ネイルの良さがマジわからん
女心は難しい。
「ちょっと待って、待ってシャモ。止まって、怪我した?」
「なに?レイザーさん。いまから話題のケーキ食べに行くんだけど」
俺は、流行りの喫茶店に出かけるシャモを、玄関で引き留め、駆け寄った。
シャモの指先が、血が滲んでるように見えたからだ。
俺は慌ててシャモの両手を取り、じっと指先を見る。
「ん?ん?何これ?怪我じゃない。爪を黒と赤で塗ってるの何で?しかもゴミついてるよ」
「ふふふ。かわいいでしょ~。デコったんだ~」
にこにこ上機嫌で、両手の爪を見せてくるシャモ。
隣にいた、友達も両手の爪を見せて来た。
「おっ、いたんだ友達。こんにちわ」
「・・・おじゃましています」
小さい声で挨拶する友達。
「あー、シャモ、ケーキ好きだもんね、喫茶店行きたいよね。でも一旦リビングに行こうか、2人ともね。ね。ね。」
俺は玄関のドワノブに手をかけ、笑顔を作って、圧をかけた。
「もおー、少しだけだよ。私達も暇じゃないんだからね」
ほっぺたを膨らまし、生意気な事を言いながら、ずかずかとリビングに向かうシャモと友達。
俺は笑いを堪えながら追いかけた。
「シャモ、その爪どうしたの?見せて。シャモって黒と赤のマ二キュア持ってたっけ?友達の?」
俺はシャモの手を取り、爪を観察。なんかマジックの匂いがする。
「ジャモ。ん?ん?ん?ふふふふ。何これ、何つけてんの?教えて」
シャモの爪は、一本一本違う色で、ゴミみたいのが付いている。
「じゃじゃーん。いいでしょ、かわいいでしょ。
私達マニュキア持ってないよ、マジックで塗ったんだ」
得意げに小胸を張り、爪を見せびらかすシャモと友達。
「ぷふぁ、ふふふふ。何で塗ろうと思ったの?1本1本指のコンセプトを教えて」
俺は、口元を手で隠し、笑いをこらえいる。
「えーと。昨日の学校の帰り薬局の前を通ったの。そこに貼ってあるポスターに”おしゃれは指先から”って書いてあってね。だから、爪を着飾ろうと思ったんだけど、マニキュア持ってなくて、マジックでいいやってなったの」
「マジックでいいや・・・ふふふ。それで、黒と赤チョイスなの?。」
「そうだよ。他の色なかったもん。油性だよ。事務のシオンさんに借りたんだ。
じゃあまず、人差し指ね。これはね、熊さんなの、かわいいでしょ」
え!顔なの、そう言われれば、赤い爪に滲んだ黒線が、ニコチャンマークに見えなくもない。ある意味ホラー。
「次に中指ね。これはね、兎さんを書こうとして失敗して黒く塗りつぶしたんだ。でも黒だとかわいくないから、中指を木工用ボンドに浸してビーズを上から振り掛けたの。夜空の星みたいでしょ」
ん~。ボンドが拭き切れてなくて中指、カピカピになって固まっちゃってる。
さっきから、ぽろぽろ、ぽろぽろ床にビーズ散らばってると思ったら原因はこれか~。
「次は薬指ね。これはリボンを指全体に巻いてみたの。綺麗でしょ」
リボン何故、白色にした。包帯にしか見えない。
「次に小指ね。ラッピングで使う、花の形のリボンを付けてみました~。キラキラキラ」
あれな、贈り物に付いてるフラワーリボンな。指に対して大きい。ずっと小指だけ立ててる。
「最後に、親指。始めは小指に付いてる花の形のリボン、親指に付けてたんだけど取れちゃって、結局、赤と黒のシマシマにしてみました」
してみましたって、かわいく言ってもダメ。油性マジック滲んじゃってる。爪以外にもマジックはみだしちゃってる。昔のホラー映画『エルム街の悪夢』殺人鬼フレディが着ているTシャツ柄だよ。ホラー感マシマシ。
「あー。んー。そーだね。かわいいね。友達も一緒の柄?そう一緒なのね。友達拒否していいんだよ」
「・・・かわいいと思う」
あー。友達もシャモと一緒の感性だったかー。
「ん~。あー。そうだ。シャモ。俺、今日、めっちゃガトーショコラ作りたい気分なんだ。俺が作るガトーショコラ美味しいよね。だから今日は、話題のケーキ屋に行くの辞めない?」
「えー。でも、今日を楽しみにしてたしー」
口を尖らして、ぶっちょう顔のシャモ。
「そうだ、いつもシャモって、長方形ガトーショコラの4分の1は食べてるでしょ。今日は特別に半分食べて良いよ。友達と半分こね」
「え!いいの!やった!。今日喫茶店行くの辞めよう。レイザーさんが作るガトーショコラは、マジでおいしいから一緒に食べよう」
「うん」
シャモと友達は、俺に尊敬のまなざしを向けている。
「俺が、ガトーショコラ作ってる間に、その爪の装飾、落としてきて。食べずらいし、食べ物に落ちたら不潔だよ」
シャモと友達は顔を見合わせ、洗面所に駆けていった。
「あー、落ちない」「たわしないかな」「爪削ろうか」
洗面所から、油性マジックと格闘している声が聞こえる。
「爪削るのは無しねー」
俺はキッチンでチョコレートを溶かしながら叫んだ。
◇◇◇
