第12話 合唱
「どうする? ラフに直してもらう?」
タバの提案に、リューセイは残念そうに言う。
「いや、新管理部はあくまで新しい機械を手当たり次第に作ってるだけだから、既存の機械の中はほとんど知らないんだ。さすがのラフでも無理だと思うぞ」
「じゃどうすんだ?
放送を聞いたやつが来るのを待ってるしかないのか?」
「……そうなるかもな」
機械が作動しない以上、何もできない。
一同が途方に暮れていた、そのとき――
遠くから、聞き慣れない音がした。
まるで、何か大きいものが、這うような……
「…………ん?」
その正体が少しずつ見えてきた。
そのとき、リューセイが言った。
「……リラ?」
大きく身体を揺らし、近づいてくるのは、リラだった。
そして、その大きく平たい口には、わずかに湿った工具箱があった。
リラは機械の前に来ると、慣れた手つきで工具を取り出し始める。
「リラ、どうしてだ?」
リューセイが問う。
リラはややめんどくさそうに返事した。
「私は機械を改造したのよ?
修理くらいお茶の子さいさいよ」
工具を握り、管理機器の扉を開ける。
「……あら、見えない」
「見えない?」
「んー暗くてよく見えないわねぇ……。
ステラーカイギュウそんなに視力よくないのよ」
確かに、機械の内部は複雑で暗く、確認がしづらかった。
「さすがに見えない中修理はやりにくいわね……」
「せめて内部の様子が分かればいいんだ――」
そう言いかけて、リューセイは目線を右下にやる。
そこには、仮想部から帰ってきた一匹のクロオオアリがいた。
「あーもう、巣穴より全然暗いぞ!」
そう叫びながら、カイは機械の中に入っていく。
「頼むよ。中さえ分かれば感覚で修理できなくはないから」
「ふん、アリ使いの荒いやつらだな!
だがな、見える、見えるぞ。俺にとっては城みたいなもんだ」
一歩一歩。小さく細い足が、奥へ奥へと入っていく。
「……んで? 俺機械詳しくないんだけど、どうすればいいんだ?」
「どこがどうなってるかだけ教えてもらってもいい? ケーブルがどうなってるとか、ネジが外れてるだとか」
「……はいはい」
その様子を見ていた、リラが、一つ質問する。
「でも、こんなに暗いのに中見えるの?」
カイが呆れて返す。
「俺はアリだ。普段から暗い巣穴の中にいるし、視力は低いが触覚で辺りを探れるから、こういうのは慣れてる」
「……あ、ここケーブルとれてるぞー」
「オッケー」
そう言って、リラはペンチを突っ込んだ。
「おい!
危ないなぁ、俺に当たるとこだったぞ!」
中から叫び声が聞こえる。
「気をつけろよ! 俺にとってはその金物も鈍器なんだからな! ……どわっ!?」
カイの文句が聞こえるが、修理は進んでいるように見えた。
「……大きい工具じゃ取りづらいなぁ……」
リラが呟いた次の瞬間……
「おーい」
声の聞こえた方を見ると、二つの影が見えた。
大きな白い者は駆け、黒い物は羽ばたいて近づいてくる。
そして羽ばたきは止み、その黒い足が、管理機器の手前で止まった。
「アオイ!? どうした?」
リューセイが聞くと、アオイはやや慌てながら話し始める。
「もし修理するなら、工具は多いほうがいいと思って……。新管理部に細かい工具とかあるから、もしかしたら使えるかもって……」
「ふん、さすが腐ってもカラスだ。頭が切れる」
アオイと一緒に来たラフも、腕を組んで言う。
「使えるか分からないけど……」
「ううん、ありがとう。
ありがたく使わせてもらうわ」
細い工具たちを受け取ったリラは、修理を再開する。
気の所為か、先程よりもその手つきはスムーズに見えた。
――そして
「よし、これでどう?」
リラが機械の扉を閉める。
と同時に、タバが起動ボタンを押した。
……ピピ、ピピピッ!
