第11話 適材適所
「……お、地盤管理部も来てるのか」
緊急要請がかかり、リューセイたちは本部に来ていた。
周りを見ると副監督のセラの他、地盤管理部のあのワライフクロウとツチブタもいた。
「よく集まってくれた」
天井からぶら下がっていたテラスが舞い降りた。
「地盤管理部を要請した時点で察しがついてるかもしれないが、ひとまずこれを見てくれ」
そう言うと、テラスは前方にある巨大な画面を指した。
その全面には、日本地図が表示されていた。
「これは?」
「まぁ、順序立てて説明するが、まず、フォッサマグナは分かるな?」
「あぁ、本州中央部にある巨大な溝のことだ」
リューセイの返事を聞いたテラスは満足そうに頷くと、続けて話す。
「このフォッサマグナの西、糸魚川周辺を震源地とした大地震が起きる可能性が示唆された。
まだ予測の段階だから今後変わる可能性があるが、予測ではM7〜8、最大震度7近くの地震になるかもしれない」
「あ〜なんてこったジャイアントパンダ……。
すぐ、過去の資料を探してきます!」
そう言うと、セラは大きく翼を広げ、慌てて飛び去っていった。
「具体的にどれくらいの被害が出るんだ?」
「これも確定的な情報ではないが、予測では最も問題視されるのが土砂崩れだ」
テラスの指示に合わせて、画面が切り替わる。
「フォッサマグナ周辺は日本でも有数な山地。
ここで地震が起きれば大規模な土砂崩れ、山の崩壊が予測される」
「また、流れる土砂で川がせき止められる可能性もある。いわゆる天然ダムだ。
その後、止めに止まった水が一気に押し寄せダムが決壊したあと、洪水になる可能性もある」
「要約すると、土砂崩れなどの森林崩壊や、天然ダムによる川の環境変化などが起きる可能性が高い。
……絶対に防がなくてはならない」
テラスの説明が終わった瞬間、辺りに緊張が走る。
ちなみに、普段笑っているワライフクロウのエシュはというと
「フッ、笑えないねぇ……」
タバはエシュを見て呆れていたが、意外にも真面目だった。
「とりあえず、大規模な沈静開始か……」
「あぁ、地盤管理部はいつものように、仮想部でとった成分を分析したあと、その成分と資料を元に沈静を図ってくれ」
「皆、頼んだ」
「了解!」
テラスの言葉を合図に、一同は沈静に向かった。
「なぁ、リューセイ」
テラスが引き止める。
「操作はあれでも、その知識を頼りに現場監督をしてくれ。もちろんこちらでもするが、その場にいるほうが分かることもあるかもしれないからな」
「……分かった、大丈夫だ」
一言だけ告げると、リューセイは本部から姿を消した。
「皆、頼んだ……」
―
〈フォッサマグナ西部で大規模な地震の可能性があります。念のため、山や川の管理部は待機をお願いします。繰り返します―〉
緊急の放送が鳴り響く頃、一同は地盤管理機器の前で待機していた。
「とりあえず、いつも通り仮想部で成分採取を頼む。そのあと、その成分が資料通りかを確認して、それを元に沈静を行う」
地盤管理部の関係者か、アンキロサウルス、カモノハシ、オオアリクイなど、多くの生き物が集まっていた。
「あー沈静始めるのか」
下に視線をやると、一匹のクロオオアリも近づいてきた。
「あぁ、カイか。せっかくなら一緒に仮想部に行くか?」
アンキロサウルスが提案する。
自分では何も役に立たないだろ、とカイはボヤいたが、結局ついて行くことにした。
「あ、それとこいつも連れて行ってくれ」
そう言ってタバが指をさす。
そこにいたのは……
「こいつはライオンのパンテラだ」
パンテラだった。すぐそばにはレオもいた。
「つい最近知ったんだが、どうやらパンテラは岩に詳しいみたいでな。
成分採取のあと震源地の周りを全体的に気になることがないか確認してほしいんだが、パンテラに任すことにした」
「まぁ、詳しいって言ってもほんのちょっとだけどね。成分採取したあとだから、役に立つかは分からないけど」
パンテラはそう言いながらも、どこかやる気に満ちていた。
「そういえば、パンテラって生前でもよく岩の上にいたよな」
レオが言う。
「冷たくて気持ちいいのよ。
本来ならタバたちが行きたいとは言ってたけど、さすがに操作のほうがあるからって頼まれたの」
「というわけだ。皆、よろしく頼む。
仮想部は北緯37度、東経138度付近だ」
その合図を受け、アンキロサウルスやカモノハシたちは仮想部に移動した。
「……やれやれ」
カイもゆっくりと後を追う。
「ここが、フォッサマグナか……」
一同は仮想部に着いた。
わずかな風が吹き、静寂に包まれていたが、その静けさにはどこか不穏なものがあった。
