仮
俺たちは、師匠のところで昼食をいただいた後またピアンに乗ってエルフの村に戻ってきた。
マルクスが目を丸くするほどスープとパンをごちそうになったのにマリアの足取りは軽い。俺だと気持ち悪くなりそうだ。
「ただいまー!」
「おかえり、マリアお姉ちゃん!ユーグ!」
満面の笑みを浮かべたクローブがでてきた。するとマリアが離さないとばかりにクローブをきつく抱きしめる。
「マリアお姉ちゃん苦しいよ!」
「目ざまじでよがっだよ~」
マリアは、ぼろぼろと大粒の涙を目からつぎつぎと流した。その涙は、クローブのふわふわとした茶髪につぎつぎと落ちていく。
「もうちょっと待ってくれクローブ」
俺がそういうとクローブが無言でうなずく。歳のわりには人の言いたいことを理解する能力が高い。
「マリアお姉ちゃん、ごめん。でも、ありがとう」
「う゛ん」
より一層泣き出したので俺は、ハンカチを差し出した。マリアは、それを受け取ると涙を拭いてから鼻をかみやがった。
「ハンカチ代5円になります」
「お金とるんですか!?」
だれが洗濯したとしても鼻かんだハンカチを使うもんか。買い取れ!部屋の扉からチロチロとハンカチを見ている輩がいるが物好きすぎだろう。
「あははっ、君たちはおもしろいねぇ。新しいひとがくるとこうも違うのか」
「おもしろいですかね?くーちゃん」
「すくなくともマリアお姉ちゃんはおもしろいよ」
「うーん、そうかしら??」
この間のぬけた雰囲気はどうやったらでてくるのだろうか。商談がうまくまとまらないときとか使えそうな気がするがやりかたがわからん。
「マリアさんは・・・・かわいらしくておもしろいです」
「あっ、ウーさん」
やっとでてきたな変態。さっきの行動でお前の株は急降下中だ。
「エルフたちとの手合せはどうでしたか」
「えぇ、やはり魔法と関係の深い一族のためか魔法と攻撃の使い方がとてもうまいです。とくに弓などは、参考にしたいですね。すべての矢に属性付加をするのがとてもうまいです。魔方陣などの補助なしにできるのはすばらしいです」
「魔方陣なしの属性付加・・・」
通常、属性付加をするならば詠唱を短くするために魔方陣を利用する。詠唱すれば属性付加は可能だが属性付加するものといえば武器に多く。詠唱するうちに倒されれば意味がないので魔方陣を使うのである。その魔方陣は、武器に刻み込むのが一般的で剣や斧、メイズなど金属面積の大きいものならば可能だが小さいものは難しい。矢など最たるもので矢じりに魔方陣を刻まなければならないが小さい上に何本も必要となる。だから矢に魔方陣を画ける細工師が少ないうえに金額が高い。
俺の魔導銃は、銃身に打ち出すための魔方陣と魔力を圧縮するための魔方陣の二つを組み込んでいる。本当ならば金属の弾丸を作り魔方陣を組み込んでしまえばいろいろなことができるが小さいからコストパフォーマンスが悪い。
要するに属性付加を自前で早くできるならそれが一番安上がりで確実ということである。
「我々は、人数が少ないので少人数でも確実にしとめられるように特化してきてますからね。ふつうの武器よりは属性付加された武器のほうが強いですから」
「そうですね。できるならあとで私も一戦してみたいのですがいいですか?」
「えぇ、いろいろな人と手合せしてもらったほうがいいですからね。ひとまずクローブくんの能力を確認したら実験もかねて一勝負してください」
「俺も戦うの?」
クローブがちょっと困ったという顔で俺をみた。クローブが武器を持って戦うというのは初めてだったはずだ。窃盗やスリをしていたが武器を使っての強盗はしていないと聞いている。これが普通の子どもならば一人前と認定されたと喜ぶだろう。しかしクローブは、死や武器の恐ろしさを身をもって体験している。その体験が子どもらしい興味をなくさせているのだろう。
「自分の身は自分で守るのです。私はどんな境遇、歳であろうとそこらへんは甘やかすつもりはありません」
「ユーグ殿それは、早すぎではないですか?まずは模造刀を使って素振りなどをするべきではないのですか。もし、腕があっても心が折れてしまえば伸びません」
「そういうのならそうしましょう。ですがそのかわりクローブ君をここに置いていきます。ピアン君もいますし、エルフの皆さんは子どもにはやさしいようですから」
「なっ!?それはあんまりでは・・・」
ウィレームが目を見開き俺をみる。そんな顔をしても俺は、絶対にこの決定を覆さない。非難するならすればいい。使えないものは切り離すのが商売人だ。余計なものは自分の足を引っ張る。
黙っていたクローブが言った。
「俺、やるよ!強くなりたいからっ。強くなってユーグやマリアお姉ちゃん、ウィレームを守るよ」
クローブがこぶしを握り締めて宣言した。了承してくれてほっとする。
「ならまずは力を調べましょうかね。うーん、私をみてください。額の中心にある目を開いて私をみるようにするんです」
「こう…?」
「うまいですよ」
俺からみればなんの変化もないように見える。ウィレームも同じように感じたのかクローブをじっと見ていた。
「さぁ、なにか見えますか?」
「なにも見えないよ。真っ暗」
「おかしいですね。なら何か変わったことはありますか。いままできこえてこなかったことが聞こえるとか。ささいなことでいいんです」
抽象的すぎてクローブが理解できないんじゃないか?といっても俺には第三の目というのは理解の範疇を超えているから任せるしかない。
「俺がわからないのが駄目なだけ。絶対に使いこなす!」
「それは、誰にいったのですか」
クローブの言葉にアルバが尋ねた。確かにひとりごとというより誰かに対していっているような口調である。
「ユーグだよ?俺がアルバの説明で理解できないんじゃないかって言ってた」
「言ってませんよ。思ってましたけど」
「たしかにそんなこと言ってませんでしたね?ならクーちゃんは考えていることがわかるのかな」
「そうでしょうね。どの程度までわかるのかは実際に会話して自分で理解していくしかないでしょう。私の能力ともことなるようですし」
心のうちがわかるのは便利そうだが同時に疲れそうだ。常時誰が何を考えているかなんて知りたくない。非常にめんどくさい。なぜ神という存在はなにをどう思ってこんな能力をクローブにつけたのだろうか。
「では、実践といきましょう」
アルバの異様にニッコリとした笑みを浮かべそうつげるのだった。