モニターに、明るさが戻った。
「直ったぞ!」
辺りに歓声が上がった。
「よし、沈静再開だ」
エシュとタバは、定位置に戻る。
「カイ、ありがとな」
「……フッ」
リューセイが言うと、カイは小さな体を持ち上げ、満足そうに腰に腕を置いた。
「リラ……」
工具をしまい、去ろうとするリラをリューセイが引き止める。
「ありがとう」
「………ㇷ」
振り返らず、リラは去っていく。
ずりずりと……大きな身体は、段々と遠のいていく。
「…………ぁ」
リラは急にヒレを止めた。
その目の前には……
「…………リラ……」
アマチがいた。
ペチペチと、ヒレの音を立てながら、リラの元に近づいてくる。
「リラ、どうして直したんだ…?」
直球でそんな問いを投げかけた。
「…………私にも分かんないよ……」
数秒の間。
「……アマチ」
「……なんだ?」
「……他のステラーカイギュウは、何もしてないのよね……」
「ん? あぁ……」
少し膠着したリラは、小さく口を開いた。
「……私だって、何もしてない……」
「何も、したくなかった……」
そう言って、リラの顔は下を向いた。
少し考えるアマチ。
「……俺は、何もできなかったな……」
ゆっくり、リラは顔を上げる。
「すまんな、何もできなくて……」
「…………」
「……別に、ほっといてって言ったのはこっちだから……」
アマチは少し近づいて……
「リラの言うとおり、セイウチとステラーカイギュウは違う……」
「違うけど、これだけは言いたい……」
一呼吸置く。
「リラは、何も悪くない」
「…………」
固まるリラ。
「リラも俺も、何かしたかったんだよな……。
……でも、何もできなかった」
「それでも、できることを探して、動いて……自分に、素直になった」
「リラは、自分を直したんだよな」
「……………っ」
数秒の間が過ぎたその瞬間、アマチの声色が一段と高まる。
「よく踏みとどまった!」
「……あ゛ぁ……あ゛ぁ……」
次の瞬間
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ……!!!!」
初めての哭声が、小さな空間に響き渡る。
その声に応えるように、アマチはリラの背中に優しく乗る。
ペチンッ、ペチンっと、あやすようにゆっくりヒレで背中を叩いた。
「…………俺、何かできたかな……」
ヒレの優しい音色は、しばらく辺りに流れていた。
―
「……もう少し、太平洋のほうを抑えたほうがいいんじゃないか?」
「了解」
正気を取り戻した機械。
さすがプロといったところだろうか、沈静は少しずつではあるが、順調に進んでいた。
「本部から見ても異常はなさそうだぞ。
いい兆候だ」
テラスの声にも、不安感は見えなかった。
「…………うん」
ノートに経過を書き記しながら、リューセイは後ろで様子を見ていた。
……だが、そのとき――
(……ん?)
何かが見えた。
(北米プレートが……!?)
「おい、北米プレートがさっきよりきてるぞ!」
「え!?」
先程、スピードを抑えたはずの北米プレートが、予測よりも迫っていた。
「ちょっと待てよ、今離したら他のプレートが……」
エシュもタバも、他のプレートや地盤の操作に手がいっぱいの様子だった。
(このままいったら予想外な事態に……)
震える手。早まる呼吸。
……だが、足だけは、少しずつ、前へ前へと体を引っ張った。
ガチャッ!
「…………?」
「………お?」
「ハァ……ハァ……」
管理機器のレバーが引かれた。北米プレートを抑えるレバー。
その、レバーに触れていたのは……
知的で、スラッとした肉食恐竜だった。
「……リューセイ?」
北米プレートは、抑制されていた。
「……リューセイ、いけるのか?」
ワープバンドから、テラスの声が聞こえる。
「……分からない……」
その様子を見てか、エシュが話しかける。
「一応俺らも手が増えたほうがありがたいんだけどな」
リューセイの口から、息はまだ激しく出ていた。
そこで、タバが提案する。
「じゃあ、今みたいに危なくなったときに手助け頼んでいいか? 二匹じゃどうも限界がありそうでな」
「日本ってプレート多いもんな」
エシュも同意のようだ。
「もちろん、無理なら断ってくれ」
リューセイは思わず、後ろに振り向く。
そして、下に視線をやると……
「…………ピピ?」
じーっと見つめる、ユキの姿があった。
「リューセイ……」
リイも、不安ながら、名前を呼ぶ。
数秒、考えた後……
「…………わかった」
リューセイは承諾した。
「よっしゃ! これでだいぶ楽になるぞ!」
エシュの調子が、一気に上がった。
「ホントに少しで大丈夫だからな」
タバが言うと、エシュも乗っかる。
「そうだぞー。間のピースをはめてくれるだけでありがたい。世の中そんなもんだ。よく言うだろ?
