エルフの杖
「ユーグさん!」
目を開けると見知らぬ天井があった。思い出そうとすると頭がにぶく痛みぐわんぐわん回るような感覚に陥る。痛みと感覚から逃げるようにあわてて目を瞑った。体もところどころいたい。マリアの声が聞こえるうえに揺らされた。体が痛い。しかも頭がぐらぐらする。
「御嬢さん、そのおにいさん嫌がっているみたいだからやめときな」
「もともとは、あなたの勘違いのせいでしょう。ユーグさんのとっさの機転がなければ我々は、死んでいましたよ」
「自分の頭上にドラゴンがいたらすぐさま迎撃して戦闘不能にしないとブレスでやられちゃうからしかたないじゃない。私のは正当防衛よ」
だんだん意識がはっきりしてきたので再度目を開ける。マリアとアルバがいるのが確認できた。そしてどうやら俺は、ベッドに寝かせられているようだ。さらに視線を動かすとエルフ特有の緑の翼をもつ灰色の髪と瞳の女性がいた。全体的な色としては地味なのだが雰囲気が色っぽく印象的な感じだ。
「ごめんなさいね、攻撃が最大の防御だと思ってるからあの形をとらせてもらったわ」
「紹介者のアルバさんの落ち度ですからあなたに問題ありません。あなたが杖を造っていただけるエルフの方ですか?」
「私は杖を創るエルフ、師匠と呼んでね。あと話はあなたが気絶している間に聞いたわ。彼女は合格よ」
俺はほっとして体の力が抜けた。マリアの魔法は、特殊なものだとわかっている。普通の杖では、役不足で砕けるだろう。
「師匠さんちょっといいですか」
「敬称はいらないわ。それでなに?」
師匠が俺に耳を近づける。
「マリアの最後の砦となる杖をお願いします」
「もちろん。私が杖を創ろうと思う人物はみんな誰かを守りたいという心がある。そういうやつは、たいがい無茶をするからね」
そういうと師匠は、ウィンクをして俺から体を離した。マリアが俺と師匠を交互に見るがその顔が少々赤い。
「さぁ、御嬢さんあっちの部屋で杖について話をきこうかね」
師匠は、マリアの手をとると別室に行った。
「ユーグさん体の具合はどうですかな」
「少々体が痛みますが他にはないです。このぶんでは作戦がうまくいったようですね」
「あれはすごいですね。魔方陣から強風がふきあれてずいぶんと落ちる勢いがそがれてましたよ。私とマリアさんは、ピアンの上ですから怪我一つなくなかったんです。ただ運悪くユーグさんは、ピアンから投げ出されてしましました」
「そういえばピアンは?」
「ドラゴンの強さ一端をみた気がします。軽い痛みがあるだけで体になんら支障がないそうです。今は、彼女の弟子が珍しがって世話を焼いていますよ」
元気でよかった。これで体に支障があったら申し訳ないといえるような問題ではない。体の弱い個体は淘汰される。ドラゴンは、現在確認されているだけではピアンだけであろう。
「ところでユーグさん、あの布はなんなのですか?あのときは、必死でわからなかったのですがね」
「あれは冒険者だった両親が開発した対トラップ用の道具の一つです。移動系の魔法で空中に投げ出されたときにあの布の魔方陣が下向きになって風がでると少しですが浮力というのがはたらいて落下の衝撃を少なくできると」
「ほう、ご両親は冒険者でしたか。なるほど、いくら強い魔術師でも宙を浮いたという話を聞きませんからね。それを見越してのトラップでしょうな。それにしてもあの布を考えつくとは、そうとう学があったのではないですか?」
「いいえ、なんでも異世界からきたという旅人を助けたお礼に教わったらしいです。できれば私もその旅人に会いたいと思っていましたが名前がわからず、容姿も黒髪の茶色の目でヤーマ人にしかみえなかったらしいのでみつけられないだろうと」
アルバがあきらかに残念な顔をした。それほど興味をもつものだったらしい。じつは、話をもとにつくった道具がまだいくつかあるといったらどんな顔をするだろうか。
「ざんねんですねぇ。異世界人は、この世界とはことなる知識や生活をしていますから長い時を生きる我々にとってはいい暇つぶしですから」
「エルフは長い時を生きるというのは本当なのですか」
「例外もいますがだいたい五百年くらいですね」
「例外とは、アルバさんですか」
「師匠もそうと・・・イタッ!」
「いま歳を言おうとしたね!」
こぶしを握った師匠がアルバの頭を殴った。痛いらしく目じりに涙を浮かべている。
「まったく昔は、泣いてすがってかわいらしかったのに・・・」
「〇×△□!!?」
ニヤニヤした顔を隠さないアルバに対して、師匠は赤い顔を隠しながら身悶える。そこに灰色の髪の少年が扉から顔をだした。顔だちからみるとクローブより少し上くらいだろう。
「シショー・・・!ってアルバさま!?えっ、この状況は・・・」
