第21試合 岬のお母さんとの会話
『第21試合』
僕は岬の容態を気にしながら食堂へ行き速攻で朝食を食べると部屋に
戻り制服に着替えつつ、岬の様子を見ていた。
ほんとはこのまま学校に行かず、岬のそばについていたかったが
家族でもないのにそれは許されないので、管理人に頼んで僕は学校へ
行き、まず担任と井原監督に現状を報告しておいた。
二人ともあまり責任を感じるなと言ってくれたが、責任なんかじゃなく
自分にとってもう大切な人だと言いたかったけどそれは心の中で
叫ぶ事しかできないのが僕には歯がゆかった。
教室に行き、いつもなら一緒に登校してくる岬の姿がないので
クラスのみんなに「岬ちゃんは?」と訊かれ、答えているうちに
だんだん辛くなってきて寮に戻ろうかとも思った。
授業が始まっても岬の様子が気になり、全く頭に入らなかった。
熱下がったかなぁ?
また汗かいてたら着替えさせないと・・。
ただ着替えの事を考えていたら、下着だけを履いた岬の華奢な
白い身体が頭に浮かんだ。
こ、こんな時に変な事を考えてたらだめだ!
一限目が終わった時に担任の手塚が僕のところにやってきた。
「赤井、山本さんの事が気になって授業どころじゃないだろう?」
「ええまあ」
「大丈夫だ、山本さんのお母さんから連絡あって今寮に様子
見に来てくれたそうだ」
僕は手塚の言葉を聞いて、安堵感で急に肩の荷が降ろせた気が
して涙が出てきた。
「おいおい、涙ぐまなくてもいいだろ、まあお母さんもお前が
責任感じてると思えたから来たと言ってたからな」
「ありがとうございます」
お母さんがそばに居てくれるなら、岬の心配をすることはない。
気にはなったがなんとか一日の授業を終えると僕は一目散に寮へ
向かった。
息を切らして寮に戻ると管理人さんに呼び止められた。
少し前に岬のお母さんは帰られたそうで、僕に時間が空いた時で
構わないから電話してと言伝を預かっていてくれた。
部屋に入ると岬は僕のベッドで眠っていた。
起こさないようにそっとおでこを触ると熱は下がっていて、
お母さんが着替えさせてくれたみたいで僕が朝着せたのと違う
パジャマを着ていた。
僕は座って部屋の壁にもたれ、穏やかに寝息を立てている岬を
少し安心して見た後、部屋を出るとお母さんに電話をかけた。
何コールかしたが、なかなか出てくれない。
携帯を切ろうとした時「もしもし」という声が聞こえてきて
慌てて僕も「もしもし、翼です」と答えた。
「翼君、すぐに出なくてごめんね、車運転中だったの」
「そうだったんですか、今電話して大丈夫なんですか?」
「うん、車止めたから大丈夫よ。翼君は今どこなの?」
「寮の玄関出たところです」
「岬が心配で急いで帰ってきたのね」
「お母さんがそばについててくれるから心配はしてません
でしたが、お礼言っておこうと思って」
「ううん、お礼を言わなくちゃいけないのはこっち。
岬が迷惑かけてごめんね。それとそばについててくれて
ありがとう」
「とんでもないです、僕なんか慌てふためいて何もできなかった
んで」
「着替えとか薬飲ませてくれたんでしょ、あの娘ふだんから
体調を整える薬飲んでるから解熱剤とか絶対飲みたがらないのに
熱下がったから翼君どうやって飲ませたのかな?」
口移しで飲ませたとは言えなかった。
「いえ、薬だよって言ったら飲んでくれました」
「ほんと!岬は翼君の事大好きだから愛の力だね」
「そ、そんな事ないですよ」
話しながら汗が出てきた。
「唐突だけど、翼君は女の子として岬の事好き?」
「へ?」
「岬の事好きですか?」
「えーとですね・・・答えなきゃいけませんか?」
「出来れば答えてくれたら娘の母親として嬉しい」
「・・・・・す、好きですけど」
「よかった!」
「ぼ、僕が言ったって岬には言わないでくださいね」
「うん、言わない。けどあんな娘を好きになってくれて
ほんとにありがとう」
「いえ」
「あの娘には生きてる間に素敵な恋愛をしてほしいから」
「お母さん、生きてる間って大袈裟ですよ」
「そう・・だね。ちょっと大袈裟だったね。でも翼君」
「はい」
「岬の事、ずっと好きでいてやってね」
「はい、嫌いになるわけないです。たぶんもっともっと
好きになると思います」
「翼君に巡り合えて岬は幸せだね、私も幸せだし。
本来なら男の子って母親とは会話が少ないはずだけど
岬にはあなたが女の子として過ごしていく限りは母と
娘、隠し事はしないようにと約束してるのよ」
確かに僕は自分の母親、それよりも両親とも会話が少ない。
「まあね、恋愛についてはある程度秘密ができるのは
仕方ないから、その分心を開いてる翼君が見守って
やってね」
「はい」
しばらく話をした後、僕は携帯を切った。
僕と岬はお母さん公認の仲になったのか・・・。
そう言えば岬に好きとは言ったけど、つきあってと言ったこと
ないよな・・・。
交際するのならちゃんと言ったほうがいい・・よな。
でも・・今さら面と向かって「つきあってください」って
恥ずかしいかも・・。