「さて、どうしたものか」
昨日は、なんとかガトーショコラで釣ったが、シャモの事だ、今度どこかに出かける時は、また爪を飾ろうとするだろう。
ここは異世界、マニキュアがあるには、あるが一般には広がっていない。貴族が使用する物だという認識だ。
んー。化粧品なんて使った事がない俺が、女性のお洒落がわかるはずがない。
考えても仕方ない。餅は餅屋。化粧品は化粧品会社。行ったことないけど、行ってみるしかないか。
俺は早速、王都の一等地にある、自社の化粧品会社へ足を運んだ。
「お待ちしていましたわ、次期会長。お初にお目にかかります。私、化粧品会社社長のエリザです。どうぞお見知りおき下さい」
深い緑色のワイシャツに白い女性用のスーツを着こなす、ばっちり化粧した物腰柔らかな美魔女が俺を出迎えた。
「こちらこそよろしく。忙しいところ時間を作ってもらい感謝する」
化粧品会社のロビーは、めっちゃいい匂いがする。すれ違う女性もレベルが高い。
「いいえ、次期会長に挨拶できただけで、成果があったようなものですわ」
エリザ社長は、口元に手をあて、妖艶に微笑む。
俺は、エリザ社長の、爪に目がいった。
「その爪、深緑色のマニュキアを塗っているのに、爪に艶があって光が反射して綺麗だ。よく長い爪に、マニュキアをはみ出すことなく綺麗に描かれますね」
「おほほ。お褒め頂きありがとうございます。日頃の爪の手入れは必須ですし、私は専属のネイリストに描いてもらっています」
「日頃の手入れに、専属のネイリスト!」
「私達の顧客は大多数が貴族。当然貴族には専属のネイル担当が付いています」
「平民には、マニュキアは手が出せないですか?」
「マニュキアは価格的には、平民でも、特別な日の自分へのご褒美程度の値段なので、手が出せなくもありませんが・・・。普通に生活していると、爪は痛んでいきます。痛んだ爪にマニュキアを塗っても光沢は出ません。かといって、平民は爪のケアをする時間もお金もないので、爪のお洒落が後回しになってる現状です」
俺は思い出していた、俺がよく行った100円ショップの化粧コーナーに、爪のサンプルみたいな、つけ爪シールが売っていなかったか。
俺は、いつのまにか小さくつぶやいていた。
「作った爪に色を塗って、自分の爪にシールで貼ったら、簡易的だがマニュキアを塗った爪のように見えないかな」
「何ですって!!!・・・・・詳しく話して!!!」
エリザ社長は、俺のつぶやきが聞こえたのか、俺の両腕を強い力で掴み、鬼後形相で詰め寄る。
「痛い痛い痛い、顔が近いです。爪が俺の腕に食い込んでいます。落ち着いて、離して下さい」
「失礼しました。興奮してしまって。私は美は女性にとって生きるスパイスだと思っています。より多くの女性に美しくなってもらいたい。だから、次期社長が考えている案を洗いざらい吐き出して下さい」
俺は、美魔女に引きずられるように、会議室に連れ込まれた。
会議室では、エリザ社長以外にも、化粧品開発者や広報担当者、予算担当者など、美魔女が押し寄せ、100円ショップにある付け爪案のほかにも、爪に塗るのは一色ではなく、グラデーションをつける事や爪に直接絵を書く事、小さな宝石やかわいい布でデコる事など、俺の持ち得る少ない情報を提供し、美魔女達による白熱した議論が交わされた。
会議室に半日。男、俺1人。化粧臭い部屋で、逃げ出すことが出来ず、心身ともにぐったりした俺。
「やっと脱出できたー。俺に、化粧の事やマニュキアの事、意見聞かれても、良さなんてわかんねーよ」1人愚痴りながら、帰路についた。
◇◇◇
「見て見て、レイザーさん。今日の私、何が変わったでしょ」
「ん~、前髪切った?」
「ブー」
「ん~、リップ変えた?」
「ブー」
「ん~。胸が大きくなった?」
「違うー、わからない、じゃあヒントだよ」
シャモは、顔の前で、両手をひらひら。
「ん?あっ!爪が綺麗」
「そう!正解。レイザーさんにもらった、付け爪サンプル貼ってみたんだ。いいでしょ。友達にもあげておそろいにするんだ」
シャモはご機嫌で、いつもの公園に出かけて行った。
美魔女会議から半月後。
まず化粧品販売所で、1回使い切りシンプルな付け爪を、手ごろな値段で販売。瞬く間に完売した。次にバリエーションを何種類も作り販売。即完売。
薬局、文房具店でも販売開始し、瞬く間に平民の間に付け爪は浸透していった。
貴族の方には、ネイルアートや小さな宝石を散りばめたネイルが流行り、一世を風靡。
我が商会、化粧品部門は右肩が上がりで利益爆上がりした。
白河・DG・夜舟様より頂きました。美魔女の化粧品会社社長エリザ
この連載は、”熊本の彼氏”さんのYouTubショート動画からヒントを得て作成しています。(内容はショート動画と違います)YouTube見ていただけたらイメージがつきやすいと思います。