生きてるだけで丸儲けってな」
エシュがそう言うと
「……俺ら生きてないけどな」
「……すみませんでした」
……そうして、時間が経ってゆく。
「もう少しだけ進めて……」
「……その調子。ゆっくりだ……」
テラスの補助の声、周りの小さな声援。
沈静が進む事に、リューセイの手は少しずつ微動が収まっていく。
数分が経過した。
「……よし、調整完了かな。
常に抑えていたおかげで、プレートの速度もゆっくりだ」
そう言って、エシュは調整完了ボタンを押そうとする。
しかし……
「……大丈夫、なのか……?」
リューセイが呟いた。
「俺が手を付けた調整で、本当に大丈夫なのか……? もしかしたら、俺、余計な事を……」
一度落ち着いたからか、リューセイの手には微動が戻っていた。
「…………ぁ」
ミラは手に持っている紙を広げようとする。
そのとき、頭上を巨大な翼竜が通過した。
ヒュウゥゥゥ……
「あっ!」
手にかけていた紙は風に乗り、近くを通っていたオオツノジカのツノに引っかかった。
「……ぁぁ」
戸惑うミラ。
「ハァハァ……」
固いリューセイ。
――そのとき
「大丈夫!」
声のしたほうを振り返る。
リューセイの視線の先には、めいいっぱいに喉を開いたミラがいた。
「……大丈夫」
周りを見渡す。
リイも、ユキも、皆がリューセイを見つめていた。
「……押さないなら俺が押そうか?」
「空気読め」
レバーに触れようとするエシュを、タバが止める。
「大丈夫、だよ……」
「…………フゥ……」
機械を前に、向き直る。
――そして
ボチッ……
調整完了のボタンが押された。
モニターは忙しく蠢き、皆がそれを見届ける。
……数分後
モニターに映されている現実世界から、何かが聞こえてきた。
〈先ほど、この地域で震度2の地震がありました。
この地震による津波の心配はありません――〉
「沈静完了!」
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
辺りに歓声が上がった。
「ハッハッハ、やっと、笑えるぜ」
エシュも満足そうに言う。
「……やった」
小さくミラが呟く。
――自然管理本部――
「……あー終わったー」
テラスは緊張が解れ、一気に倒れ込んだ。
「お疲れ様。疲れたでしょ」
セラが話しかけると……
「うぁー昼だし寝ていいよなぁ〜?」
うなだれるように、テラスが言った。
――仮想部――
〈地震は無事沈静されました。地震は無事沈静されました――〉
「止まったか!」
アンキロサウルスの一言で、広い空間は一気に弾けた。
「沈静されたって……」
「パンテラのおかげだな」
「……全然よ」
ライオンの夫婦は、安心感に包まれていた。
「……私は膝がマシになってから、戻ろうかな……」
そんな呟きをしながら、ミームは首を地面に任せた。
――火山噴火抑制部――
「一応俺らも山の管理部だから待機してたけど、やっぱり何もなかったな」
「まぁ、火山は関係ないよな」
リオウとユマが軽く話していた。
「……ツムジでも、沈静できたんじゃない?」
メーオが、となりで放送を聞くツムジに話しかける。
「……いやいや、さすがに無理だよ」
「……ㇷㇷ」
――海辺――
「……沈静されたんだな、よかった」
「……よかったねぇ……」
「……しかし、リラがあんなにサクサク修理できるとは思ってなかったな……」
アマチはリラに体を寄せる。
「……別に、なんてことないわよ……」
「……でも、よかった……」
――地盤管理機器前――
「……俺は、止めたのか……?」
体の力が抜けたリューセイは、ふわっと腰を下ろした。
「……リューセイ」
リイがゆっくり歩いてくる。
「……リューセイ、ちょっと見て?」
そう言って、リイは片手にはめたワープバンドを差し出す。
人間界だろうか、そこには……親鳥にエサをねだって鳴く、ツバメの雛たちの姿があった。
「…………」
夫の高さに合わせて、リイは腰を下ろした。
「絶滅したとしても、子孫は今も生きてる。
ユキちゃんだってそう……」
そう言って、リイは奥にある巨木に視線を移した。
「進化の樹は、今も伸び続けてる。
目では分からないほどだけどね……」
