第5話:『10%の攻防 〜火種と精密のファーストバトル〜』
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第5話:『10%の攻防 〜火種と精密のファーストバトル〜』
「第一結界、前へ出ろ。対戦組み合わせは――レイズ、シグルドペア。対、アックス、ランドペアだ」
バルドル教官の気だるげな声が響くと同時に、教室の床に描かれた魔導円陣が青白く光を放ち、周囲の空間を物理的に隔離した。簡易結界に囲まれた戦闘エリアの広さは、およそ十メートル四方。
対面には、筋骨隆々とした体躯の少年アックスと、眼鏡をかけた知的な雰囲気の少年ランドが不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「おいおい、名門の天才シグルド様が、よりによって『底辺の火種』なんかと組むとはな。魔力制限10%の戦いじゃ、そんな燃費の悪い炎、一発撃ったらガス欠で終わりだぞ!」
斧のような形の杖を肩に担いだアックスが、ゲラゲラと笑う。彼の属性は『風』。そして隣のランドの属性は『土(砂岩)』。炎を吹き飛ばし、氷を砕くには絶好の相性だ。
「……耳障りだぞ、雑種。お前たちのその浅薄な思考ごと、ここで凍りつかせてやろう」
シグルドは表情一つ変えず、白銀の魔冷銃を構えた。
「おいシグルド、作戦は午前中と同じだ。お前が道を作れ。俺がブチ抜く」
レイズは木製の安物の杖を両手で強く握り締め、腰を落とした。魔力の残量は制限結界のせいで、いつもの一割しかない。ほんの少しでも魔力の制御を誤れば、その瞬間に魔法が霧散して敗北が決まる。
「始めろ」
バルドルの冷淡な合図と同時に、相手ペアが動いた。
「吹っ飛べ! 『突風刃』!」
アックスが風の刃を鋭く放つ。同時にランドが床に杖を突き立てた。
「『砂岩の壁』!」
風の刃がレイズたちの視界を遮るように吹き荒れ、その背後から強固な砂岩の防壁が迫ってくる。風でこちらの出方を牽制しつつ、土の物量で押し潰す、完璧な連携だ。
「フン、お粗末だな。……『氷千本』」
シグルドが魔冷銃の引き金を冷酷に引いた。
放たれたのは、わずか三本の氷の針。しかし、その針は驚異的な速度とミリ単位の精密さで、アックスが放った『風の刃』の最も魔力が薄い『結び目』を正確に射抜いた。
パンッ、と乾いた音がして、大火力の風の刃が霧散する。
「なっ……風の魔力構造を見切って、最小限の冷気で相殺しやがった!?」
アックスが戦慄する。しかし、その背後からランドの『砂岩の壁』が容赦なく2人に迫っていた。まともに喰らえば結界の外に叩き出される。
「レイズ、私の氷の防壁では、10%の魔力ではあの質量は防ぎきれん。どうする」
「へっ、防ぐ必要なんてねえよ! 横に避ける魔力すらもったいねえ!」
レイズは一歩前へ踏み出し、シグルドの背中から飛び出した。
木製の杖の先端を、迫り来る砂岩の壁の『一点』へと突き出す。
「魔力を……限界まで絞れ……! 散らすな、針の穴を通すように集中させろ……ッ!」
レイズの脳内で、午前中のスフレ作りの感覚が蘇る。あの時、ボウルの底を焦がさないように、魔力を極限まで細く絞り込んだ、あの感覚だ。
ボウッ、と杖の先から放たれたのは、火球ではない。
ガスバーナーの青い炎をもっと細く、鋭くしたような、凝縮された『熱の針』。のちにレイズの代名詞となる『一点集中』のプロトタイプだった。
キィィィィィンッ!
激しい金属音が教室に響き渡る。
レイズの超高温の熱の針は、ランドが創り出した頑丈な砂岩の壁の、ちょうど中央の結合部をピンポイントで焼き切った。超高温によって岩石の成分がガラス化し、脆くなった瞬間、
パキィィィンッ! と、巨大な砂岩の壁が真っ二つに割れた。
「バカな!? 俺の岩の壁が、あんな弱々しい火種に……!?」
ランドが驚愕で目を見開く。
「しまっ――」
壁が割れたことで、無防備になった相手ペアの姿が露わになる。
レイズの残りの魔力は、もう本当に微々たるものだ。だが、それは隣の氷の天才も同じだった。
「これで終わりだ。『氷弾』」
シグルドの魔冷銃から、弾丸のような冷気の塊が二発、正確無比に放たれた。
壁が破られて動揺していたアックスとランドの胸元に、冷気の弾丸が直撃する。凄まじい衝撃により、二人の体は簡易結界の境界線へと勢いよく吹き飛ばされ、そのままエリア外へと転がった。
『勝者、レイズ・シグルドペア』
バルドルの端末から機械的なアナウンスが流れると同時に、エリアを囲んでいた青い結界がスゥッと消滅した。
「はぁ、はぁ……! 綺麗に決まったな……!」
レイズは杖を突き立て、荒い息を吐きながらも、勝利の快感に顔を歪めて笑った。
「……私の精密なアシストがあってこそだ。お前の炎は相変わらずギリギリの出力で、見ていて冷や冷やする」
シグルドは魔冷銃をホルダーに収め、フンと鼻を鳴らした。だが、その額には薄っすらと汗が浮かんでおり、彼もまた限界まで魔力を使い切ったことが見て取れた。
教壇のバルドル教官は、二人の姿を見て、初めてわずかに口元を吊り上げた。
「魔力を無駄に散らさず、相手の構造の弱点を突いた。10%の魔力制限の意味を理解したのは、今のところお前たちだけだ。……おいレイズ、シグルド。これを持っていけ」
バルドルから放り投げられたのは、鈍く光る二枚の金属プレート。
学園の購買部で、最高級のパーツや魔石と交換できる『杖のカスタムパーツ引換券』だった。
「よっしゃあああ!!」
レイズは引換券をガシッと掴み、歓喜の声を上げた。これで、この量産品の木製の杖を、ついに自分の炎に合わせた『バーナー型』へと改造するための素材が手に入る。
最悪の出会いを果たした二人の不協和音は、学園初の模擬戦において、圧倒的な『勝利』という形の実績を刻み付けたのだった。
(第5話・了)
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