学園のアイドル
昼過ぎに学園内を一周し終わり、また広場に戻ってきた。
休日ということもあって他の生徒たちの姿もちらほらある。
私服っていうか、ジャージ姿が多い印象だ。
「ん? あの漫才トリオも要るみたいだな」
ゴリラの巨体が目について、すぐそばにドラクとキツネ目もいた。
広場はいやに静かだ。それは式典のような厳かさを感じる。
「バンくん、あれ」
ココが指さしたのは広場のベンチに座る金髪赤目の美少女――エルゼだ。
「学園を一周したのにここに居たのかよ」
なんかドッと疲れが押し寄せてきた。
まあ、ココと話しながら歩けたのは良かったけど。
それにしても変な空気が漂ってんなぁ。
「エルゼ様! お会い出来て光栄です!」
そんな男子生徒の声がどこからか聞こえた。
生徒たちはみんなエルゼの方を向いて、拝む者、膝を付いて頭を垂れる者、ハンカチで涙を拭いながら憧れの視線を向ける者など各々の方法でエルゼに惹かれているようだった。
「バンくん、私もっと近くでエルゼ様を見てきても良いですか?」
「いや良いけど……」
俺が返事をする前にココはエルゼの方へ駆けていった。
「エルゼ様ーっ!」
推しなのかな……?
改めて思うけど吸血鬼は序列意識が強いんだよな。
「あいつを教室に連れてくるために探してたはずなんだけど」
ココは聞いちゃいない。
彼女の後ろを付いていくと、運悪くドラクと目が合った。
「チッ、何しに来たんだお前」
「エルゼを探してた」
「お前もか。あの女、僕の首を折りやがって」
ドラクは首をさすりながらエルゼをにらみつける。
俺もエルゼと、その取り巻きたちを眺めた。
「さしずめ学園のアイドルってところか」
俺の読んでた漫画だとたいてい悪女なんだよな。
主人公の恋敵になったりする。
「何がアイドルだ。あの女が十三番目の血族だなんて噂に過ぎない」
横でドラクが俺の独り言に反応した。
「そうなのか? 俺は十二血族を見たこと無いから分からないんだが」
「僕の主はあの女のことを知らないと言っていた」
ドラクの主は十二血族の一人らしい。
噂とドラクの話のどっちを信じるかと言われると難しいところだ。
「本人から直接聞いたりしてないのか?」
「はあ? 僕があの女に話しかけるわけ無いだろ。あんな羽なしの未熟者に」
キッ、と刺すような視線が俺の脇を通り過ぎた。
やばい。
なんだこの殺気は。
「誰が未熟者ですって?」
ベンチに座ったエルゼが足を組み替えて、見下すような目をしていた。
ぞくりと背筋が凍る。
悲鳴を出すのを俺はなんとかこらえた。
「ひっ」
ドラクが元々悪い顔色を青ざめて余計に悪くする。
首を手で隠してにじりにじりと後ずさった。
他の生徒たちもエルゼの発する殺気に当てられて姿勢を崩している。
「言ってみなさいよ、私のどこが未熟かって」
エルゼの怒気を孕んだ声色はドスが利いて、生徒の何人かが土下座を始めた。
ココもあわあわと口を押さえて驚いている。
俺も正直、彼女の殺気に気圧されたが、こんなことでビビってどうする。
「スー……、ふぅー」
深呼吸。
酸素が全身の細胞に火を熾すイメージ。
銀炎術の基礎中の基礎だ。勇気の呼吸である。
「よう、エルゼ」
俺はエルゼに手を振った。
「あ? ……あれ、バンじゃない!」
最初の『あ?』は低い声だったが、その数秒後には殺気が一瞬で消え、華やかな笑みを浮かべた。かわいい。
ドキリ。
まただ。この胸のトキメキのせいで俺は、ココだけが標的でないと分かった。
「この前は急に立ち去ってすまなかったな」
「いいのよ。用事は大丈夫だったのかしら?」
「ん? あ、ああ」
どういう風に立ち去ったか覚えてなかったが、とにかくあの時は出血でエルゼに人間だとバレかけた。
他の生徒には高圧的なのに、俺にはかなりフランクでそれも拍子抜けした。
なんか気に入られるようなことしたっけか……。
ふと周囲の視線が俺に集まっているのに気づいた。
目を閉じ、声に集中する。
(誰よあいつ……)
(エルゼ様とどういう関係なの?)
(転校生らしいけど地味ね。芋みたい)
ざわざわと生徒たちが俺を指さしてヒソヒソ話をしていた。
つーか、芋はひどくねーか。
目を開けるとエルゼと目が合った。
「バン、別のところで話しましょ」
エルゼは笑顔でそう言って、次の瞬間、氷のような視線でヒソヒソ話をしていた生徒を射抜いた。
ひれ伏す生徒たちは誰一人動けなくなる。
エルゼは気軽にベンチから立ち上がって、俺の手を掴むとグイグイと池の方へ連れ出した。




