のど自慢大会
演歌は好きですか。
「シャモ?、シャモ!どうした。困った事があったのか?」
シャモを見つけ、俺は慌てて駆け寄った。
「うん。困ってるの、助けて」
昼の部、子供会によるダンスの披露が終了し、次に老人会によるのど自慢大会が始まった頃、シャモと友達が、ステージの裏の役員控所にやって来た。
ジャモも友達も足取り重く、疲労感漂う表情で、ゆっくり近づいてくる。
それもそのはず、シャモと友達の両腕には、お菓子やジュース。屋台の景品などがいっぱい入ったビニール袋が掛かっている。
「どうしたのこれ、全部買ったの?」
俺は、シャモと友達が持っている袋を、受け取った。
「あ~助かった。重くて、手が痛かった~。このリンゴ飴と、ちーか〇のお面は自分で買ったけど、後は、近所のおじさんやおばさんが買ってくれたり、商店街の出店中の人が、サービスで付けてくれたりしたんだ」
「そうなんだ、シャモも友達も人気者だね。怖い事や危ない事はなかった?」
「ん~。屋台の端まで行ったら、車に乗ってる人から道聞かれたけど、自転車で通りかかったお兄ちゃん達が、私達の代わりに道を教えてたよ。
お兄ちゃん達から、危ないから、お祭り会場に戻りなって言われた~」
「へ~。そう。車のナンバープレート覚えてないよね?」
「覚えてない」
「じゃあ、自転車のお兄ちゃん達で知ってる人いた?」
「ん~。知らない」
「・・・。たぶん、みっちゃんのお兄ちゃんが居たと思う」
「友達、後でみっちゃん家教えて、お礼に行ってくる」
俺は平静を装っていたが、心の中では激怒していた。
町内会の夏祭りに不届きな輩がいる。みっちゃんの兄にお礼と、不届きな輩の情報をもらい、立ち直れないほどの制裁をくらわせてやろうと誓った。
その後、シャモと友達はステージ裏で、俺と一緒にのど自慢大会を見ている。
のど自慢のおじいさん、おばあさんが、歌謡曲を熱演している。
「・・・酒場通りには、・・・女がにあう・・・」
「?」
どこからか、小声で、歌ってる声する。
周りを見渡すと、友達が、ステージ上のおじいさん、おばあさんを、キラキラした目で見つめながら、歌謡曲を口ずさんでいた。
「友達、歌いたいの?」
「・・・。」
友達は、顔を真っ赤にして、大きく顔を横に振る。うつむいてしまった。
「今なら、まだ、時間あるからエントリーできるよ」
俺が、冗談で話すと。
ガバっと、友達は顔を上げ、
「できるの?」
と、キラキラした目で聞いてきた。
「おっ。う、歌う?」
「・・・でも、恥ずかしい」
「エドちゃんて歌うまいんだよー。恥ずかしいなら、ちーか〇のお面付けて出ればいいんだよ」
友達は、ちーか〇のお面を握りしめ
「出たいです」
と、小さくつぶやいた。
「おっ。おう。じゃあ準備しようか、歌謡曲しかないけどいい?」
「うん!」
友達は、満面の笑みで、元気に答えた。
「舞い上がり~揺れ落ちる~肩のむこうに、あなた・・・。山が~終燃える~♪」
友達がステージ上で、ちーか〇のお面つけて、天城越〇を熱演している。
なんて歌唱力。なんて表現力。力強さの中にも、女の切なさ。揺れ動く感情が表現され、聞く者の心を撃ち抜く。ちーか〇お面の歌に、誰もが引き込まれていく。
「戻れなくても、もおいいの~、くらくら燃える地を~はって~♪」
観客のおじいさん、おばあさんは涙を流して拝んでいる。
歩いていた客も屋台の亭主も、足を止め、歌に聞き入ってる。
辺りに、動く音はなく、ちーか〇お面の天城越えだけが響き渡る。
「あなたと~ォ、越えたい~。あまぎ~ご~え~♪」
一瞬、”しーん”と静まりかえった会場に、割れんばかりの拍手が鳴った。
俺も、茫然と立ち尽くしている。
「レイザーさん、レイザーさん、レイザーさん!」
