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【完結済】死んで辿り着いたのは生き物たちが自然を"ちょっとだけ"管理する世界でした(イノセントワールド)  作者: GOLD
第四章 気づかなかったもの

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第10話 何もできない

 優しく波打つ浜辺、そんな広々とした場で、二つの巨体がぶつかり合っていた。


「リラ、リラ待ってくれ」


「……別に私が返す言葉に変わりはないわよ」


 姿を消そうと、リラは浅瀬に潜ろうとする。


「待てって」


 アマチの言葉が、リラを止める。


「……何が言いたいの」


「俺に、俺にできることは……」


「あんたそればっかりね」


 リラの口調はどんどん激しくなる。


「言ったでしょ。セイウチとステラーカイギュウは違うって。アマチにできることはないの」


 アマチは少し考えた後


「……リラが工具を扱えるようになったのって、海藻と遊んでて、ひれが器用になったからだったよな。それをこんな使い方して……」

「……なんで改造なんかしたんだ…?

人間の都合がいいように、自然操作されたくなかったのか?」


「……私にも分かんないわよ」

「理由がないことだってあるでしょ…!」


 リラは振り向くと、尾びれをどっしりと置いた。


「あんたは、何かしたいと言っておきながら、結局何もしてないじゃない」

「そりゃそうよ、あんたにできることは何もないんだし……」


「……そんなこと……」


「うるさい!」


 怒声が飛び出る。


「あんたもそう、他のステラーカイギュウもそう。

みんな何もしない、だから私はしてやった!」

「誰かが……しないといけなかった……。

そうじゃないと、何も変えられないから……」


 そう言うと、リラの身体は浅瀬に沈む。


「ま、待て……」


 アマチの声に反復するように、リラの尾びれは唸りを上げ、その巨体は砂煙に紛れて消えた。


「………………」


 後を追おうとするも、アマチはそれを辞め、ボソボソと呟き始める。


「……なんで……なんでリラだけこうなんだ」

「他のステラーカイギュウは、こんな事してない」


「…………」


 アマチは去ろうとする。

その刹那、言葉を落とした。


「……そうか、何もできないんだな」

「何もできないから、何もしてない。

俺等にできることは、何もないんだ……」


「…………っ」


 アマチは一度振り向くが、辞めた。

セイウチの気配は遠ざかっていった。


「…………何も、できない……」


 そう囁くと、リラはひれに持つ工具箱を眺める。


「……でも、私はもう……戻れない」


 スッ……


 ひれから、工具箱が離れる。

箱はふわりふわりと舞いながら、岩にぶつかり、やがて地の底に着いた。


「……………」


 波は、静かだった。



「リューセイはね、普段何も言わないけど、誰よりも責任感は強い」


 腰を下ろしたミラは、静かにリイの言葉に耳を傾ける。


「子育てのとき、私が動きにくくなっちゃったから、代わりに餌や巣の材料を取りに行ってくれた」

「群れるタイプではないけど、私のことはすごく気にかけてくれてたし、あんな感じで意外と子供は好きだったのかも……」


 ミラはじっと聞きながら


「……余計な事しちゃった」


 そう呟いた。


「余計な事?」


「あんなに激しいリューセイ初めて見て、何とかしないとって思って……でも、余計に傷つけちゃった」

「そもそも僕が聞かなければ、こんなことなってなかった……」


 すると……


「……リューセイは、ミラくんのこと結構気に入ってたよ」


「………?」


――回想――


「リューセイとよく一緒にいるあの子、ミラくんだっけ?どんな子なの?」


「なんだ急に」


「ちょっと気になって」


「ん〜……無邪気で、陽気で、天然で、俺のペースとは全く合わないな」


「なのに一緒にいるのって、もしかしてユキちゃんとちょっと似てる?」


「どうだろうな……まぁ子供っぽいとこは似てるかも知れんが……」

「……なんと言うか、ペースは合わないけど、気にはなるんだよな……」


――現在――


「私にもあんまり話してはくれなかったけど、気にはしてるみたいよ」

「ユキちゃんと重ねたのかもね。

白くてふわふわしてるし、外見の話だけど……」


 しばらく聞いていたミラは、ゆっくりリイに抱えられているユキに視線を向ける。


 そして……


「……このままじゃ嫌だ」

「僕はリューセイが好き。

色んなこと知っていて、みんなに慕われていて、ちょっと素っ気ないけど、ホントはすごく優しくて……」

「僕は、そんなリューセイが好きだから……。

