第23試合 夏休み前のあるひとときの出来事
『第23試合』
一学期の期末テストが終わった。
結果はどうであれ、とにかく終わった。
僕は勉強が好きではない。
まあ、当然ながら好きな人はいないだろう。
試験前の勉強もほとんど一夜漬けだし、今回は解らないところは
岬に教えてもらった。
その岬はというと、全然勉強してるところを見ないのに
やたらと成績がいい。
先日熱を出し二日休んだ時も僕のノートを見て
「翼、字が汚くて読めない。」
と言うので僕が説明しながら教えると
「教え方下手、自分でやる」
結局、僕のノートは役立たずに終わってしまった。
終業式をあと数日に控えたある日の昼休み、思わぬ人が
岬を訪ねてきた。
「岬ちゃん、2年の橋本先輩が廊下に来てるよ」
クラスの女の子が教えてくれた。
「橋本先輩?って・・・誰だっけ?」
「菜月先輩だよ、苗字は橋本」
「て私に?翼じゃないの?」
「ううん、岬ちゃんって言ってたよ」
「私に何の用があるのかしら?」
「とりあえず行かないと、菜月先輩待ってるよ」
「つ、翼もいっしょに来て!」
僕はまだ食べかけのパンを残したまま、岬に引っ張られ
廊下に連れ出された。
菜月先輩は窓の外を見ていたが、僕達を見るとニコッと
微笑み近づいてきた。
「こんにちは、岬ちゃん、翼君。あ、岬ちゃんは初めまして
だよね、2年の橋本です」
「菜月さん、こんにちは」
「こ、こんにちは」
岬は初対面の人が相変らず苦手である。
「突然呼び出してごめんなさい」
「いえ、僕より岬に用があったんですよね」
「うん、でも翼君にも関係あるのかな。こないだ岬ちゃん
学校休んでたでしょ、それがちょうど私が翼君と初めて
話した日の翌日だったんで、ずっと気になっていたんだ
けど・・・」
鋭いなぁと思いながら
「いえ、その事は別に関係ないですよ」
と僕は平静を装って答えた。
「翼君も岬ちゃんも嘘が下手ね。二人とも目が泳いでる」
ちらっと岬を見ると俯いて顔を赤らめて、明らかに僕に
「何とかして」と救いを求めている。
誤魔化しても仕方ないので僕は菜月先輩に正直に話した。
「そんな事があったんだね、つまり岬ちゃんは私に嫉妬
しちゃったんだ」
岬は僕の後ろに隠れてしまった。
「ごめん、岬ちゃん、意地悪してるんじゃないよ。
そんな勘違いさせるような事してごめんなさい。
それに翼君から聞いてると思うけど私は男の子に興味は
ないから」
僕は話をそらそうと本題に入った。
「それで菜月さんは岬に用があったから呼び出したんですよね?」
「用っていうか、もうすぐ夏休みでしょ。みんなで一緒にどこか遊びに
行こうっていう相談しに来たの」
「みんなでって誰と誰ですか?」
「翼君と岬ちゃんと私と私の彼女の四人。まあダブルデートみたいな」
「デ、デートって・・それに夏休みでもサッカーの練習あるし・・
菜月さんも部活あるんじゃないですか?」
「部活だって毎日って事ないし、休みくらいはあるでしょ」
「確かにそうですが、どこに遊びに行く予定なんですか?」
「夏だしやっぱり海がいいかなぁ。私の彼女も海行きたがってるし」
「海ですか・・・」
僕の後ろで話を聞いていた岬が小さな声で呟いた。
「う、海なんて・・無理だよ」
その声が菜月先輩に聞こえていたみたいで
「別に海に行っても泳がなくてもいいよ。とりあえずこれは一つの
案だから、他にどこか行きたいところがあったら言ってね。
また日にちとかいろいろ相談しようよ」
そして菜月先輩は僕と岬のメールアドレスを交換して戻っていった。
「海か・・海なんて行くの久し振りだなぁ」
「翼、もう行く気になってるの?私絶対行かないよ。日焼けしたくないし」
「もしかして岬泳げないの?」
「お、泳げるよ。ただ・・女の子の恰好するようになってから一度も
海にもプールにも行ったことなんてないし・・学校でも水泳の授業や
臨海学校も休んだし・・」
「中学の時には女の子の恰好してたって事だから、小学生以来?」
「うん、それ以来泳いだ事も水着になった事もないの」
「そうか・・そうだよな。でも岬水着似合いそうだけどな」
僕は頭の中で岬の水着姿を想像した。
「なんか今すごい妄想してない?翼のドエッチ!」
「してないよ!」
「顔がにやけてるもん!どうせ菜月先輩の水着姿想像してたん
でしょ!あの人スタイルいいもんね」
「違うよ、岬の水着姿だよ。」
「やっぱり想像してたんだ!エッチ!」
「まあ海に行くかどうかは別としてどこか遊びに行くのもいいじゃない
か。せっかく誘ってくれてるんだし前向きに考えようよ」
「私、あの先輩苦手だなぁ」
と言っていた岬が急変する。
その日の放課後、僕達が練習場に向かっていると同じくテニスコートへ
向かっている菜月先輩にバッタリ出会った。
「これから部活?」
「はい。菜月さんもですね?」
「ええ、おたがい頑張りましょう」
その時岬の目が先輩の持っているテニスラケットを入れるバッグに
釘付けになっていた。
「ん?岬どうかしたの?」
「せ、先輩、この猫どうしたんですか?」
岬はバッグにぶらさがっている猫の人形を見ていたようだ。
「あ、これ、ゲームセンターで取ったの。岬ちゃんこの猫知ってるの?
よかったら私ダブってもう一つ持ってるからあげようか?」
「ほんとに!?」
菜月先輩から人形をもらうと岬の目が輝いてとても嬉しそうだ。
僕は知らないが、その猫はとあるアニメに出てくるキャラで今女の子の
間でとても人気があるらしい。
そこから二人はアニメの話で盛り上がっていたので、僕は先に練習場へ
行った。
しばらくして岬が来て、猫の人形を大事そうに持っていた。
「よかったな」
「うん、菜月先輩って話しやすいね」
ついさっきあの人苦手って言ってなかったか。
「今度の日曜にね、一緒に買い物行くことにしたの」
「そうなんだ」
「翼も来る?」
「いいよ」
「水着買うつもりなんだけどなぁ~翼にも見て欲しいなぁ」
あと少しで夏休みだ。