「人にはつっこんではいけないことがあるんだよ。ところできみは、お弟子さんかな」
「はい、マルクスっていいます。たしかユーグさんでしたっけ、ピアンくんが心配してましたよ。ユーグさんだけふり落としてしまってごめんなさいといってました」
ピアンには悪いことをしたと思う。どうやらあのドラゴンは、生きている年数のわりにこどもっぽく育ての母に依存している感じがある。しかも俺は、ピアンの育ての親に似ているらしい。
「私に謝る必要などないのにね。体調がよくなりましたから大丈夫だと言いにいきましょうかね」
「あっ、私もいきたーい♪」
マリアが満面の笑みで言った。どうやら話は、終わったらしいがアルバがドロテアをいじって遊んでいる。まだまだ終わる様子がない。
「もうお昼近くですから食べていってください。でもこれから昼飯をつくるのでその間にいってみたらどうですか?」
「そうさせてもらうよ」
ベッドから下りるとちょっと足が痛かったが打撲程度のようだ。マルクスにピアンの場所を聞いて外にでた。マリアが俺の横で自分が案内するのにとむくれていたが極度の方向音痴に聞くのは馬鹿だろ。
「あっ、おにいさん」
「ピアン大丈夫かい」
アルバの言う通り見たところどこにも問題なさそうだ。ピアンの尻尾がぶんぶんふられて引きちぎれそうだ。感情によって尻尾の振れ幅が異なるのはドラゴンも犬も変わらないのだろうか。
「うん、僕は大丈夫だよ。おじいちゃんがいってたけどドラゴンは、あのくらいの高さから落下しても死なないっていってたよ」
「それでも危ないと思うけどな」
主に俺やマリアが危ない、。アルバはなんとかなるだろうけど。
「うん、気を付ける!クローブやマリアお姉ちゃん、お兄さんに会えなくなると悲しいな。お母さんに会えるかもしれないけどなんだか怒られそう」
「お母さんが怒りそうっていう問題じゃないよ!ピーちゃんとせっかくお友達になれたのにさよならは嫌だよ・・・」
「ごめんなさい、飛ぶときもう少し気を付けるよ。まさか地上からああいうことされるとは思わなくて」
たしかにあの蔓の攻撃は予想外だった。飛行中のドラゴンを倒すような輩はだいたいペガススやグリフィン、一反木綿などの飛行ができるものに乗らなければならない。
「ブレスを吐けばよかったんじゃないかい」
「そのブレスっていうのどうやって吐けばいいかわかんないの」
「口からバッーってでるものだと思ったんだが」
違うのだろうか?俺は、ドラゴンじゃないから教えようがないけどな。
「れっ、練習したらできるかもです!」
「うーん、どう練習するの?息を吐いても何もでないよ」
ピアンがそういって息を吐いてみるが風圧があるだけで火がでるわけでも光線がでるわけでもなかった。
「そのうちできるんじゃないかな。いまは、できなくてもあとからできるようになることは多いしね。それに私たちは、あちこちをまわるからドラゴンの生態についての書物をみつけるかもしれないからそのときは教えてあげるよ」
「うん、教えてね!」
「ご飯の用意ができましたよ~」
お玉を持ったマルクスがやってきた。ピアンがお玉についた匂いが気になるのか鼻を動かして嗅いでいる。
「今日は、ライ麦パンと赤カブと人参とトマトベースのスープです。アクセントに胡椒を多めにいれました」
「そのスープ匂いが嫌」
ピアンが口を尖らせていった。マルクスは、その様子がおかしかったらしく控えめにわらいだす。
「ピアンくんには、別なのを準備したよ。トーフのステーキ」
「ステーキ?」
「気に入ってくれるとうれしいな」
不安げな言葉とは裏腹にマルクスの表情は自信満々だった。トーフ(豆腐)とは、ヤーマ国で出来た大豆の加工物である。淡白な味わいと白く軟らかい触感が魅力の食べ物なのは広く知られていた。
「じゃーん!」
マルクスが出してきたのは、こんがり焼き目がついた豆腐のようだ。ソースには、茶色いものがかかっている。よく見るとそれは、狐色に焼いた玉ねぎでできているようだ。さすがにそれだけでは色味が少ないと思ったのだろう。人参やほうれん草、緑色の小さな木のようなものとトウモロコシがある。
「くんくん、これはおいしそうかも」
ピアンがそういって豆腐を一口で食べてしまった。マルクスがピアンの顔をじーっとみている。
「おいしい!」
「よかった!」
「私も食べたい!」
マリアがその場でジャンプをしてマルクスにアピールをする。
「残念ながらピアンくんの分だけでいっぱいいっぱいなんです。スープもパンも自家製ですからそっちもおいしいはずですからそっちを食べてください」
「はーい」
どちらが年上かわかったものではない。経歴書によりマリアの年齢を知っているがその年齢よりも幼く見える。
「ユーグさん食べに行きましょう!」
「そうですね」




