巨人大乱闘
ヤツの機関銃はスッカラカンだ。でも、それにしたってあの巨腕はどうしようもない。少しでも振り回そうものなだ、それだけでとてつもない暴力装置に変貌する。巨大なバケモノ、フォグは、そこに存在するだけで脅威だった。
だが鉄腕にはようやく分かってきた。この巨人との立ち回り方。殺人と復讐のためだけに生み出されたマシン。感情もなく、もうどこかに消えてしまった主人の命令を遂行するために、あてのない復讐劇を演じ続ける。そうすることで、自分の存在意義を見いだし続けている、哀れな機械。その存在意義=殺人の技術を、鉄腕は肌身でもって理解し始めていた。
遠くからは警察のサイレンが聞こえていたが、それももう期待していなかった。警察がこんなデカブツ相手に何ができるって言うんだ? 自分の方がまだ善戦してる。そんな気がしていた。
しかもだ。そう思った矢先に、今度は真っ赤な霧が立ちこめてきやがった! そうなれば、次になにが起きるか。鉄腕は、一度それを目にしていた。そして、またそのショーが始まろうとしていた。
「おいでなすったな。『赤錆色の霧』とやら」
赤錆色の霧が晴れ、その向こうから巨人が姿を現す。巨大な左腕を持つ、深紅の巨人。二つ眼に宝冠を被ったような頭部。女性的なボディラインを持つ一方で、その特異な左腕が激しく主張している。まるで巨大なハンマーのようだ。
自分のカラダほどもある腕をぶら下げて、その巨人は走ってきた。
「おいおい、大怪獣バトルに巻き込まれるのは勘弁――って、おっとぉ!」
瓦礫の中を跳躍し、鉄腕は再び服飾店の影へ。すんでのところで身を隠した。
そして次の瞬間には、例の赤錆色の巨人が突っ込んできた。巨大な左腕を振りかぶり、さらには腕から三本の鉤爪を展開。その切っ先を首なしへと突き立てた!
「ハハッ! いいぞ! どこの誰だか知らねえがやっちまいな! 敵の敵なら、飛び入り参加も大歓迎だ!」
鉄腕もそう言ってはやし立てた。
だが――
刹那、再び深い霧が噴出。デュラハンは両腕を大きく開くと、背中のフィンから白い煙のような霧を散布したのだ。
とたんに視界がゼロになる。衝撃の名残とでも言うべき残響が響くが、視覚では捉えられない。衝撃波と、音が聞こえてくるきりだ。爆風と音圧が鉄腕の耳をつんざき、トレンチコートをはためかす。
――やったのか……?
鉄腕は内心そう思い、しかし思ったところでそれが《《フラグ》》であることに気づいた。
フラグはまもなく回収される。深い霧の中から、再び衝撃波。烈風が吹きすさび、鉄の塊同士が炸裂しあう。風は霧を引き裂いて、ついにその全貌を明かした。
「おいおい、ウソだろ……」
開いた口がふさがらなくなった。
彼女の目の前。晴れた霧の先にいたのは、直立不動の首なしの巨人。そして仰向けになって倒れる赤錆色の巨人だったのだ。
――おい、光の巨人あやうしってか?
鉄腕は思わず身じろぎした。これで二体ともぶっ倒れれば、彼女としてはありがたいが。だが、そうなるはずがない。
すると次の瞬間、また霧が満ち始めたのだ。それは赤錆色の霧ではなく、また白い霧だった。霧は首なしを取り囲み、三度巨影をかき消していく。
やがてその霧が晴れたとき、首なしの巨人はどこにもいなくなっていた。
しばらくして、また赤い霧が満ちて、あの巨人も消えていった。鉄腕はその一部始終を、荒れ果てた路地から見上げていた。
警察がやってきたのは、すべてが終わってからだった。等身大の人間には、この巨人同士のプロレスを眺めることしかできなかった。警察も警察で、現場検証とは名ばかりの調査をして、その場を去っていった。結局、彼らにも何もできないのだ。
ただ一人、彼女をのぞいては……。




