スリの少年
街の中を歩きまわる、情報屋に二人会ったがどちらも知らなそうだった。
いきなり当たりをひくとは思っていなかった。
「そろそろお土産の饅頭でも買って帰りますか……。っと、すみません」
キャスケット帽を被った子どもとぶつかった。
すまないと声をかけるまえに、同時に懐にあるはずの財布がないことに気がつく。
「スリか!」
だがこっちだって長年旅をしていて何も策を講じていないわけではない。強化の魔術をかけた糸が財布とベルトに結んである。だから糸を引っ張ればスリを釣れる。
「うわっ! 離せ!」
逃げないように襟を掴んで持ち上げる。手足を振って暴れるが離すつもりはない。
それにしてもこのガキ軽いし手足は細い。ちゃんと食べているのか?
「ここではなんですから場所を移しますよ」
「離せー!!」
本当にうるさいガキだがとりあえず宿に連れ帰ろう。
「この子誰ですか? はっ、もしかしてユーグさんの生き別れの兄弟ですか!?」
「もしかしたら隠し子かも?!」
「きゃー!」
ガキは、しばらくしたら大人しくなったのでとりあえず宿に連れてきていた。
「ベタなギャグをかましましたね。5点。それよりこれがお土産です」
「やったぁ、お饅頭だ!」
「ううむ、厳しい点数」
するとマリアは、饅頭の箱ごと踊り始める。
饅頭一箱買ってきてこんなに喜ぶとはな。
「ベル少し早いが夕食を頼めるか?」
「かしこまりました♪今日は具沢山のチキンカレーよ」
ベル……無駄にウインクを飛ばすな。
「やったぁ!」
マリアは、テーブルを前に大はしゃぎだ。
ガキはさっきから下を向いたまま動かない。
無理やり連れてきたからなぁ。
そのうちカレーが運びこまれてきた。
「顔をあげなさい。せっかくのカレーが冷めますよ」
「えっ」
ここで初めてはっきりとスリのガキの顔をしっかり見えた。
黄色の髪に赤の瞳の少年で、顔立ちから見て10歳前後と言ったところだろう。
「食べていいの?」
「いらないならいいぞ。隣にいるマリアが全部食べてしまう……いや飲んでしまうからな」
念のためマリアを確認すると皿の八割は食べ終えている。
この勢いだとあと七杯はいけるな。なんて思っているとガキが一心不乱に食べ始めた。
「食べていいですよ」
「おかわり!」
マリアが元気いっぱいに言うが口についたカレーをなんとかしてほしい。
「私の分を食べるか」
「いいんですか!ありがとうございます!」
マリアは、満面の笑みを浮かべて私の分のカレーを受け取った。
あそこまで嬉しい顔をされるとこっちもうれしくなってくる。
「それにしてもよく食べますね」
「このカレー美味しいですもん♪ちゃんと辛いですし」
「確かにユーグさんのカレー甘そう。チョコレートでしょ牛乳でしょそれから……」
「悪かったな。甘党で」
なんであんなに辛いものが食えるんだ!?それにスパイスが効いてる=辛いじゃないんだぞ!
「あっ、あの‥」
「うん、なんだ」
「おかわりしてもいい?」
スリのガキがおずおずとスプーンを握りしめながら聞いてきた。
意外に小心者だ、子どもは子どもらしく生意気でいるくらいがちょうどいい。
「キャー♪カワイイ! お姉さんいくらでもおかわりさせちゃう」
そう言って空になった皿にカレーを盛り付ける。
そしてまた食べ始める。
「「ごちそうさまでした!」」
マリアとガキが食べ終わった。
マリアは予想を上回り9皿、ガキは5皿になる宿で食べたから宿の料金。
よって国が支払ってくれるからタダだ。
「坊主の名前はなんていう?」
「坊主じゃない僕の名前は、クローブ。商人だった父さんがつけてくれたんだ!」
「クローブかぁ。じゃあクーちゃん!」
マリアが手を出すとクローブも百面相しながら手を握りかえした。
おおかた歓迎してくれるのは嬉しいが女のような呼び方をされたくないといった所だろう。
「クローブ痛い目にあわないうちに今していることをやめなさい」
「クーちゃん、何かお仕事してるの? 偉いなぁ、私がクーちゃん位の時泣いてばっかりだったよ」
「したくてしてるわけじゃない。俺は何が何でも生きなきゃダメなんだ! 身寄りのない餓鬼を雇ってくれるとこなんてないんだ」
クローブが思いっきり机を叩くと周りにいた客がざわつき始めた。
「しなくても生きていけるなら止めるか?」
「止める!」
「ならここで働かせてもらえ」
この言葉に一番驚いたのは、ベルでお盆からコップが床にぶつかる前に自分でキャッチして拍手をもらう。
「で!? うちの宿!」
「ここほどいい場所はないと思ったんですがね。寝食に困らないですし荒事もありますし」
「いや、ふつう荒事ないほうがいいわよね」
「将来を考えると箱入りは、クローブが困りますよ」
「そうかもしれないけど話の論点が変わってない!? なんで私の店で雇わなきゃいけないの! ユーグさんのとこそこそこ大きいんだからそっちで雇えば‥」
「私はいつ終わるかわからない旅にでます。それでポウルに店を任せませましたが今いらないことまで教えそうで……」
ここで溜め息をおまけにつける。
ポイントはなるべく心配だというオーラをだすこと。
「ポウルならやりかねないわね……。でもだめなものは駄目駄目! 自分が連れてきたんだから自分で面倒を見なさい!」
ちっ、落ちなかったか。だが、ここで予想しておくべきだったことが起きた。
「俺が結局邪魔ってことだろ。そんなことわかってる! 変に関わらなくていいよ!!」
クローブが机を叩いて外に飛び出した。
「ちょっと! 外に出て行っちゃったわよ。ポウルの店にも私の宿にも置けないなら一緒に旅をすればいいじゃない!」
「魔王討伐の旅に子どもを連れていけるわけない!」
魔王討伐の言葉に周りの客がざわめく。
「魔王討伐!? どういうことよ!」
ベルが掴みかかって来るがそれをマリアが引き離す。
「待ってください。これはクーちゃんが決めてクーちゃんが自分で動くことです! 今ユーグさんがしようとしてるのはただのおせっかいです」
「おせっかい?」
「はい、おせっかいです。クーちゃんが一番居心地がいい場所はクーちゃんだってわかります」
「……わかった。だが先に連れ戻すのが先だ。マリアはここで待機」
「りょーかいです!」
マリアが俺に向かって敬礼するが、まったくどこで覚えたのやら。
「行ってきます!」
探すのは黄色の髪に赤い瞳で茶色の帽子を被った少年。




