関白 3
再開させていただきました。
まずは、「いままでのお話」からどうぞ
漢城は、前世と異なり臨海君の投資により、近世都市の様相を帯びていた。
上下水道を整備し、中央道は拡幅した上で砕石による簡易舗装まで施している。
また、防犯上の意味合いから灯篭を設え、常夜灯を灯してもいた。
しかし、「明るさ」は大通りだけであり、一歩路地を入ると昔ながらの闇が支配していた。
氷雨商団のある辺りは、大通りに面しているので王宮までの道ははっきりとしている。
夜も更けたこともあり、大通りと言えど人通りは皆無である。
「……シル」
「……十人程でしょうか……」
臨海君主従にとっては、これだけで十分であった。
互いに刀の鯉口を切ろうとした時、臨海君の鼻が異臭に気づく。
「!!シル、跳べ!!」
「??!!」
主従が左右に分かれて跳び、転がった途端に轟音が響く。
丁度、二人が歩いていた辺りで硬い音が響き、舗装が削られる。
轟音を合図に、暗闇から一団が飛び出して来た。
薄明りに、刃が煌めく。
機先を制されたとは言え、主従の剣技は一団のそれをはるかに上回っている。
加えて、多勢に無勢が逆に幸いした。
臨海君、パク・シルが別れた事で互いに同士討ちを気にせずにすむ。
反面、薄灯の元「襲撃者」はそれを気にせずにはいられない。
臨海君主従が互いに、二人づつを切り捨てたところで一団の動きが鈍る。
彼我の力量の差を理解したようだ。
その時、暗闇の奥で男の悲鳴が上がり、
併せて先ほどの轟音が再び響いた。
一団はその悲鳴と轟音を聞いて明らかに狼狽の色を浮かべる。
程なく、悲鳴の響いた暗闇から男たちが走り出して来た。
質素な身なりの男たちは、手に手に天秤棒などを握りしめている。
「お怪我はありませんか!」
「アンボムか?大丈夫だ。その者たちを逃がすなよ」
「くそ!」
襲撃者たちは最後の足掻きを始める。
しかし、退路を塞がれ更に二人が切り捨てられると抵抗をやめた。
捕まった襲撃者たちは武器を取り上げられ、その場に座らされた。
しばらくして、アンボムの手下、寺党の一人が内禁衛の兵を連れてきた、
襲撃者達は、内禁衛の兵に引き立てられて行く。
先に抑えられた、鉄砲を放った男も併せて捕らえられる。
臨海君は目前の光景に違和感を覚えた。
違和感は、パク・シルも感じた様で臨海君を凝視する。
ほのかな灯りに映し出される光景の違和感……
王宮の警護を主とする内禁衛が何故ここにいるのか……
「……なぜ、内禁衛が駆けつけた」
臨海君は内禁衛を連れて来た、寺党の男に問いかけた。
男の答えは簡潔だった。
男が捕盗庁に向かって駆けていると、丁度前から内禁衛の一団が駆けて来た。
内禁衛は臨海君を探していると言う。
男は、臨海君が襲われていると訴え、案内してきたと言う。
臨海君が内禁衛の将に問うと、
臨海君が襲われているから、すぐに向えとの命が伝えられたとの事だった。
「命」と言われ将は慌てて、一団を率いて駆けつけたと答えた。
「……シル、謀られたか……」
「その様です」
主従二人は、宮殿へ向かって駆け出した。
嫌な思いが、臨海君の胸を覆う。
何者かが臨海君達を襲わせ、併せて宮殿の警護を削った。
目的は火を見るより明らかだった。
城門が見えるあたりに二人が達した時、城内から喧騒が聞こえてきた。
城内には、この時間にはふさわしくない灯りが灯っている。
開け放たれている城門を駆け抜けると、
武装した兵らしき者がそここに倒れている。
見るからに、内禁衛の兵では無く国軍の兵でもない。
しかし、武装は統一がとれており、単なる賊でも無い。
臨海君は、現場指揮をとっている非番の将に問いかけた。
「……なにがあった!!」
「臨海君様! 謀られました」
将の答えは簡潔であった。
出動した当番の将は、念のため非番の将と兵を呼び出すように命じていた。
しかし、将は直ぐに駆けつけたものの、兵の集合は少し遅れてしまった。
その隙をついて、賊が侵入してきたこと。
賊はわき目も振らずに資善堂に侵入し籠城していること。
周りを囲んで、賊の排除に勤めているが未だに中の状況は分からない事。
を手短に報告した。
そこまで聞くと、臨海君は駆け出した。
「ヨナ!」
この時、臨海君の脳裏には、身重の妻の事しかなかった。