「とりあえず、いつものように俺が地盤を砕いて、その成分を緑等部に渡す」
そう言うと、アンキロサウルスはその棍棒のような尻尾を振り下ろす。
……が
「……これ、割れてないよな……」
仮想部の地盤には傷一つついていなかった。
「そういえば、ここってフォッサマグナの地盤でも特に固いんじゃなかったっけ?」
「……どうしたもんかね。
これじゃ成分がとれない……」
成分採取に来た一同は、黙り込んでしまった。
「何かもっと重いものを振り下ろすことができれば……」
アンキロサウルスがそんな一言を呟いた、そのとき――
「……あ!」
カイが唸った。
「ちょっと待ってて」
そう言うと、カイは緑等部に戻っていった。
「ミーム! ミームどこ?」
カイは辺りを彷徨いながら、やがて前方に横たわるアルゼンチノサウルスを見つけた。
「……カイじゃない。どうしたの」
「頼む! 一緒に仮想部に来て欲しいんだ」
「????」
「無理無理無理無理絶対膝痛めるって!」
駄々をこねるミーム。
「こっちからも頼む。
体重が70トンもあるなら、全体重をかければ地盤に傷がついて成分が取れるかもしれないんだ」
カイやアンキロサウルスがミームに頼み込む。
「……そもそも私が足を振り下ろしたところで傷つくの? ここ硬いんでしょ?」
ミームが尋ねると、アンキロサウルスが説明を始める。
「ここの地盤は確かに硬いが、その分応力が集中していて、硬いのに割れやすい性質があるんだ。ガラスに一点集中した衝撃を与えると全体が割れるような感じだ」
「俺らの力ではさすがに無理だったが、ミームのその前足、特にその大きなツメを使えば、ヒビくらいなら入るかもしれない。
何かあると困るけど、そこは地盤管理部が制御してくれるし、問題はない」
アンキロサウルスの提案に、他の生き物たちも賛同する。
「……いやでも絶対膝痛めるしなぁ……」
ミームはまだ納得できていない様子だった。
すると……
「ミーム、あんたのその体重がやっと役に立つんだぞ? ここで使わないとどうすんだ!
それともなんだ? 今から海に行ってシロナガスクジラを引っ張り出してくるか!?」
その小さな体とは似合わない声量で、カイが叫ぶ。
「……あーもう分かったわよ、やればいいんでしょやれば…!」
ミームはそう言うと、後足に力を込め少しずつ立ち上がる。
「……おぉー、やっぱ高いな」
その迫力に、辺りには驚嘆の声が広がる。
「ミーム、いけ……」
カイの合図がかかる。
「あーもう! しーらない!」
その瞬間
大木のような前足が、勢いよく降りてきた。
ドスンッ!
けたたましい足音とともに、巨大な岩床は地響きを立てる。それと同時に、ミームの身体は轟音を鳴らしながら倒れた。
「……ぁぁやっぱりかぁ」
ミームのぼやきの通りか、膝からわずかにゴキッという音が聞こえたような気がした。
「いってぇ……」
「さぁ、どうだ? 傷はあるか?」
ミームのぼやきを他所に、アンキロサウルスを先頭に、一同は辺りを見回す。
「……あ!」
カイが叫ぶ。
「ここ! ここに小さいけど穴が!」
そこは、ミームのツメが当たったと思われる場所だった。
「よし、ミーム、ちょっと退いてくれ」
「……はいはい」
重い体を起こし、ミームは体をずりながら移動する。
「よし、いくぞ」
その瞬間、アンキロサウルスの尻尾が勢いよく穴に激突した。
「……よし、凹んだ! オオアリクイ頼む!」
バトンを受け、オオアリクイが鉤爪で岩をほじくり出す。小さな岩塊が、ひょこっと顔を出した。
次の瞬間――
アンキロサウルスの尻尾が振り降り、岩は砕かれる。その破片を、カモノハシの平たいクチバシがすくい上げ、カプセルに入れた。
「緑等部に頼んだ!」
ニホンザルがカプセルを掲げると、その上空をヘビクイワシが通過する。
カプセルの姿は、消えていた。
「お、きたか」
タバが呟いたその瞬間
「キングコブラ!」
白い光からヘビクイワシが表れ、カプセルをぶん投げる。
それを受け取ったキングコブラは、分析機器にカプセルをはめた。
「……毒入っちゃったかも」
「大丈夫だ。毒の成分を抜いて確認すればいい」
タバの返答に、キングコブラは安堵する。
「よし、パンテラ、とりあえず周りを走って違和感がないかだけ確認してくれ。特になければ問題はない」
「りょーかい」
仮想部でパンテラが伝言を受け取った。
「でも、俺もついて行っていいのか?
いても邪魔になるだけだと思うけど……」
パンテラのそばにいるレオが不安げに尋ねる。
「別に本部から許可取ってるから大丈夫よ。
ねぇ、テラス」
「あぁ、ついて行くだけなんだから別にいいよ」
ワープバンドから微かにテラスの声が聞こえる。
「ね? 大丈夫でしょ?
