エルゼを探せ
土曜日は休日で、俺とココは朝から集まって一緒にエルゼを探すことになった。
「おはようございます、バンくんっ」
集合場所の広場に早めに来た俺だったが、ココもかなり早く来た。
そして来るなり俺の手をぎゅっと握り込む。
「お、う、お、おはよう」
うおおっ、いきなりその距離感は想定してなかった。
危うく動揺しかけたが、まあとにかくあいさつはできた。
この可愛さで急接近するのは不意打ちすぎた。
「あれ? バンくん制服なんですか?」
「ああ。というかココ、その格好は」
「私服ですよ。どうですか?」
ココはその場でくるりと回った。
スカートがふんわりと膨らみ、すげぇ良い匂いがした。
悶え死ぬわ、これ。
「悶え死ぬわ、これ」
「え?」
「あっ、いや、似合ってるよ」
危ない。心の声が口に出てた。
「ふふっ。ありがとうございます」
微笑みも爽やか。これで吸血鬼って信じられないぜ。
今日一日ココと一緒だと思うとワクワクする。
いやダメだ俺! こんな時こそ気を引き締めろ。
それとなくココの正体を探るのだ。
「それじゃあ不登校少女を探しに行くか」
「ですね。プリントは持ってきましたか?」
前にディンゴ先生が配ったものだ。ばつ印が三つある。
「ああ。この獣が出たっていう場所は避けていこう」
「はい。流れるプール前、調理室、それと女子寮裏ですね」
奇しくも昨日の授業で使った場所だ。
そういえば調理室に至っては巨大な爪痕があった。
あんなのと敵対したらさすがに俺でも逃げ一択だな。
「うーむ。エルゼが被害に遭ってなければ良いんだけどな」
「きっと大丈夫ですよ。あの方は小さな真祖ですから」
リトルドラクル……、聞き覚えがある言葉だ。
あっ、そうだ。思い出した。
『わたしは羽鳥絵留世。エルゼでいいわ。ここでは小さな真祖の方が伝わるかしら』
エルゼが自分で自分のことをそう呼んでいた。
結局、リトルドラクルとやらが何なのか分からずじまいだったけど。
「なあココ。そのリトルドラクルって何なんだ?」
「えっ、知らないんですか?」
振り向いた瞬間、ふわっと良い匂いがする。
というかそんなに驚くほどのことなのだろうか?
「ごめん。ほんとに知らない」
「私たち吸血鬼からすれば常識なんですが、バンくんは、しょうがないですね」
ココは『しょうがないですね』の前に少し笑みを浮かべて言うものだから、なんだか妖艶に見えて仕方なかった。
「ドラクルって真祖だろ? 四百年前に現れた最初の吸血鬼」
そして父さんの仇だ。
「はい。バンくんは十二の血族は知ってますか? 真祖が自分の能力を分け与えた最初の十二人からなる吸血貴族たちです」
ドラクが十二血族の直系とか言ってたのはそういうことだ。
吸血鬼ハンターが最も殺すべき相手としている十二人。
知識でしか知らないが、中には蚊を操って何万人もの殺人をした者もいる。
「それくらいは知っている」
あのドラクも自らを直系と言ってたように、今まで俺が倒してきた吸血鬼と比べたらかなりタフな方だった。
というかそれがエルゼに何の関係があるんだ? とココを見ると、彼女は意を決したように俺を見据えていた。
「彼女は――羽鳥エルゼ様は十三番目の血族です」
「……!」
思わず息を呑んだ。
最も殺すべき相手は十二血族だと考えていたが、間違っていた。吸血鬼ハンターの悲願は真祖を倒すこと。
ずっと手がかりが掴めなかった真祖を知る相手がエルゼだというのか?
「真祖は自身の持つ十三の能力を十二血族に分けて与えました。エルゼ様は真祖が最後に持っていた能力を受け継いでいるんです」
「その能力っていったい?」
「……それが分からないんですよね」
ふむ。知らないのなら仕方ない。
しかし、それが本当ならエルゼが教室に来ない理由も何となく分かる。
「そうか。なら、なおさら早くエルゼを見つけないと」
俺たちは広場を出て、広い敷地の学園をぐるりと一周して探すことにした。




