欲しいもの
「ということは、エルフは木の神モクノギから生まれたというのですか!」
「ヤーマでは、モクノギというのでしたね。我々は、三番目の子なのでサードというのですよ」
「三番目だからサード?簡単な名前なんだね。神様の名前なんだからもっとギョウギョウしい?名前なんじゃないの」
クローブが不思議そうにアルバに尋ねる。
「神様の名前は、とても強い力があるから悪いことに使われないようにイアナジとイガナジと本人しか知らないんだよ」
「ふーん、めんどくさいね。俺は、神様じゃなくてよかった。父さんと母さんが考えてくれた名前をみんな呼んでくれるもん」
「クローブ君は、ご両親が好きなんですね」
「うん!大好き」
ニコニコとクローブが答えるとアルバの目が薄く細められた。
目尻に皺が寄り歳相応の優しげな表情を見せている。ユーグたち自身もクローブを微笑ましく見ていた。
「幼子は可愛らしいですな。わが一族は、子宝に恵まれにくくて。だから子どもが生まれてきてくれるとお祭り騒ぎになるんですよ」
「「お祭り!」」
クローブとマリアが目を輝かせている。この二人の心の琴線は、とことん似ているようだとユーグは思った。アルバもさすがに苦笑している。
「そんなたいしたものではないのですよ?森のものたちと祝いをして生まれてきた子に加護を与えてもらうんです。サードは、慈悲深く調和を重んじる神。それゆえに森のものたちに優しいものたちには、加護を与えてくれるのですよ」
「へー、あってみたいな!」
「私もあってみたいですね。そうそう会えるわけがないと思いますけど」
「森を大事にしてくれるのならそのうちに会えますよ。とくにクローブ君は、会えるとおもいますよ。大層子どもが好きな神ですから。さて、夜もふけたようですしそろそろおおやすみなさってください」
それからマリアと別れてそれぞれ寝入ったのだった。
目を開けるとそこは光が溢れる森の中だった。木と木の間には、小さいながらも水が流れ小川のようになっている。
「ユーグ、マリアお姉ちゃん、ウィレーム?」
昨日は、エルフの長の家で眠ったはずだった。
星空を見ながらの野宿もいいが、布団で寝るのも心地いいと思って寝たからなおさら間違いない。
ここは妙に落ち着くが、ユーグたちがいないと心細い。ユーグたちと会ってから一人きりになったことがないからだろう。いることが当たり前になっていたことにいまさら驚く。
「ここどこだよ・・・?」
ユーグたちがいないのは、困るが自分が丸腰で森の中にいるのが恐い。狐の獣人なので人間より耳や花がいいが危険が迫っても魔術しか使えないのは、危険すぎる。などと考えていると背後から声が聞こえた。
「怯えなくてもお前さんを害するつもりのものは、ここにはおらんよ」
「誰!」
緊張で尻尾の毛が逆立つのがわかる。
声の距離が近いのにまったく気がつかなかった。恐る恐る振り替えると緑の髪に木の幹のような肌をした大男がいた。男は、白い服を巻きつけただけの質素な姿をしている。あからさまに怪しい人物だが姿を見たとたんに恐怖心や警戒心が霧散してしまった。
「若いのにしっかりした坊主だな。それだけ苦労してきたんだろうな」
男がそういって笑うと、なにか頑張ったとき誉めてくれた父親を思い出す。でも目の前のこの男は、父親ではなく知らないおじさんである。
「用心深い子だね。クローブ君は」
「なんで俺の名前!?」
「それは私が神様だからさ」
男は簡単にいうが事実なら恐ろしい、神様などそうそう会えるような存在じゃない。クローブとしては、半信半疑といったところだろうか。
「気張らんな。私は、子どもが好きだからささやかなプレゼントをあげることにしているんだ。クローブ君は、なにが欲しい?美味しい食べ物、玩具、服なんでもいい」
「うーん、一番欲しいのは手に入らないんだ。でも二番目に欲しいのは、手にはいると思う」
さも意外だという顔を神と名乗る男が見せる、一番ではなく二番目をねだるのがそんなに珍しいのか。
「二番目に欲しいのは?」
「力・・・そうだなぁ。真実を見れる力がいい」
ユーグ達と一緒に旅を続ければあの町とは違うものが見れるだろう。良いものも悪いことも、騙す人も騙される人もいる。その本質を知りたい。
「そう真実を見れる力か。確かにこれから必要になるかもしれないね。よし、目を瞑って」
クローブが、目を閉じると前髪に手が当たり額に何かが当たる。次の瞬間、頭が二つに割かれるような痛みがクローブに襲ってきた。クローブは、額を抑え地面に体を押さえつけたり海老ぞりになったりして痛みを耐える。
「その痛みがなくなったらクローブ君は、いままで見たことないものが見れるはずだ。ときに目を背けたくなるものまで見えるだろう。だがクローブ君が信じることを止めなければ救いも見いだせるだろう」
それからクローブの意識は暗転した。
「クローブ!」
「クローブ殿!」
真夜中にクローブが突然、脂汗を流し苦しみだした。クローブは、額に手を当てているから額に何かあるのだろう。しかし原因がわからないので施しようがない。寝たときなんともなかったのにどうしてだ!