それに……」
「そばにいてくれると、安心する」
「……そうか」
レオの表情から、緊張が消えた。
「よし、じゃあ合図するから、確認頼んだ」
アンキロサウルスはそう言うと
「よーい、ドン!」
号令がかかる。
その瞬間、二匹のライオンが一目散に駆けていった。
ちなみに……
「……体重70トンも役に立ったな」
カイはミームのそばで小さく呟いた。
はぁ、と。ため息をつきながらも、ミームの体は抜け殻のように力が解けていた。
「……よし、成分は資料と一致してるな」
緑等部では、タバが採取された成分の分析結果を確認していた。
「とりあえず、もう沈静を開始する。
何か気になることがあれば、パンテラが言ってくれるだろうしな」
その言葉を聞いたエシュが、一つ提案をする。
「……じゃ、一応言っとくか?」
「そうだな」
返答を聞いたエシュは、一息飲むと――
「自然は?」
「自然に」
静かに、号令がかかった。
「沈静開始!」
まだ、大地が怪しげに眠っている頃、二匹のライオンが、並行に駆けていた。
「また、パンテラとこうやって一緒に走れるとは思わなんだ」
走りながら、レオが小さく呟いた。
「そういえば、レオってオスなのによく狩りに参加してたよね」
「まぁ、うちの群れはオスが三匹いたから、余裕あったしな。俺割と狩り嫌いじゃなかったし、動きたい性分だったからな。仲間と一緒にいたかったし」
「私とも、一緒に狩りしたね」
「あぁ……」
数秒の間。
「……レオ」
「なんだ?」
「……ありがとう」
「……こっちこそ」
そよ風の音だけが聞こえる静かな環境は、まるで、二匹のために用意されたかのようだった。
「……しかし、ホントに疲れないんだな」
レオが囁く。
「この世界では疲労はほとんど関係ないみたいね。
食事も必要ないし……ん?」
二匹が走り出してから三分ほど経過したそのとき、パンテラの足が止まった。
「どうした?」
「あれ、見て。なんか緑っぽくない?」
「タバ、聞こえる?」
ワープバンドから、パンテラの声が聞こえる。
「あぁ、どうした?」
「ねぇ、ちょっと見てほしいんだけど、あの岩のとこ、少し緑っぽくない?」
「緑?」
モニターに、パンテラたちがいる場所が映し出された。
「……確かに緑っぽいような」
「あれって、ヒスイ輝緑岩か?」
モニターに近づいて、エシュが言う。
「ヒスイ? そんなの資料に書いてたか?」
タバはそう言って、もう一度資料を漁る。
「……ホントだ、見落としてたわ」
「……笑えないねぇ!?」
「あぁ…ごめん」
まさかのエシュに怒られた。
「ヒスイってダイヤモンドに勝るくらい硬かったよな。操作も少し気をつけないとだよな?」
現場監督をしていたリューセイが聞く。
「あぁ、硬いってことは崩れた時の影響も大きいし、より慎重にしないとかもな」
「パンテラ、お手柄だ。よくやった。
もうあとは適当に回ったあと戻ってきていいからな。お疲れ様」
タバはそう言って、再び機械に触れる。
「じゃあ、そろそろいこうか」
タバの指示を受け、二匹のライオンはゆっくり歩き始めた。
「リューセイどうだ? そっちから見て」
「今のところは順調だな。
ゆっくりだが、プレートの動きも悪くない」
それならよかったと、テラスは返す。ワープバンドからだが、本部にも緊張が走っている様子が感じられた。
「……しかし、これであってんのかね」
急にタバがさりげなく言い出した。
「自然は自然に、と言いながらも、結局は操作してる。これは管理部に就いてるやつなら誰もが疑問に思うこと」
数秒の間。
すると、となりのエシュが話し出す。
「俺らも分からん。分からんが、この機械は元々ここにあったものだ。それなら、使ってやるのが自然の摂理ってもんだろ」
「……みんな、地球が好きなんだ」
いつにも増して、真面目に語るエシュ。その大きな瞳には、ゲラとは思えないほどどっしりとしていた。
「……そんなもんか」
タバが呟いた、次の瞬間――
ボンッ!
機械が、唸り声を上げた。
「……ん?」
レバーを引く、が……
「……おい、動かないぞ」
「なんだ? 故障したのか?」
リューセイが尋ねる。
「……年季入ってたからなぁ」
「はーー笑えなーい」
どのボタンを押しても、どのレバーを押しても、機械に応える様子は見えない。
「何!? 機械が故障!?」
本部から聞こえた声からも、焦りが見える。
慌ててセラが、マイクに口をやる。
「えーマイクチェックマイクチェック、ア゛ーア゛ーア゛ー!……」
〈緊急です! 地盤管理部の管理機器が故障しました。至急、修理が可能な生き物は、工具を持って地盤管理部に向かってください!繰り返します―〉
セラのアナウンスが、大音量で響き渡っていた。




