第26試合 県大会予選始まる
『第26試合』
サッカーの練習、合宿そして練習試合と忙しくなり、岬と約束したプールや
花火を見に行く約束が果たせぬまま、夏休みが過ぎていっていた。
当然岬も練習や試合には同行してるので何も言わないが明らかに顔が
不満気ではあった。
実際合宿では近くに海があって練習の合間に息抜きで海で泳げたのだが、
残念なことに岬は少し体調が悪く合宿不参加で待望の水着も未だ
披露できぬままなのだ。
そして県大会の予選が始まった。
夏休み入る前に部員が二人増えて18名になっていたのだが、
そのうち、レギュラー二人が練習中と試合の中で怪我をして離脱したため、
万が一を考慮して岬もマネージャーだけでなく選手としても登録されることに
なった。
これは後で知ったのだが、岬が監督に頼みこんだらしい。
監督は体調を考慮して選手登録するつもりはなかったのだが、岬が少しの
時間でもいいから試合に出たいと嘆願してきて監督は了承したそうだ。
とはいうものの監督も部員も全員、岬に長時間練習させてはいけない事は
知っているので岬が積極的に練習に参加しようとすると「はい、もう時間
だから休憩しようね」と気遣うので岬はその鬱憤晴らしに当然練習が終わって
から僕に練習を付き合わせるのだった。
僕はフルで練習してたから疲れ切ってるけど岬は元気いっぱい。
「ねえ、もうそろそろ切り上げようよ」と言っても「まだもう少し」と
言って練習を続け、無理をし過ぎて倒れそうになり結局おぶって帰る日も
あった。
そして予選の一回戦がやってきた。
サッカーでは全く知られていない我が校はシード校とは違い当然一回戦から
戦うことになる。
対戦相手は同じ私立校でそれほどサッカーは強くないがスポーツも勉強も
できる歴史ある高校。
なんとか練習で怪我をしたレギュラー一人は復帰できたが試合中に怪我を
した中盤の要、三年生の網野さんは間に合わず、ベンチで見守ることになった。
一回戦のキックオフ。
試合始まって5分足らずで明らかに相手が上手くないのが解り、ガチガチに
守備を固めてカウンター狙いに来ているのが誰にでも理解できた。
攻めてこないのならこっちはパスを回し、相手の選手を前に引き出して
その空いたスペースを狙う。
これに見事ハマってくれて前半10分にFWの前田先輩が先制ゴールを
決めた。
しかしあまりに早い時間に点を取ってしまった事により、うちのチームも
浮き足立ってしまった。
パスミスが目立つようになり、追加点を取ろうと焦って遠くからシュートを
して外したりと全員がから回りしていた。
前半を1点リードで終わりハーフタイムへ。
監督は当然のように激怒している。
誰もがそれを解っていたが、後半が始まっても試合の流れが一向に変わっては
いかなかった。
そして一つのパスミスからカウンターのロングボールをゴール前に蹴り込まれ、
後半20分に同点弾を食らってしまった。
暗雲立ち込める中、天気も悪くなり、雨が降ってきてピッチコンディションは
最悪でなんとかパスが通り始めたと思ったらボールが転がらない。
相手は完璧に引き分けを狙い、いっそう守備を固めてきては一瞬のスキをついて
カウンターを仕掛けてくるが、あまり無理はしてこない。
引き分けになると一、二回戦では延長はなく、PK戦で決着をつける事となる。
PKはどうしても運まかせになるし、こんな雨の中だとどうなるか解らない。
それにうちのチームは僕を含めフリーキックを蹴る数人しかPKの練習なんか
していない。
どうしてもあと1点取らなければ・・・と誰もが思い、残り10分で焦りが出て
きて相手のスローインになった時、監督が選手交代を告げた。
交代要員としてピッチに出てきたのは、白の長袖のユニフォーム、ソックスを
いつものように膝上まであげて、髪をポニーテールにし、ゴムのヘアバンドを
つけた背番号17の岬だった。
「え?岬・・・出るの?」
僕だけでなく、フィールドにいた誰もがそう思った。
「牧田に替えて山本!」
監督が審判に告げると、うちの応援に来ている生徒からは「岬!」「岬ちゃん!」
という大歓声が上がり、一般の観客からはどう見ても女の子が出てきたという
驚きのどよめきが上がった。
確かに残り10分、岬がピッチに立てる時間ピッタリだが、まさか初戦から
監督が使ってくるとは思いも寄らなかった。
「マッキー、お疲れ様」
「岬ちゃん、あとは任せたから」
走って下がってきた牧田とハイタッチして岬が元気よくピッチに入った。
「みんな、一点取りに行くよ!」
ぬかるんだピッチで疲労が溜まってきていた仲間に元気を与えるには
充分な掛け声だった。
もちろん僕にも。
岬は牧田のポジション、中盤の左サイドにそのまま入ったのだが、
対抗戦のたった一試合わずか10分しか出場していないにも関わらず
やはり情報は伝わっているようで相手校はしっかりマークをつけてきて
さらにポールを岬に回すともう一人マークがついてきた。
岬はそれを気にせずワンタッチで近くの味方にパスをするが、なかなか
思うようには動かせてもらえなかった。
少しでも前に岬がボールを運ぼうとすると相手はファール覚悟で身体を
当てにきたり、スライディングしてきたり、ひどい時にはユニフォームを
引っ張ったりして岬を止めにきて、そのたびに雨を含んだピッチに
転倒させられてわずか数分で白いユニフォームは泥だらけになり、悪質と
もいえるスライディングでソックスは破れ、白いスパイクも泥だらけに
なっていた。
ファールをもらい、倒れた岬に手を差し出して僕は立ち上がらせると
岬は不敵な笑みを浮かべた。
「女の子をなめてると怖いよ。そろそろ本気だすわよ」




