迷子はヤメロ
「まったくかなりのドジだとわかっていたがここまでとは思っていなかったぞ!」
「怒る前にマリアさんを探すべきです。この森には、オークが住み着いていると城の報告書で見た覚えがある」
なぜこうなったのかは30刻前まで遡る。
城下を出た俺達は、隣の町に行くために森の中を歩いていた。
「なんで隣の町に行く必要があるのですか? あそこは、城下の閉門に間に合わなかったものが行く場所。そんな場所になぜわざわざ寄る必要があるようには思えない。それに辛そうなマリアさんを長々と歩かせるわけにはいきません」
確かにマリアは、睡魔でだいぶ辛そうだがこれくらいは耐えてくれないと今後の旅に差し支える。
「それと城下にはない情報を持つものがいる可能性があります」
「なるほど“昼でも城下に入れない”ならず者達から情報を買うということですか」
城下を出る前に集められるだけ魔王についての情報を集めたが、大昔に封印されたというおとぎ話くらいだ。
表の情報ではきっと集まらないだろう、ならば裏の情報が集まるあの街がいいそれにアイツの店がある。ただしこのお堅い雰囲気のウィレームが、うるさく言わないか心配な場所ではある。
「私としてはあまり信用できないと思うが偽りの中にも真実がある可能性もある」
ユーグは、ウィレームの言葉を意外に思った。
ただのお堅い騎士だと思っていたがなかなか真理をついている。
「そういえばマリアさっきから静かですがついて着ています……? マリア!」
「どうしたんですかっ……マリアさんがいない。どこかではぐれたというのか!?」
後ろにいるはずのマリアが見当たらない。
一体どこに行ったのか見当もつかないが、ウィレームと周りを見ながら来た道を走る。
「獣道がありますぞ」
マリアがいないと気がついた場所からしばらく戻った場所に獣道があった。
「マリアなら行きかねない」
「よく見ればオークが作った道では?道の所々に堅くて細く…重いものを運んだ形跡がある」
「堅くて重いものということはトマホーク!?」
トマホークは、投擲に適した斧でありオークが好んで使うと言われている。
オークはあまり頭の良い種族ではないが、己の体よりも大きく人間並みに重いトマホークを扱うその膂力は脅威だ。
「なんで最初から問題を起こすんだ。あのトラブル娘」
「それにしてもマリアさんがおりません。あの疲れようでしたのにそんなに早く移動出来るとは思えない」
ウィレームが辺りを見回すと眉間に皺を寄せる。
森で人がいなくなったら厄介だ、木々で視線を遮られ遠方を望むことは難しい。
音をだせば周りの不特定多数に存在を知らせることになる。
「連れ去られたとでもいうのですか」
マリアが襲われる最悪な状況が頭をよぎる。
「あれは!?」
木々の先の光がキラキラと金色に光る。
「マリアさんは、金髪ですからマリアさんかもしれません」
「とりあえず行きます。念のため武器を出してください」
「承知!」
俺達は、金色に輝く場所に突っ込んだ。
そこは、空けて広場のようになっていてマリアが変な踊りを踊っている。
しかもオークの集団の目の前でだ。
「マリア何やってる」
「この人たちと喋っていました!」
無事そうなマリアに安堵の溜め息がでる。
「マリアさんそれオークですよ」
「オーク? えぇ!? そうなんですか!」
わからなかったのか?知らなかったのか?
「それよりユーグさん大変です! 解毒薬をください」
解毒薬?
「この方達の子どもが毒で苦しんでいるんです!」
「簡単に薬は出せません。まずそのオークの子どもを私に見せなさい。それから症状にあった解毒薬を売ります」
「えっ、売るんですか?」
人間だろうが魔物だろうが商品が欲しいなら客。
きっちり金をいただくさ。
「あたりまえです。私は言葉がわかりませんから交渉をマリアに任せます。出来ますね」
「もちろんです。任せてください!」
マリアは、そういうと身振り手振りで何かを伝え始めるとオークはときどき首を傾げる。
ウィレームは、そのうちの一匹のオークがどこかに走っていくのを見て身構える。
「ウーさん、どうしたんですか?」
「オークが走って行ったので他のオークを連れてくるつもりかと」
「違いますよ? 交渉して交換する品物を持ってきてもらってるんです」
「そうですか。よくやりましたね」
俺はマリアの頭を撫でるとマリアはニコニコ笑った。
「そういえば解毒薬の必要な子どもはどこです」
「あっ、こっちです!」
マリアに連れられて行くと腹を押さえて呻いているオークがいた。
「このキノコを食べたらお腹が痛くなったらしいです」
マリアが白くて傘がひらひらしたキノコを渡してきた。
「コチュウダケだな。毒性はなかったはずだが……」
ならなぜオークは苦しんでいる。
コチュウダケの効能、特性は……!あれだ。
「たしか……わかったぞ! 毒消しじゃない虫下しだ」
「むっ、虫下し!?」
「たしか念のために入れてた……あった」
俺は鞄から虫下しの丸薬をだし、オークの口をこじ開けて丸薬と水を流し込む。
それから吐き出さないように口を押えた。
「吐き出すな! 飲み込め!」
最初は、体をばたばたさせていたが飲み込んで静かになった。
「虫下しが効けば腹が痛くなくなるはず。ウィレーム様悪いですけどマリアを連れてちょっと離れてくれませんか」
「なぜ」
「マリアが見たら叫びだしそうなことが起きるからですよ」
「よくわからないが承知した」
ウィレームがマリアを連れて行った。
虫下しは、腹に来るということはなるものは一つだはっきり言って俺も見たくない。
早く時間が過ぎないものだろうか。