「私たちの子は生きてるし、今、私たちはこの世界で親なのよ……」
数秒の間。
「あなたは、いい父親よ……」
そう言って、リューセイの額に自分の額をすり合わせる。
少し震える夫の肩に、前肢を回す。
「…………」
たった一匹の妻。
まるで母親かのように、今身を寄せてくれている。
「…………ぁ」
左肩に触れる腕。
その腕に、わずかな震えがあった。
数秒抱いたあと、妻はゆっくり離れる。
「……フフ」
小さな笑みを浮かべる妻。
次の瞬間――
「…………?」
夫の腕が、妻の肩を抱いた。
体を寄せ、顎を置く。
優しい体温が、伝わる。
「…………大丈夫だ」
「…………」
痛む足、動かない体。
真っ赤に染まる森の中、混乱で蠢く草食竜。
その群れが過ぎ去ると、夫の姿が見えた。
こっちに走ってくる。もうすぐ辿り着く。
――次の瞬間
視界が真っ黒に染まった。
「…………大丈夫だ」
「…………ぁぁ……」
緊張が解ける。
「…………フフ」
瞳を閉じ、リイは夫の背中に顎を置く。
身を任せ、力を抜く。
「……大丈夫」
親友をそっと見つめるミラ。
そのとき……
ひらっ……
「………?」
紙を返したオオツノジカが、しれ〜っと歩いて行った。
ふわっと。
ミラは親友の元に駆けより、地面に紙を広げた。
そこには……
『だいじょうぶ』の文字。
「………ㇷㇷ」
「……ありがとう」
―
――数週間後――
平穏が戻った新管理部設立部では、あちらこちらで小さな金属音が湧いていた。
「ラフさん! この部品使います?」
「今は使わんぞ」
「ちぇ〜」
不満の声を漏らして飛ぶ、アオイのすぐそばで……
「……まだ治んないのか? もう担当時間くるぞ」
抜け殻のように横たわるミームに、カイが近づいていく。
「もうちょっと待ってぇ……古傷が……」
「……ご苦労様だな……」
「お〜い」
声のしたほうを見ると、石頭竜が跳ねながら、カイを呼んでいるのが見えた。
「なんだ?」
「ほら、カイって機会の中入れただろ?
部品ができたから、ちょっと中確認してくれよ」
「……見たとこで何もないだろうに」
しぶしぶ部品に接近した、次の瞬間……
ボンッ!
唸りを上げ、火花を散らした。
「……あぁぁぁぁ!!!!」
怒り狂い、石頭竜は部品に何度も何度も頭を打ち付ける。
カイは密かに呟いた。
「…………俺入ってたら危なかったよな……?」
――火山噴火抑制部――
「……お、これがツムジが読んでたっていう本か」
「そうそう! 結構細かいでしょ?」
となりのメーオが言う。
「そんな細かいかなぁ……」
そんな会話をしていると
「本? 俺にも見せてくれよ」
三匹が湧いていると、後ろからティラノサウルスが覗き込んできた。
「なになに〜? う〜ん、見えにくいな……。
この本小さくないか?」
「お前がデカいんだよ」
ユマにツッコまれたリオウは、しれ〜っと離れていった。
「…………リオウさん面白いね」
「………フフ、そうだな……」
――アフリカ小屋広場――
「…………ん? おぉ!
レオだ! レオじゃないか!」
たくさんいるライオンの群れに、夫婦がやってきた。
「久々だな」
「お久! 来てるとは聞いたが、もっと早くこっち来てくれればいいのに」
「一応、この世界に慣れてからだって、レオが言ってたのよ」
「そこは慎重なんだな……。
いや〜でもまた会えて良かった。なぁ、みんな!」
賛同の咆哮が上がる。
すると、その群れの横際を縦縞の模様のある猛獣が通った。
「……あ! ドット!」
「……うん?おぉ、パンテラ……。
そうか、ここパンテラのプライドなのか」
「うん、みんな、この子が言ってたアムールトラよ」
「あぁ、ドットだっけ? はじめまして」
「はじめまして」
レオがこっちへ来いよと誘うと、ゆっくりドットは群れに入っていった。
「……でもよかった」
一匹のメスが、パンテラに話しかけてきた。
「パンテラが、元気になって……」
「……フフ、おかげさまで……」
――サバンナ管理機器前――
ガチャ…ガチャ……
「……よし、これでどう?」
そう言われたのを聞き、アフリカゾウが起動ボタンを押す。
「……おぉ、おぉ! 動いた! ありがとうリラ!」
「お安い御用ですよ……」
「全くこのおんぼろ機械め!