「クローブ!」
「皆さんどうしたのですか。・・・これは!!」
アルバは、クローブを見て目を見開く。もしやクローブの体調の変化の理由を知っているのだろうか。
「アルバ、この体調の理由がわかるのか!」
「えぇ、わかります。だからいいますよ。クローブ殿は、死ぬことはないでしょう」
アルバの言葉に俺とウィレームは、胸を撫で下ろした。
「しかし、この痛みにより得るものによって精神が病むことがあるかもしれません」
「精神が病むとは、どういうことでしょうか、アルバ殿。騎士団の学舎で怪我や病の講義を受けていましたが、精神が病む病にこのような症状は出ないはずです」
「病では、ないのです。たぶん神に祝福されたのでしょう。これは、幼い子には過ぎた力なのです…。どんな状況で得た力にしろ己を見失うことがなければこの子は、あなたたちの仲間としてなくてはならない存在となるでしょう」
俺とウィレームをアルバがじっと見る。アルバの瞳には、気まずそうな雰囲気を漂わせていた。
「それでももし、この力が手に余るならまたこの村に来てください。いいですね?」
「わかった。それでクローブは、どんな力を得たんだ」
「どんな力かまでは、わかりません。ただ第三の目が開いたといっておきましょう。この目が開いたことにより感覚が鋭敏になると思います」
「アルバ殿、クローブの目は二つしかありませんが?」
当たり前のことだが確かにクローブの目は二つで三つもない。
「目に見えるものではない。これは、感覚的にわかるものなのです。じつは私も第三の目が開いているのですよ?だから同じ状況のクローブ君のことがわかるのです」
「「・・・・・・・」」
「なんですかその無言の返しは!?本当のことなのですよ。私の場合は、相手の名と姿を見れば相手の立場がわかるんです。ユーグさんは、商人。ウィレームさんは、騎士。マリアさんは、神・・・」
俺は、アルバをにらみつけた。たぶんアルバが言おうとしたことは、マリアがいいたくないことだろう。マリアがどんな人物でも俺は、今のマリアを知っているからいいと思っている。
「マリアさんがなんなんですか?」
「ウィレーム、今すぐクローブの着替えを準備してくれ」
「それはあとからでもいいのでは」
「私もあなたも朝に弱いでしょう。いまのうちに準備すれば間違いが少ないはずです。私は、アルバ様に聞いて水をもらいに行きます」
少々強引な理由なのは、わかっているがそうでもしなければしつこいだろう。馬鹿では、ないはずだが空気が壊滅的に読めない。マリアもその気があるが馬鹿なので楽だ。とくに食べ物をちらつかせればそちらに意識がいく。だがウィレームは、そういう馬鹿ではないので扱いに少々困る。しかし、正論ならばきく。
「うむ、かしこまった。しかし、クローブ殿は替えの服をもっていただろうか?見た覚えがない」
「そういうときは自分の持っているもので見繕うという考えになると思うのですが」
「あぁ、その手がありましたな。ありがとうございます」
ウィレームは、几帳面な性格のまま直角にお辞儀した。
あのハゲ王にもったいない、王に仕えるのが嫌になったらうちの店の用心棒として雇ってみようかと本気で考えていた。
「礼を言われるまでもありません」
「世話になったものには、いうべきだと思っている」
「そうですか。・・・アルバ様いきましょう」
俺はアルバ様について行き外へでた。
「あなたはそうとう人間関係に不器用ですね」
自然と眉間にしわがよりアルバをにらみつける形になってしまった。
「ふふっ、そういう態度がそうなのですよ。本当のあなたは純粋で好奇心旺盛なキラキラと輝く子どものような顔をしている。何があったかわからないが胡桃の殻のようなものでその心を隠していますね。悪いと言いたいわけではないのですよ」
「人の心中をぺらぺら話さないでいただきたいものですね」
