第4話:『至高の学食と、実戦魔法学の洗礼』
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第4話:『至高の学食と、実戦魔法学の洗礼』
「う、美味すぎる……! なんだこれ、肉が口の中で溶けるぞ……っ!」
アカデミー中央街区にある巨大な『学園第一食堂』。
レイズは目の前に鎮座する、湯気を立てた特大の『迷宮猪の厚切りステーキ』を頬張り、感動に震えていた。
初クエストで手に入れた銀貨25枚。その一部を容赦なく叩き込んで注文した、一般の店なら金貨が飛び交うレベルの極上魔獣肉だ。噛み締めるたびに、上質な脂と濃密な魔力が体に染み渡り、疲弊した細胞が急速に回復していくのがわかる。
「相変わらず品のない食べ方だな、レイズ。見ているだけで胃がもたれる」
正面の席で、ナイフとフォークを優雅に使いながら『特製冷製ジュレサラダ』を口に運んでいるのは、当然シグルドだった。
「二度と組まない」と言い放ったはずの2人だが、同じタイミングで魔力を枯渇させ、同じタイミングで極限の空腹を迎えた結果、気がつけば同じ学食のテーブルを挟んで向かい合っていた。
「うるせえ、美味いもんを美味そうに食って何が悪い! ってかシグルド、お前そんな草ばっかりで足りんのかよ?」
「これには魔力を一時的に活性化させる薬草が練り込まれている。ただ胃袋を満たすためだけに金を払うお前とは違う。……それに、これでも銀貨8枚だ。午後の講習の前に、無駄な出費は避けたかったのでな」
シグルドが冷ややかに微笑む。
そうなのだ。この学園は飯を食うのも、日々の生活もすべてが「金(報酬)」だ。稼いだ分だけ良いものが食え、良い環境が買える。その残酷で最高なシステムを、レイズは今、胃袋で実感していた。
「……ん? 午後の講習って、確か『実戦魔法学』だったよな。座学だろ? 出費なんてあるか?」
レイズが首を傾げると、シグルドは呆れたようにため息をついた。
「本当に何も調べていないのだな。あのアカデミーのバルドル教官が、ただ椅子に座って教科書を読むだけの生ぬるい授業をすると思うか?」
―◇―
その懸念は、大講義室に足を踏み入れた瞬間に現実となった。
「よし、全員揃ったな。席につけ……と言いたいところだが、机も椅子も片付けてある。そこに立て」
教壇の前に立つバルドル教官の背後。いつもなら黒板があるはずの壁には、びっしりと【各種属性の相性表】と、不気味に明滅する【魔力量の測定魔石】が埋め込まれていた。
教室の床には、いくつもの四角い円陣――『簡易結界』のラインが引かれている。
「これから『実戦魔法学』の第1回講習を始める。テーマは『魔力コストと属性干渉』だ」
バルドルは手元で一冊のノートを弄びながら、生徒たちを冷たく見下ろした。
「魔法とは『イメージの具現化』だ。だが、それには必ず『魔力』というコストがかかる。強い魔法、派手な魔法を使えば、それだけ魔力は一瞬で消える。そしてお前たち新入生の魔力量は、今ここにいる全員が『どんぐりの背比べ』だ。シグルドのような名門の天才だろうが、レイズのような底辺の火種だろうが、現時点での最大魔力量は大差ない。強くなればなるほど最大値は増えていくが、今はまだ全員が『一発の特大魔法でガス欠を起こす燃費の悪いデクの坊』だ」
バルドルの言葉に、数人の優等生が不服そうに顔をしかめるが、シグルドは静かに自分の手を握り締め、反論しなかった。午前中のスフレ作りで、自分の魔力の限界を身を以て知ったからだ。
「だからこそ、重要になるのが『属性』と『カスタム』だ。我が校には腐るほど多くの属性を持つ生徒がいる。火、氷、風、土、果ては重力、音、結晶……。これらは互いに干渉し合う。そして、その干渉を『最小の魔力コスト』で効率的、かつ殺傷能力を高めるために、お前たちは己の『杖』をカスタマイズしていく必要がある」
バルドルは突然、懐からいくつかの小さな結晶を取り出し、床に転がした。
「百聞は一見に如かずだ。今から模擬戦闘を行う。引かれた結界の中で、2人1組で互いに魔法を撃ち合え。ただし、使える魔力量は全員一律で『初期値の10%』に制限する。無駄撃ちすればその時点で負けだ」
ざわっ、と教室が揺れた。
魔力をたった1割に制限された状態での戦闘。それは、ただ火球を大きくすることしか考えてこなかったエリートたちにとって、死刑宣告に近い。
「勝ったペアには、学園内の購買部で使える『杖のカスタムパーツ引換券(銀貨20枚相当)』をやる。負けた奴は、明日の朝までこの講習室の床磨きだ」
バルドルがニヤリと笑う。
「さあ、変動制の学園だ。誰と組むかは自由だ。今すぐ隣の奴と交渉して班を作れ」
その瞬間、生徒たちが一斉に動き出した。
「おい、お前風属性だろ? 俺の火と合わせよう!」
「私、結晶属性なんだけど、誰か防御できる人いない!?」
激しいスカウト合戦が始まる中、レイズは迷わず、すぐ隣に立っていた白銀の髪の少年に声をかけた。
「おい、シグルド」
「……なんだ、レイズ」
「パーツ引換券、欲しいよな? 飯代で銀貨8枚使ったんだろ?」
「お前と一緒にしないでくれ。私はただ、床磨きなどという屈辱的な雑用を避けるために、確実に勝てる手駒を選びたいだけだ」
シグルドはフンと鼻を鳴らし、魔冷銃の銃身を愛おしそうに指でなぞった。
「午前中の仕事で、お前の未熟な炎の『燃費』と『最高温度』は把握した。私の氷のイメージを重ねれば、10%の魔力でも、相手の魔法結界を最小コストで『ヒビ割れ』させられる」
「へっ、言うねえ天才様。俺もお前の精密な氷のおかげで、どこに火を集中させりゃいいか分かったぜ」
レイズは木製の杖を強く握り締め、獰猛な笑みを浮かべた。
「よし、決まりだ。バルドル教官! 俺たちの班は、こいつと俺だ!」
不協和音のまま、しかし確かな実力を認め合った「炎」と「氷」のコンビが、学園初の模擬戦の舞台へと一歩を踏み出す。
(第4話・了)
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