第25試合 夏休み・・海へ
『第25試合』
菜月先輩との待ち合わせ場所まで行く間、岬はずっと手を
繋いできた。
最初こそ、恥ずかしそうに「ねぇ、手を繋いでもいい?」
と言ってきたが今はとても嬉しそうに堂々としている。
逆に僕はまだ緊張して手汗が出るくらいだった。
そんな事など全然気づく事なく岬は話しかけてきた。
「私のどこが好き?」
「うーん、可愛いとこかな」
「どこが可愛い?」
「みんな可愛いよ」
「いつ頃好きって気づいたの?」
「うーん、いつからだろ?いつの間にか・・かな」
たぶん入学式の日に桜の木を見上げている君に一目ぼれした
なんて言えなかった。
岬の質問にあれこれ答えているうちに待ち合わせ場所に到着した。
待ち合わせは市でもっとも栄えてるところでショッピングセンターや
若者に人気のファッションビルや飲食店が立ち並んでいて、菜月先輩は
そのファッションビルの入り口に立っていて、僕達に気づくと手を
振ってくれた。
「お待たせしました。」
「ううん、私達もついさっき来たところよ」
菜月先輩の後ろに隠れるように女の子が立っていた。
「紹介します。私の彼女、杉田恵、メグって呼んであげて」
紹介されるとペコリとメグはお辞儀をした。
身長の高い菜月先輩と対照的にメグは岬と同じくらいの身長で
それでも胸とかは菜月先輩に負けないくらい大きかった。
「はじめまして、メグさん。赤井翼です。こっちが山本岬です」
岬もやはり初対面の人は苦手で僕の後ろでペコッとお辞儀をした。
「相変らずメグも岬ちゃんも人見知りね、まあすぐに慣れるでしょ」
挨拶を終えると僕達四人はファッションビルに入り、水着売り場へと
向かった。
季節がら当然のように水着売り場は特設会場となっていて大勢の女子で
溢れかえっていて、とても男子が立ち入れる場所ではなかった。
「み、岬、僕こっちで待ってるから行ってきて」
いつもなら「えー、一緒に行こうよ」と言ってくる岬もさすがに状況を
理解してくれ、菜月先輩、メグさんと三人で水着を見に行った。
僕はやれやれ・・と思い、水着売り場の通りの壁にもたれかかって
ぼんやりと傍観していた。
売場には女の子同士が圧倒的に多い中、カップルもいて男が一緒に水着を
選んだりしていた。
とてもじゃないけど、あれは無理だなぁと考えながら、いっぱい飾られている
水着を見ていると色鮮やかな原色の世界が展開されている。
サッカーのユニフォームも白、赤、カナリヤイエローやストライプなど派手な
ものが多いけどそれに加え花柄や水玉があり、ユニフォーム以上に派手だった。
おまけに値段を見て僕は驚いた。
安いものは何千円だけど、ほとんどが一万円以上しているのだ。
こんな布切れが一万円するんだ!高価な水着だと正規もののユニフォームが
帰るじゃないの!
そう考えるとグラビアのアイドルって大変なんだなぁとしみじみ考えていると
岬達が戻ってきた。
気づけばいつの間にか40分くらい時間が過ぎていた。
「お待たせ」
「あ、おかえり」
「何、ぼんやりしてたの?」
「いや、ここから水着の値段とか見てたらあまりに高くてユニフォーム買える
って思ってた」
「そう、高いのよ。お小遣いなくなっちゃたもん」
「翼くん、岬ちゃんの水着可愛いわよ。見たらますます好きになっちゃうから」
菜月が笑顔で言った。
「帰ってから披露するつもりだったみたいだけど、せっかくなら当日までの
お楽しみにしといたらって事でどんな水着かは海に行くまでお預けだって」
僕は正直かなり楽しみにしていたのでガッカリしたが、まあ岬の水着姿を
あれこれ妄想できるので取り敢えず我慢することにした。
夏休みが始まり、僕は自宅からサッカーの練習に参加していた。
岬もマネージャーとして参加しつつ、たまに身体を慣らすために練習に
参加したのだが、今年の夏はとても暑く、岬はすぐに体調を崩したりしていた。
休んでると体調は戻るけど、やはり練習終わって歩いて帰らせるのもどうかと
僕は考え、家にあった母親のママチャリを借りて岬を家まで送り迎えした。
内緒で岬の家まで初めて迎えに行った時は驚いたと同時に恥ずかしがっていたが
いざ乗ってしまったら僕にしっかりしがみついて楽しそうにしていた。
そしてようやく楽しみにしていた海に出かける前日。
岬は体調を崩し、熱が38度を超えてしまった。
「絶対に行く」と岬は薬を飲んでなんとかしようとがんばったけど当日も
まだ37度台で身体がフラフラしてる状態だった。
お母さんから連絡をもらい、僕は菜月先輩に連絡し、お出かけをキャンセルして
もらった。
出来れば二人だけでも行かれたらと伝えたのだが、やっぱり四人で行きたかった
からまたの機会にしましょうと言ってくれ、大変恐縮してしまった。
岬のお母さんからもう泣いてしょうがないと言われたので僕は自転車を飛ばし
岬の家に行き、ふとんをかぶってる岬を慰めた。
最初こそワンワンと泣いていたが、僕の声を聴いているうちにようやく落ち着いて
くれた。
「うう・・海行きたかったよ」
「しょうがないよ、岬の体調のほうが大事なんだから」
「せっかく水着買ったのに・・まだ翼に見せてないのに・・・」
「また行けるよ、そうだ、今度プール行こうか」
「プール人多いもん、恥ずかしい」
「海だって一緒じゃん」
「じゃあプール行く。それと・・・」
「それと?」
「花火見に行きたい、浴衣着て行きたい」
「いいよ、お姫様のお望みならば」
岬はようやくいつもの笑顔を見せてくれた。