「これは失礼しました。それで引き離した理由は、マリアさんのことについてですかね」
「他にあると思いますか?あからさまにマリアに気がある態度を示しているウィレームにその情報をだすなんて・・・・」
何を考えているんだこのエルフの爺!本人がいないときにその手の情報を開示しやがって。エルフは、浮世離れしてるって聞くがここまでひどいのかよ。
「思いというのは、素晴らしいものですな。とくに愛するものに対しての強い心。それは、力となり守る力となりえる。ただ方向性を間違えれば守るべき存在であるものを傷つける」
唐突にアルバが言い出す。その内容と口調は、昼間にドラゴンのピアンに語った内容とよく似ていた。
「魔王を討つ旅が天命ならばクローブ君ではなく。あなたが力を受け取る可能性もあった。勇者というのは、神が指名したものしか与えられぬ称号。だからあなたが受け取るのが定石でしょう。しかし、与えられたのはクローブ君です。力を受け取るにふさわしくないと思われたということですよ」
アルバが俺の目をしっかりとみつめた。異様な威圧感を感じる殺気とはことなるが雰囲気が似ている。息の吸い方を忘れたように呼吸が止まる。
「あなたの貫きたい道を探しなさい。いままでのことは序の口です。心を保てるものでなければ力は、与えられません」
「ほっといてくれ」
言い返す言葉がみつからずただ拒否の言葉が口から発せられる。ユーグは、力がほしいわけではなく商人として真っ当に暮らせればよかったのだ。勇者など正義感にあふれ義理堅く、強い人物がなるべきだといまでも思っている。自分のように時に相手をはめて損失を狙ったりする姑息な人物がなるべきではない。
「さすがにいじりすぎたかな?でも気を付けたほうがいい。大事なものを失くすまえにね」
そういうとアルバは、また家に戻って行った。
井戸から水を汲みながらユーグは考える。大事なものなどとうの昔に無くしているのに何を無くすのだろうか。家族はいないし帰る家もなくなった。だから自分は、1から始めたのに。
「あれユーグさんもおなか減ったんですか?」
「マリア」
夜着に軽く上着を羽織った状態のマリアが立っていた。不思議そうな顔をして俺の方へ歩いてくる。
「水を汲んでるってことは、スープを作るってことですよね?私も欲しいです」
「違いますよ。クローブの体調が悪いんです」
「えぇ!なら、氷枕と氷嚢と蜂蜜ミルクとあとあと・・・」
うろうろとしながらそんなことを言っている。どうやら風邪でもひいたと思ったらしい。
「そんなにあわてなくても大丈夫ですよ。命に別状はありませんし、熱はありません。ただ起きたときに冷たい水があったほうが気分的にいいでしょう?」
「うーん、そうですね。私もなにかしますか?」
何か世話をする気なのはいいがマリアはかなりのどじっこである。
火は、一緒にいるときにさせなければ火傷する。重たいものを持たせるのは男として言語道断である。例えとんでもない腕力の持ち主だとしてもだ。ただ実の弟のように可愛がっているクローブにできることがないといったら落ち込むのが目に見えている。
「う~、ユーグさん。私に頼む仕事で迷ってますね?たしかに料理も魔術や魔法もダメですけど。私にもできることがあるはずです」
「なら、体調が悪い時に自分がしてほしいことを言ってみてください。その中から頼みます」
「おかゆ、うさちゃんの林檎、シチュー、ジュース、ゼリー、プリン」
どれもこれも火や刃物を使うから危なくて許可できない。しかし、なぜ揃いもそろって食い物ばかりなんだ。
「…手をつなぐこと?」
「それなら大丈夫だろうが。そんなの効くのか?」
「バッチリ効果抜群です!そもそもユーグさんがしてくれたんですよ」
「そんなことあったかな」
まったく記憶にない。そんなことしたか…?