オークの容態が良くなったようなので後処理をして元の場所に戻る。
「なんですかこれは……!」
山のように積まれた武器と宝石と付属品であろう立派な箱。
これだけあれば良い品があるかもしれない。
「この中から好きなだけ選んでいいそうです! すごいですよねユーグさん」
「ですが量より質です。いいものがなければ意味がない。そういえばウィレーム様はどうしたんです。騎士なんですから武器などの目利きが出来ると思ったのですが」
「それがウーさん大興奮で武器の山に突っ込んでしまって……」
それ以降出てこないってか。面倒くさいから腕は立つようだし、ウィレームのことは後回しにしよう。
「マリアは、何かめぼしいものは見つけましたか?」
「わっ、私はユーグさんと一緒に探した方がいいと思ってまだです!」
「それでは一緒に探しましょうか」
とりあえず一番近くにあった宝石を見るが大したものはない。
数はあるのでいくつか集まればそれなりの値段になりそうだった。
質が悪い宝石でも魔導の触媒にと買う客がいる。
「これは……」
たまたま目に入ったのは木の腕輪。腕輪には翡翠や瑪瑙、水晶などが埋め込まれていて細工が美しい逸品だ。
「何かいいものありました……? なんかその腕輪嫌です」
「悪趣味な腕輪ではないと思うのですがね?」
「なんかその腕輪を見ると逆に見られてるみたいで……。気持ち悪い」
気持ち悪いなんてよほどのことだろう。
たまに台所にいる黒い奴を"カブトムシ!"と叫びながら追いかけ回すような人物なのだ。
「ユーグさんそれ捨てましょう!」
「いや、持って行く。こういうのが好きなコレクターはいるからな」
鞄の中に腕輪を入れた、何かあったら捨てればいい。
「命と金どっちが大事なんですか」
「命だが時には命を賭けなければ得られないものもあるさ」
虎穴にいらづんば虎児をえずという言葉があるがマリアに通じるかどうか。
「ヒヒィン! ヒヒィーン!」
一匹のオークが青毛の馬を連れてくるが、懐いていないのか手綱を引くたびに抵抗している。
「いい馬ですね。陛下に献上したいほどの名馬だ。その馬もいただいていいのかな?」
マリアが身振り手振りで伝える。オークは、首が引きちぎれるのではないかとばかりに首を横に振った。
「いいそうです」
「横に振ってたが」
「横に振るのはハイですよ」
いまいち伝わりにくいこの会話が不安になるが本当に大丈夫なのか。
「ウーさんこの馬が欲しいんですか?」
「あぁ」
そういってウィレームが手綱を持とうと手を伸ばすと、馬は頭を振り足を地面へと踏む。
「いやがっているんじゃないですか?」
「そんな」
ウィレームが落ち込み肩を落とすと機嫌よく馬が鳴いた。
乗り手を選ぶのか?
「私はどうですかね~」
マリアが手綱を持とうとすると頭を振る。
やはり駄目らしい。
「ユーグさんならどうなんでしょう」
「さぁ、わかりません。馬にテストされるなんてそうそうありませんから……」
万が一気に入られても困る、じゃじゃ馬は一人で十分だ。なんて思いつつオークから手綱を"預かった"。
「ユーグさんだと暴れませんね♪すごいです」
「この子の琴線に何か訴えたのでしょうな」
この馬連れて行かなきゃだめなのか?
「ヒィイン!」
馬が腕に鼻先をこすりつける。確か甘える行為だったが、俺に媚びを売っても何も出ないぞ。
「ユーグさんのこと大好きみたいです!」
「ふしぎなくらい懐いてますな」
なんで面倒な奴ほど俺に懐くんだ!
でも荷物持たせるにはちょうどいいかもしれない。砂漠地帯を抜けるときに馬か駱駝は必須だと聞いたことがある。
「よし、お前も連れて行こう。ウィレーム様は何かいいものを見つけましたか?」
「業物と言ってよいほどの物があったのだが私の専門外でな。旅の途中でなければ持って行くのだが」
「専門外?」
「私はバスターソードなど刃渡りが長いものを得意としています。ですがここにあるのはレイピアやシャムシールあと大まかに短剣と呼ばれるものしかありません。あってもあまり良い品ではありません」
「よくわからないけど種類があるですね」
マリアは、うんうんと頷いているが絶対によくわかっていない。
「はい、あと杖なんかもありますが私は魔導の祭がありませぬ故に杖も使いません」
「杖かあ。ちょっと見たいな」
そういうとマリアは、杖を見て興味をすぐに失ったように目をそらした。
「ここにあるの可愛くないです」
「マリアさんは魔術を使えるのですか」
「ううん、使えない。お腹空いたから早く町に着いてご飯食べたい」
誰のせいでここにいると思ってるんだ。
「ヒィイン!」
「ひーちゃんもそう言ってます」
「待て、ひーちゃんって誰です」
「この子です!」
マリアが自身満々に馬に指を差す。
もうちょっといい名前をつけてやれよ。
「違う名前の方がいいと思いますね。チャロアイトとでもしましょうか」
そう言うとチャロアイトは、首を縦に振り鼻を押しつけてきた。
たぶん名前を気に入ったのだろう。
「チャロちゃんか。可愛い名前だね」
勝手に名前を省略するな。
「そろそろ行かなくては日暮れ前までに街につけなくなるから行きましょう」
「そうですね」
「じゃあ、みんなバイバーイ!」
マリアが手を振ると小さいオークが真似をして手を振った。
人間と怪物の奇妙な光景だがどこかホッとするのはなぜなのだろう。
その理由がわからない。
だがそのうちおのずとわかることもあるだろう。
ユーグはそう思うことにした。
こうして3人と1匹の旅が始まる。彼らの行く先に何があるのか何が起こるのか。
唯一知るものがいたとしても伏せておこう。




