第3話:『不協和音のシンフォニー 〜炎と氷の超絶コントロール〜』
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第3話:『不協和音のシンフォニー 〜炎と氷の超絶コントロール〜』
「本当に学園のガキを寄越しやがって……! おいお前ら、ウチの厨房で一歩でもへまをしたら、即叩き出すからな!」
商業区の一角にある老舗洋菓子店『プランタン』。その厨房では、額に青筋を立てた頑固そうな大柄の菓子職人――ボナパルト親方が、レイズとシグルドを睨みつけていた。
厨房の甘い香りと熱気の中に、今回の依頼の主役である、巨大なボウルに入った『魔導幻視スフレ』の生地が置かれている。
「いいか、このスフレは幻の魔獣『ルナ・バード』の卵を使ってる。熱を加えると一気に膨らみ、冷やすと一瞬で凝固する、極めて繊細な生地だ。火が強すぎれば爆発し、冷やしすぎればカチカチの石になる。オーブンじゃ絶対に無理だ。人間の手で、完璧な温度の波を作らなきゃならねえ」
親方は腕を組んでフンと鼻を鳴らした。
「進級ポイントだか銀貨だか知らねえが、生半可な魔力コントロールじゃ、焼き上がる前に炭にするのがオチだ。嫌なら今すぐ帰りな!」
「へっ、望むところだ。おっちゃん、俺の炎をただの火だるまと一緒にしないでくれよ」
レイズは不敵に笑い、腰の木製の杖を抜いた。
「フン……野蛮な炎と一緒にするな。私の精密な氷で、完璧な温度管理を見せてやる」
シグルドもまた、白銀の魔冷銃をスマートに構えた。
「言うねぇ……。よし、調理開始だ! まずは生地の底をじわじわと温めろ! 表面は冷気で優しく覆って、中の蒸気を閉じ込めるんだ!」
親方の怒号を合図に、2人の初めての「共同作業」が始まった。
「まずは俺からだ……! 『一点集中』……ッ!」
レイズは木製の杖を生地のボウルの底に向けると、目を細めて集中した。
彼の魔力量は平均以下。だからこそ、無駄に魔力を散らさない。杖の先端から放たれたのは、細い針のような、極小の、しかし超高温の炎――のちの『バーナー型』の原型となる局所的な熱だった。
じわじわと、しかし確実にボウルの底だけが均一に温められていく。
「ほう……?」親方の目が驚きに丸くなった。「粗削りだが、なんて無駄のない熱量だ。魔力をミリ単位で絞り込んでやがる」
「私の番だ。退いていろ、火種」
シグルドが魔冷銃の引き金を引く。
パシュッ、と静かな音がして、ボウルの表面に、薄い絹のシーツのような、極薄の『氷の結界』が張られた。冷気が生地の表面をやさしく包み込み、中の熱と蒸気を完全に閉じ込める。
「なっ……なんて精密な造形だ! 熱を奪いすぎず、空気の層だけを凍らせてやがる!」
親方は大興奮だが、やっている本したちはそれどころではなかった。
熱と冷気が同じボウルの中で干渉し合っているのだ。一歩間違えれば、炎が氷を溶かして水浸しにするか、氷が炎を消し去る。
「おいシグルド! ちょっと冷気が強えよ! 生地が縮みかけてんだろ!」
「黙れレイズ、お前の炎の熱が浸透しすぎているんだ。お前の出力が不安定だから、私が合わせてやっているんだろうが!」
「んだと!? だったらこれでどうだ!」
レイズはさらに集中を高め、熱の針をより細く、より深く差し込む。
「……っ、ならば、こちらも密度を上げる!」
シグルドの銃口から、さらに微細な粉雪が舞い、熱の膨張を完璧にコントロールする。
「お前火を弱めろ!」
「お前こそ、そこを少し凍らせろ!」
口を開けば罵り合い。目線を合わせればメンチの切り合い。
しかし、その手の内の魔法は、お互いの出力を完璧に補い合っていた。レイズが熱を上げれば、シグルドがそれを察知して冷気で抑える。シグルドが壁を作れば、レイズがその隙間に熱を通す。
最悪の相性(水と油)だからこそ、お互いの魔法の動きが誰よりも敏感に「視える」のだ。
2人の間で、炎と氷が美しい螺旋のシンフォニーを描いていく。
「おいおい……なんだよこいつら、喧嘩しながら、神業みたいなコンビネーションを見せてやがる……!」
ボナパルト親方は、ただただ圧倒されてその光景を見つめるしかなかった。
数時間が経過した。
「……よし、そこまで! 2人とも、魔法を止めろ!」
親方の声と同時に、レイズとシグルドは同時に杖を引き、その場にどさりと膝をついた。体中の魔力を極限まで精密に絞り出したため、全身から湯気が出るほどの疲労感が襲っていた。
厨房の中央には、黄金色に輝き、信じられないほどふっくらと膨らんだ『魔導幻視スフレ』が、美しい湯気を立てて完成していた。
親方はスフレを一瞥し、それから2人の少年を見て、豪快に笑った。
「見事だ! ウチの最高の職人でもここまでの出来にはならねえ! 合格だ、お前ら!」
親方から差し出されたのは、ずっしりと重い革袋。中には、約束通りの銀貨50枚が詰まっていた。さらに学園の端末を確認すると、進級ポイント5がしっかりと加算されている。
「……へへ、やったぜ」
レイズは床に寝そべったまま、銀貨の袋を掲げて笑った。
「これで、杖のカスタムパーツが買える……。今日の飯は、学食の一番高い肉だ……!」
「……汚い笑い方をするな。早くその銀貨を半分に分けろ。私はさっさと帰ってシャワーを浴びたい」
シグルドも肩で息をしながら、ツンとそっぽを向いた。しかし、その綺麗な顔には、どこかやり遂げたような充実感が漂っていた。
「おいシグルド、なんだかんだ、俺たちの相性最高だったな?」
「寝言は寝て言え。二度とお前とは組まない」
お互いに最悪な印象は変わらない。だが、お互いの「実力」だけは、嫌というほど認めざるを得ない初クエストとなった。
(第3話・了)
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