「はい、それじゃいってきまーす♪」
などと言って通り過ぎる瞬間、眉間を突っつかれた。
「困ったことがあったらよく食べて、よく寝れば大丈夫です!」
今度こそマリアは、走りさるようにクローブのところへいく。
「あいかわらず変なやつだ」
ただその二つができれば頭はすっきりするだろうと、ユーグは笑みを浮かべるのだった。
クローブは、朝が来ても眠ったままだった。ただ夜の間のように苦しんでいるわけではなく疲れて寝ているように見える。あれだけ苦しんでいたら体が疲れるに決まっている。
だから朝食を俺とマリア、ウィレーム、アルバの四人で食べていた。昨日と違いあまりに静かで少々落ち着かない。ただマリアがガブガブと用意された食事を食べる音しかしない。
「このパンもう一個ありますか?」
用意された葡萄パンを咀嚼しながらマリアがいった。そんなにそのパンが気に入ったのだろうかと思っただけだ。ただウィレームは、違ったようでめずらしく笑みを浮かべている。
「クローブ君好きですよね。果物系のパン」
「そうなんですよね♪とくに葡萄のパンが好きみたいで。だいたいあったら一番最初に食べてますから」
「へー、そうなのか」
それは知らなかった。どうもこういう好き嫌いというのは、言っていたことならば覚えている。客相手とかなら言葉や態度で推察して売りつけるのだが周りの人物となるとそこまで覚えていない。
「そうですか。ならとっておきましょう。ほかには彼が好きなものありますか」
「くーちゃんは、あとお肉が好きです。できれば焼き具合は、レアで」
「狐の獣人らしいですね。でも我々エルフは、肉を食べないので置いていないのですよ」
そういえばどこかの文献にそんな話が載っていた気がする。エルフは、肉=生き物を殺すことをしないと。例外としてエルフを害するものに対しては、死より恐ろしい目にあうと書いてあった。それがなんなのかまでは、載っていなかったがエルフと敵対するようなことにならずよかった。
「わかりました。くーちゃん早く目が覚めないかな♪」
「さぁ、本人しだいでしょう。ところで今日は、杖を頼む予定でしたね。クローブ君が目を覚ましてから行きますか?」
「朝食を終えたら行きたいです。クローブ君は、出来上がったものを見せたほうが喜ぶかと」
「楽しみはあとということですな。いいでしょう」
アルバがとっくに食べ終え茶を優雅に飲んでいる。マリアは、デザートに突入し林檎を丸かじりしている。女性なのだからちゃんと剥けばいいのに林檎の密が口の周りについている。
「葡萄ならそれでもいいですが、林檎ならちゃんと剥きなさい」
「はぁーい」
「林檎もう一個食べますか?」
マリアの手の中には、芯だけが残った林檎があった。ハンカチでマリアの口を拭いながら聞く。
「はい、でもなんでそんなこと聞くんですか?」
「こんなのはいりませんか」
林檎をナイフで四つに切り斜めに二つ切れ込みを入れた後、切れ込みが重なった箇所まで皮を剥いた。それをマリアの皿のうえに乗せるとマリアは、笑顔を浮かべながら驚く。
「うさぎさん!」
「ユーグ殿は、器用ですな」
「昔ちょっとな」
今度は、左右に切れ込みをいくつも入れていく。最後にそれを指で押すと・・・。
「葉っぱみたい!」
「皮が赤いので紅葉のようですな」
「村の主婦が飛びつきそうですね」
次に林檎の上の部分だけを残しぎりぎりまで切っていく。それを何度も繰り返し指でずらす。
「?ユーグさんこれはなんですか??」
「妖精族の羽にそっくりですね」
「はい、羽です。ただ妖精ぞくではなく鳥の羽がイメージなのですが、そう見えますか」
「薄くてキラキラしていますからね。それに大きさもそれくらいですから」
アルバがしげしげと林檎で作った羽を見る。マリアは、きらきらとした目で俺の手元をみていた。
「ユーグさん次は、なんですか!」
「さっきの羽で飾り切りは終わりだ。はい、普通に切った林檎」
ちょっと残念そうな顔をうかべていたがないものはない。ただ本当に嬉しそうな顔をみれたのはよかった。
「ウィレームさん」
「なんですか、アルバ殿」
「ユーグさんとマリアさんは、恋人同士ですか?」
「えっ!違います。ユーグ殿とマリアさんは、店の店主とその店員です」
「ほー、そうですか」
なんて会話がウィレームとアルバの間でされていたことを俺は、気が付かなかった。




