないと全部バレる、確実に」
俺は自分で言うのも何だが潜入スキルが低い。思ったことは口に出しちゃうし、空腹は我慢できないし、緊張や熱血のせいで汗をかいて香水が薄れてしまう。その度、ココに助けられてきた。
「あんた、よく生きてこれたわね……」
「そう言うなよ。俺だって努力はしてるんだ」
一応、これでも機関で潜入任務の手ほどきは受けている。実際にやってみてカバーしきれない範囲が出てくるのは想定外だった。それでも小さいミスだ。しかし、一回一回は大丈夫でも繰り返せば致命傷になる。
「しょうがないわね。わたしが面倒を見てあげようか?」
下を見ると、エルゼの赤い瞳が俺を見つめていた。
吸い込まれそうになってこれは悪魔の誘いだと思った。
「さすがに悪い。エルゼにも迷惑を掛けるのはちょっとな」
なんだかココから乗り換えたみたいな感じが嫌だ。
「遠慮は結構よ。それにわたし不思議だったの。ココがどうしてあんたの面倒を見てるの?」
「それは……」
考えもしなかった。最初はドラクからペンダントを取り返したお礼だったはず。
「それに言ったじゃない。わたしがすべて隠し通すって」
ヒドラとの戦いの後に言っていた。
エルゼは自信満々に目を輝かせている。
一緒にいればエルゼの能力……、すなわち真祖の能力が分かるかもしれない。




