大同契 【その9】
大変遅くなって申し訳ありません。
本日、一話の更新です。
対馬へ侵攻をするなら今の戦力では不可能だと言う事は言われなくても分かっている。
ただし、この状態で戦力を増強してくれと言っても親父……宣祖が認める筈もない。
戦略的にはこのタイミングがベストなのは間違いが無い。
向こうから攻めて来て、返り討ちにした。
正規軍で無くとも理由はどうとでも付けれる。
それこそ、「倭寇を根絶やしにする為」と言えば良い。
少なくても、島主 宗家に理はない。
親父……宣祖は対馬島主は朝鮮王国の属国と思い込んでいる。
であれば、倭寇さえ打ち据えれば問題ないと思うだろう。
わざわざ膨大な人員と予算を使って侵攻する事に意味は無いと考える。
安全保障についての認識が根本的に甘いのだ。
権威があれば、相手は向こうから頭を下げるものと信じている。
隣国に巨大な帝国を抱えている事のある意味での弊害だ。
さて……どうしたものか。
俺が陣幕の中で頭を捻っているとパク・シルが来客を告げて来た。
ただし、パク・シルの顔に怪訝なものを見た雰囲気が漂っている。
相手の顔を知っているが、言い難いという顔だ。
「構わん、とおせ」
「……御意」
幕屋に入って来た人物の顔を見た俺も流石にびっくりした。
いや……堂々と現れただけ大したものだと思う。
「……竹島か?」
「……御意。臣、鄭汝立、王世子様にご挨拶を致します」
俺の前で頭を地に擦り付けているのは、号を竹島……大同契の頭目、鄭汝立だ。
同じく後ろで頭を擦り付けているのは息子だろう。
生きていたのか……
前世では巽竹島を襲った倭寇を退けたが、
その後、反乱軍の汚名を着せられ官軍に殺されている。
今世では件の倭寇に敗北し、行方知れずとなっていた。
敗北した事もあって今世では反乱軍の汚名も着せられず、
現状は義兵扱いだったりする。
「よく生きていてくれたな」
「……倭寇どもに遅れを取ったこと、幾重にも……」
「その方に罪は無い。官軍とて敗れたのだ」
「……ありがとうございます」
しかし、このタイミングで現れたコイツの目的は何だ?
宮廷への復権か?
それが目的だとしたら、確かにタイミングとしてはベストだわな。
義兵として敗れた倭寇を俺が打ち取った。
このタイミングで俺に近づけば復権できる見込みはある。
李 珥と対立したとは言え、コイツは李 珥の弟子だしな。
周りは別としても李 珥の性格なら水に流して迎え入れるだろう。
今回の義兵の事もあるし、宮廷も嫌とは言えないだろう。
倭寇討伐の話しが一通り終わった後、俺から話しを切り出した。
「ところで竹島、その方改めて国に仕える気は無いか」
まあ、遠回しに聞くのが一番だよね。
殆ど例外なく、みんなプライド高いし。
「官職につく気はございません」
「そうか、では余からふみ……え?」
俺は一瞬、戸惑ってしまった。
官職につく気が無い?じゃ何で来たの?
本当に単純に挨拶に来ただけ?
俺の当惑を感じ取ったのか、鄭汝立の方から現れた目的を語ってくれた。
「……本日は王世子様にお願いしたく罷り越しました」
「願いとは何だ、遠慮せずに申してみよ」
「私を……私共を王世子様の手勢に加えて頂きたく」
「余の手勢?」
頭を地面に擦り付けていた鄭汝立が顔を上げた。
その目は、俺を射抜く様に見開かれている。
「……僭越ながら、王世子様は対馬を攻めるお積り。違いますか」
「何故にそう思う」
「此度の戦に置いて見事に倭寇どもを討ったにも関わらず、宴も催さず兵も引かれておりません」
「ほう……」
コイツ、中々見ているじゃ無いか。
「そして、もう一つ」
「もう一つ?」
「はい、氷雨商団が作っている沢山の船で御座います」
「!!」
コイツ、何で知っていやがる。
周りにも殆ど知っている者はいない筈なのに……
俺は今回の出兵に合わせて、氷雨商団の潤沢な資金を使って船を増産させている。
伝統的な韓船と共に俺の記憶の中から引っ張り出した、最新の帆船技術を使った船もだ。
「……何が望みだ」
「願いはただ一つ。対馬を倭人を討つ手勢に我らを加えて頂きたい。それだけでございます」
「余の手勢……私兵に成りたいと言うのか」
「御意」
この男を抱き込んで大丈夫か?
いや、この程度の人間を使い熟せないと今後の俺は無い。
大同契……この組織力は俺の力になる。
「分かった。余に力を貸してくれ、良いな」
「ありがたき幸せ、一命にかえましても」
連絡方法などを打ち合わせした後に鄭汝立は幕屋を出て行った。
情報網もだが併せて俺は対立する東人にも伝手を握った事になる。
この場では何も言わなかったが、これだけの情報網を維持している以上、
宮廷にも影響力は残っている筈だ。
大きく勢力を失った東人だが伝手があるに越した事は無い。
対馬侵攻には何よりも親父……宣祖から新たな命令が必要だ。
さて……漢陽に帰らずに上手く命令を引き出す算段を練るとしようか。
俺は一人、口元が緩むのを感じていた。
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