リューセイが僕を気にしてくれているなら、僕だってリューセイを気にしていたい」

「ちゃんと謝って、話を聞いて……。

……うん、ちゃんとリューセイと話したい」


「……私も、行く」


 ミラとリイは重い腰を上げ、リューセイを探しに、ゆっくりと歩いていった。






「……………」


 リューセイは気配のない場所で、ワープバンドで現実世界を眺めていた。

そのとき、遠くから近づいてくる二つの影が見えた。


「…………っ」


 リューセイは立ち上がると、まるで威嚇の合図かのごとく、指差し棒を向ける。


「リューセイ……」


 ミラは慎重に一歩一歩近づいていく。


 リューセイは、ハァハァと、そう小さく息切れしながらも、逃げるような素振りは見せなかった。


「リューセイ……ごめんね……。

でも、僕は……」


 ミラが話しかけた途端


「……何度来ても同じだ」

「見てわかるだろ…!? 今の俺は大丈夫じゃない」


 ミラの背後からゆっくりリイが見えた。


「……リイ」


「リューセ――」


「話さなくていい……!」


 リイの言葉を、反射で遮る。


「……リイは悪くない。

悪いのは全部俺だ」


「そんなことない」


「そんなことある……!」


 リューセイが否定する。


「リイを巣に残し、俺は餌を取りに行き……。

……助けられなかった」

「俺は、あのとき守れなかったから……。

それで、自然操作は怖いから……」



「……だから、だから俺には自然管理――」


 リューセイが言った、その瞬間だった。

荒ぶるリューセイの言葉を止めたのは――


「…………ユキ……?」


真っ直ぐ伸び、少し上を向いている指差し棒の先端には、小さく、ふわふわした小鳥の姿があった。


「……ユキ? 何してる?」


 リューセイが聞いてから数秒が経過した、そのとき――ユキのくちばしが開いた。


「…………パパ」


「……っ!?」


 パパという二文字だった。


「……パ、パ……?」


 リューセイの膝が徐々に下降する。

指差し棒が落ちたとき、ふわりと舞い降りたユキを、リューセイはじっと見つめる。


――そのとき、リイがゆっくり近づいてきた。


「この子にとって、リューセイはもうパパなのよ」


「……俺が、パパ……?」


――回想――


「まだ幼い頃に来た子たちだから、親の顔を覚えてない子たちも多いの――」


――現在――


「……リューセイはずっとユキちゃんを気にかけてたでしょ……?

それで、親だと思うようになったんじゃないかな」


「……親……?」


 どうしたの? と言わんばかりに、ユキは首を傾げ、つぶらな瞳でリューセイの顔をじっと見つめていた。


 すると、リイは座っているリューセイにそっと接近する。


「……ごめんなさい……辛かったよね……」


 同じ高さになったリイは、夫の肩に、そっと前肢(ぜんし)を回す。


「リューセイはすごく頑張ってた。

誰にも弱いとこを見せなかった」

「エドモントサウルスのことを逆恨みすることもなかった……」

「……リューセイは、何も悪くない……」


 リイの腕が、優しく夫を包む。


「大丈夫……大丈夫……」


「……あ゛ぁ……」


 リューセイの身体は、妻に委ねるように力が抜けた。


「……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……!!!!」


 喉が張り裂けるような声が、リューセイから飛び出す。

出るはずのない涙が、零れているように見えた。


「……ごめん……ごめん……」

「走っても届かなかった……。

何もできなかった……っ」

「……家族を、守れなかった……っ」


「……ごめんなさいっ」


 ミラは、ただ遠くで眺めることしかできなかった。

その手のツメには、引っ掛かっている切り紙が垂れ下がっていた。


 力が抜け、地に顎を置くリューセイ。


「……ユキが、俺をパパに戻してくれたんだな……」


 ユキはまだ、可愛らしく首を傾げていた。


――数分が経過した。


 場が落ち着き始めていた、そのとき


「あのー……」


 リューセイの控えのコウモリが、エコーラインを差し出した。


「こんなときになんですが、本部から緊急のお電話です……」


「……空気読めヒキコウモリ」


 いつもの調子に戻ったリューセイは、めんどくさそうに対応する。


「……はいはい、どうしたんだ?」


 リューセイが尋ねた、その刹那――


「おい、今すぐ本部に来てくれ!急げ!」






「フォッサマグナが……!!!!」

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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