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稲作への挑戦 【その2】

あけましておめでとう御座います。


本日、一作の投稿となります。

 俺の暮らす朝鮮王国は儒教を国の根幹としている。

また、この時代の東アジアの国家としての例に漏れず「農本主義」を国の基調としていた。

ただ、同じく厳しい身分制度の元にも置かれている。

俺の農業への挑戦は、この分厚い身分制度への挑戦だ。

考え事に耽っていると、ソン・ヨナが声を掛けてきた。


「臨海君様、いかがされたのですか」

「いや、何でも無い」


ソン・ヨナはそれ以上、何も言わない。

女官としての仕事をこなしながら、大行首デヘンスとして商団サンダンを切り盛りする。

その経験がソン・ヨナを成長させた様だ。ソン・ヨナの心遣いに俺は癒されている。


「最近の米の相場はどうだ?」

「米ですか?少し下がっている様に感じますが……少々お待ち下さい」


ソン・ヨナはそう言うと席を立って棚の帳簿を取って来てくれた。

氷雨商団ヨナ・サンダンの店舗は漢陽ハニョンでも有数の大きさを誇る。

開店当初は無駄に広く感じたが、今では壁一面を書類棚が埋め尽くしている。

それだけ繁盛していると言う事だ。


「最近の相場はこれですね」


ソン・ヨナが一冊の帳簿を渡してくれた。


「……確かにこの時期にしては下がっているな」

「例年でしたら、春先のこの時期には相場が上がるのですが」

「流通量が増えているのか?」

「そうだと思いますが、ここ数年は豊作だったとは聴き及びませんね……何故でしょう」


米の相場は供給量の増減は勿論の事、消費量……戦争や不作などにも影響される。

確かにここ数年、大きな戦争や不作は起こってはいなかった。

反面、供給量が増える「豊作」も起こっていない。


「まあ、良いか。始めるには丁度いい頃合いだ」

「……農業を始めると仰っていた件ですね」


俺は農業に手を出そうとして、タイミングを計っていた。

タイミングとしては豊作の翌年、米の在庫が多い年の方が良いと考えている。

農業を国の根幹に据えている朝鮮王国で農業改革を進めようとすると、反発が半端ないと考えている。

その為には農民の不安要素を少しでも除いた状況で始める方が良い。


「王様や重役の皆様のご賛同は得られたのですか」

「……まだだ」


ソン・ヨナがピンポイントで痛い所を突いて来た。

臨海君として生まれ変わってから5年の間、俺が「農業」に手を出さなかった……

いや、()()()()()()のは理由がある。

この国の、いやこの時代の身分制度のためだ。


支配階級、特に「王族」が労働に汗を流す事をこの国は極端に忌避する。

俺は庶子とは言え、王世子に最も近い「王族」だ。

そんな俺が「農業」をしたいと言うと周りから大反発を受けた。


俺を支持してくれている、イ・イにまでやんわりと止められた。

流石の俺もその反発を強行突破してまで実行に移す事は出来ない。


「何か方法はないか……」

「……両班の方々は()()()()()()が一番のお仕事ですからね」

「……儒を修めるねえ……」


半眼になってソン・ヨナを見る。

俺に対しての嫌味では無いが「両班」に対しての嫌味には違いない。

ソン・ヨナとの関係はこんなやり取りでも出来る様な間柄だ。


ソン・ヨナはいくつかの帳簿や書付を見て算盤を弾きながら俺の話を聞いている。

『何かをしながら、王族の話を聞く』

これが内殿ネジョンなら大問題だが、ここは氷雨商団ヨナ・サンダン問題は無い。


「そうだ、余が地方へ行けば良いのだ」

「それ、以前も仰ってましたよ。その上で王様がダメだと仰られたのですよね」


俺は地方なら煩い連中の目が届かないと思い、地方へ行きたいと願い出たが止められた。

成人もしていない身で何がしたいのだとまで言われた。


よく考えれば、確かに今、都を離れるのは良く無い。

東人トイン派が大人しくしているとは言え、王世子ワンセジャは決まっていない。

漢陽ハニョンを離れるのは愚の骨頂だ。

俺が留守の間に仁嬪インビン達が何をするか分からない。


漢陽ハニョンから少し離れた村でタプを手に入れました」

「何!本当か!」


俺は何気なく言ったソン・ヨナの台詞に思わず食いついた。

漢陽ハニョン近郊の農地は利便性が良い事もあって中々手に入らなかった。

強引に、例えば俺の()()を使えば可能だがそれをすれば目立ってしまう。

俺は出来るだけ()()()()農業を始めたかったのだ。


「王宮から半刻(1時間)ばかりの村で10キョル手に入れました。」

「よくやった、ソン・ヨナ!」


俺の労いの言葉に、手を止めたソン・ヨナは柔らかい笑みを返してくれた。

今からなら、耕起や土作りも間に合う。


「小作人がおりますので管理も大丈夫かと思います」

「そうか……先ずは小作人に会わなくてはいけないな」

「……臨海君イメグン様が直接にお会いになるのですか」

「ああ、そのつもりだ」


地主……まあ、そのほとんどが両班だが……は農作業には関らない。

連中は税として作物を取り立てるだけでだ。

ちょっとした両班なら取り立てすらも家令が行う。


「どの様にお振る舞いになるお積りですか?」

「……臨海君イメグンでは無く、ソン・ジンとして会うつもりだ」

「分かりました。その様に準備いたします。」


俺は氷雨商団ヨナ・サンダンの仕事で動く時は「ソン・ジン」と名乗っている。

王族として動く方が都合が良い時もあるが、庶民として動く方が都合が良い時も多い。

今回はその最たるものだ。王族が農業に関わると相手からも警戒される。


今作に間に合うように土作り、そして苗作りから始める。

さあ、念願の農業だ!気合を入れるか!






















ここまでお読みいただき感謝いたします。

皆さまから頂いた、ご感想、ご評価、ブックマークが励みになっております。

今後ともよろしくお願いいたします。


※農地の面積等について


朝鮮王国では農地の単位を面積では無く、播種単位で表していました。

この為、時代によって面積が変動した様です。

本作ではわかりやすさを目的としまして、基本「キョル」とします。

イメージとしましては150坪程度となりますので、日本の農地では半反程度です。

収量もこの単位を基として進めて参ります。


※農地の名称について


(タプ)……水田の事

田……畑の事 『畑』は日本独自の字(国字)

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