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アイアンナックル/レッド・ラスト  作者: 機乃 遙
赤錆=ヘイズル・ウェザフィールドの場合(2) Side: Red Rust 
9/19

邂逅

 手がかりは、霧の巨人(フォグ)、ちぐはぐな誘拐、エドワード・オブライエン。それだけだ。それだけで事件が解決できるかといえば、間違いなくノーだった。

 アーロンのマスターを見送ってから、わたしはすぐに事務所を出ていた。まだ昼前だっただろう。わたしは事務所の裏口からクルマを出し、気づけば現場に向かっていた。なんの現場か? もちろん昨日の食い逃げ騒ぎではない。ビルの倒壊と、それに乗じた失踪事件。その現場、ゾーン3のエーリング区だ。

 エーリングまでは、クルマで三十分とかからない。ピルグリム・サーカスから続くハイウェイも、朝のラッシュが終わり閑散としていた。

 ラジオは昨日のフォグ騒ぎを叫んでいる。失踪者、霧の向こうの兵器。恐怖を煽る材料はいくらでもある。このときばかりはわたしもラジオが嫌いになってしまう。FMとは、本来ならば未知の音楽と出会う交差点のようなものであるべきだ。と、少なくともそうわたしは思っている。

 結局、ゾーン2に入ったあたりでラジオを切った。かわりに電話をかけることにしたからだ。

「マリー・ライアルに発信してちょうだい」

 わたしがそう車載システムに告げると、電話はダイアルを開始。まもなく相手とつながった。

「もしもし。ウェザフィールドさんですか? どうせフォグ騒ぎの件ですよね?」

 どこか突っぱねた感じの物言い。若い女の声。ハツラツとしていながらも、どこか後ろめたものを感じるその声音。彼女の名はマリー・ライアル。ラリュング・グローブ紙の若手記者であり、わたしとは情報交換の相手だった。わたしが探偵としての情報を与え、彼女は記者としての情報を与える。ギヴ・アンド・テイク(そういう)関係だ。

「ご明察。これからちょっとリストを送るから、見てほしいんだけどーー」

 と、わたしは昨日リリーからもらった被害者のリストを送信する。すぐにマリーの手にも渡ったようで、感想が返ってきた。

「なんのリストですか、これ?」

「それはわたしの口からは言えないわ。言ったら、ラリュング市警(LCPD)にいるわたしの旧友が鬼のような形相になるでしょうから。……言ってることわかるわね?」

「じゃ、こっちで勝手に調べるぶんには問題ないってことですよね」

「理解が早くて助かるわ。それでね、マリー。あなたにそのリストを与えるかわりに、わたしに代わって調べてほしいのよ、そのリストの人物を。もちろん極秘でね」

「わかってます。いきなり公表するほどウチもバカじゃありませんから」

「頼もしいわね。じゃあ、よろしく頼んだわ。何かわかったら、お願い」

「了解しました」

 通信終了。

 わたしの注意は運転へ戻る。


 久しくラジオを耳障りに思いながら、ようやく現場に到着した。崩れ落ちたビルの様子は、昨日となんら変わっていなかった。変わっていたとすれば、警備の制服警官が減ったことぐらいだろうか。

「ちょっと、堂々とクルマなんか停めて。ここは立ち入り禁止ですよ? 見えないんですか?」

 巡査があわてた口調で言う。わたしは思わず笑ってしまいそうになった。

「探偵よ。ヘイズル・ウェザフィールド。今回の事件について協力することになっている。操作権限ならあるわ。そっちに連絡いってない?」

 呆然とする巡査。

 わたしは彼にほほえみかけてから、テープをくぐり抜け、その先へ向かった。


 わたしも、現場から何か手がかりが見つかるとも思っていなかった。フォグの破片でも落ちていたらラッキーだと、そう思っていたぐらいだ。

 現場は昨日から何も変わっていなかった。唯一変わっていたとすれば、それは被害者だろう。逃げまどう人々は救出されるか、あるいは遺体で発見されるか、またはそのまま失踪したか。

 捜査員もすでに失せ、ここは廃墟と化していた。まるで何十年も前からこうだったとでも言わんばかりに。がらんどうで、空虚だった。

 砂時計のように瓦礫がゆっくりと崩れていく音を聞きながら、わたしは奥へと進んだ。フォグの痕跡を求めて。そしてそのうち、おかしなこと(﹅﹅﹅﹅﹅﹅)に気づいたのだ。

「……ビンゴだな。こいつはまちがいない」

 女の声。

 それにうなずく少女の声。

 耳をそば立ててみると、足音と声からそれが二人組とわかった。初めは刑事かと思ったが、それにしては片方の声が若すぎる。いかに甲高い声をしていたとしても、変声期前のような声が出せるはずがない。

 わたしは一抹の不安を覚えながら、その声のする方に進んだ。そして見てしまったのだ。同時に二つの発見を遂げてしまった。

 一つは、大きな爪痕フォグが残したであろう巨大な痕跡が、ビルの鉄骨を切り裂いている。

 そしてもう一つーーそれは、その爪痕を眺める二人組の姿だった。一人は男装をした少女。そしてもう一人。それは栗色の髪をひっつめた、ロングコート姿の女。右手だけに手袋をした、背の高い女性……。すべてが目撃情報と一致していた。

 片手袋の、男装の少女を連れた女。わたしを誤認逮捕した、その原因。

「動くな。両手をあげて、ゆっくりとこちらを向きなさい」

 気づけばわたしは、その二人に向けた左の拳(﹅﹅﹅)を構えていた。


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