普段そんな動かないんだし、勝手に壊れてんじゃねぇ!」
そう愚痴りながら、となりのサバンナシマウマが前脚で機器をガンッ! ガンッ! と叩く。
「叩かないの! また壊れるからぁ……!」
「すみません」
リラに怒られた。
すると、リラの後ろに一匹のセイウチが転がりながら、現れた。
パチッ……! パチッ……!
ヒレ状の前足で、ゆっくり拍手を送る。
「…………リラ……」
「…………フフ……」
―
「楽しみね。いつものライブ会場でするんでしょ?」
澄んだ空の下、リューセイたちはあの会場に向かっていた。
「あぁ、ディーズが企画者だからな。
ってか、リイってあの会場行ったことあるのか?」
「何度かあるわよ」
「そうなのか」
夫婦の会話に、控えのコウモリも入ってくる。
「しかしよく考えましたよねぇ……。
小鳥の合唱って」
「小鳥の鳴き声は綺麗なだけじゃなく、鳴き声の種類によって意味を持っていて、それを言葉として使ったりする。シジュウカラなんかは20種類以上の鳴き声を使い分けるらしいしな……」
リューセイの知的が炸裂する。
そんなリューセイに、ミラが聞く。
「確かユキちゃんも出るんだよね!」
「……うん」
ほとんど表情は変わらなかったが、少し口角が上がったようにも見えた。
……ちなみに
リューセイたちと同じく、大仕事を終えた地盤管理部はというと……
「こいつが新しく入った、ワライカワセミのロキだ! 鳴き声が笑ってるように見えるから、ワライらしいぞ! 俺と同じだ!」
「前のフォッサマグナのときに手が足りなそうだからって入ることになりました!」
「ヒキコウモリの心配性が出てるぜ! 俺らで大丈夫なのにな!」
「ハッハッハッハッハ!」
二羽の笑い声が、周りに鳴り響く。
となりにいるタバは……
「…………俺脱退しようかな……」
平常運転だった。
―
リューセイたちは、会場に来ていた。
「……おぉ、もう準備進んでるのか」
前方には、鳥が止まる用の枝のようなものが何列にも並んでいた。
そのとき……
「おぉ! 来たかリューセイ!」
あのギガントラプトルが現れた。
「あぁ、ディーズ……。
ったく、なんで俺が指揮なんだ?もっといい奴いただろ」
「いやいや、リューセイが持ってるその指差し棒がちょうど指揮棒にいいんだよ」
「これはあくまで指差し棒だ。
指揮棒なんかじゃない! 用途が違うだろ」
「仕方ないだろう。イノセントワールドには楽器はあるが指揮棒はないんだから……。
それに……」
ディーズは一呼吸置いて……
「ユキちゃんだって、お前が指揮してくれたら嬉しいだろう?」
「……はぁ、ったく」
「じゃ、よろしくな」
そう言って、ディーズは去っていった。
「…………ったくよ」
そうして、時間が過ぎ、いよいよ合唱が始まる時間がきた。
前方のたくさんの枝には、何十羽もの小鳥たちが並んでいた。
「……ま、やるからには、な……」
最前列の枝の前、中央にある台に、リューセイが上がった。
「…………」
後ろを振り向くと、合唱を聴きに来たたくさんの生き物たちがいる。
そしてその中には、柔らかな笑みを浮かべリューセイを見つめるリイとミラがいた。
となりには、あのコウノトリのメイもいた。
「…………ッフ」
リューセイは前を向く。
薄暗い会場。数多の小鳥。
その中に、じ〜っと、不思議な目で見つめるユキの姿が見えた。
「……はぁ……フン」
そして、ユキの姿を確認したリューセイは、ピアノ役とアイコンタクトをとり、その細く、しなやかな腕で……
スゥ……
指差し棒を、振るうのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
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