シャモが俺の袖を引っ張った。はッと、我に返る俺。
まだ、夏祭り会場全体が、割れんばかりの拍手に包まれていた。
これ、不味いんじゃないか、
友達すでに、魔術が開花している!!!。
俺は以前、魔術を肌で感じた事がある。今の感覚がその時と似ている為、開花しているとわかった。
開花した者は稀で、政府が保護、管理下に置くほど貴重な存在だ。
友達の魔術はおそらく『歌』。歌で人の心を動かす力。
この魔術は、使い方次第だ。
歌によって、人を励まし、勇気づける事も出来るだろう。
反対に、戦争や、宗教など思想を反映させた歌を歌えば、信者を増やし操ることも出来る。
危うい。
幸いにも、町内会のステージで規模が小さい。
近所の人で、魔術を浴びた事のある者は少ないはず、魔術が発動している事に気付いていない可能性が高い。
魔術を発動させ、心に響く歌を歌ったのが友達だと、辿り着くには時間がかかるはずだ。
俺は、すばやくステージに上がり、司会進行して、興奮さめやらぬ、のど自慢大会の幕を無理やり降ろした。
◇◇◇
俺は、夜の部の夏祭りにも行きたいと、駄々をこねるシャモを説得して、家に帰って来た。
「シオンさん。情報を集めて下さい。
今までに魔術が開花した者達の特徴と、その後の生活。魔術が人々に与えた影響。
政府への届け出、政府から課せられる条件。開花した者の人権や、特級。など何でも構いません。詳細に集めて下さい」
シオンさんは、黒髪で少し頭頂部が寂しい、スーツを着て、眼鏡をかけた、どこにでもいる中肉中背のおじさん。
いつもは、俺の自宅の敷地内にある、管理事務所で働いている俺の秘書だ。
「シオンさん、屋台でもらった、サイダーと、イカ煎餅あげるね。がんばって下さい」
「ありがとうございます。シャモお嬢様、がんばりますね」
シオン秘書は、足早に部屋を出て行った。
「さて、友達。両親はご在宅かな?連絡取りたいんだけど」
「・・・お父さんは死んじゃっていないの、お母さんは夜勤で、たぶんもう出勤してる。家にじいちゃんと、ばあちゃんがいるよ」
友達は、今にも泣きそうだ。家に着くまで、馬車の中で、魔術が開花している事、今後の起こるであろう事を話したから不安でいっぱいなのだろう。
「大丈夫。魔術が開花したことは悪い事じゃない。喜ばしい事だ。でも、開花する人が少なくて、いろいろと手続きが必要なんだよ。大丈夫。俺が何とかするからね」
「そうだよ。レイザーさんに任せておけば大丈夫。私の部屋でお菓子食べよう。今日はここに泊まるんでしょ。パジャマ貸してあげるね。パジャマパーティーしよ」
「・・・うん」
シャモと友達は手を繋いで、部屋に戻っていった。
◇◇◇
その日の夜。ここは俺の執務室。
「こちらが集めた資料になります。明日また、追加で詳しい資料をお持ちします」
シオン秘書は、集めた資料を執務室の机に置いた。
「シオンさん。家のセキュリティーはどうなっていますか?」
「はい、敷地の庭は番犬の数を増やし対応。敷地内の巡回数も人数も増やしました。
シャモお嬢様の隣の部屋には、ボディーガードの侍女をいつもの倍、配置しています」
「友達の家の方はどうですか?」
「はい、隣の住人はすでに、我が商会の腕利き夫婦が住んでいますし、こちらでも一般市民に紛れた巡回を開始しました」
「近所の、噂はどうなっています?」
「はい、何匹かスズメを使って、事実を少し、嘘を多めにして、のど自慢大会の話を積極的に流しています。明日には、どの噂が本物かわからなくなるでしょ」
「わかりました。引き続きお願いします」
白河・DG・夜舟様より頂きました。天城越〇を熱唱する友達のエド(Edo)ちゃん。
レイザーやっと、次期商会長らしい面を見せれた。
次は、パジャマパーティー。




