エルフの里へ
そして、話はユーグたちに戻る。
ユーグたちの前に現れたのは、マリア達を乗せたピアンだった。途中で起きたのかイフラが大号泣して助けを求めている。
「ユーグ兄ちゃんただいま!」
ピアンの背中から頭だけだしてクローブは答えた。
「クローブ、マリアおかえり。まさかドラゴンに乗ってくるとは思いませんでした」
「ピアンすごいんだよ!高いとこ飛べるしスッゴく速かった」
クローブは、大興奮で話しはじめた。ピアンがユーグをしげしげ見ている。
「お兄さんお母さんそっくり。お母さんも黒い髪でそういう髪?だったよ。目はオレンジじゃなくて茶色だったけど」
「私の見た目は、珍しい見た目ではないですよ」
ヤーマ国の国民の半分は黒髪が地毛。趣味で染めている人もいるので四分の一くらいが黒髪だろう。
と、軽く世間話に近い話をしているといきなり空気が張り詰めた。
「なにをしにきたのですドラゴン。540年前と同じように我らの村を焼きに来たのですか」
アルバがただでさえ細い目をさらに細めてピアンを睨む。ユーグは、自然に背筋が伸びるのを感じていた。
「ちっ、ちがうの!謝りにきたの。大事な腕輪が盗られたからって怒って火吹いちゃってごめんさい」
ピアンは、地面に頭がつきそうなほど下げる。
「腕輪‥‥?腕輪が盗まれていたのですか」
「うん、そうなの。ねぇ腕輪のこと知ってるのお爺ちゃん」
「アルバ様に向かってお爺ちゃんとはなんだお爺ちゃんとは!」
ハルフォンがピアンにかじりつきそうな勢いでまくしたてる。だが話題のアルバは腹を抱えて大笑いしていた。
「あっ、アルバ様!?」
「いやいや、長生きはするものだな。ドラゴンにお爺さんと呼ばれるとは光栄だ!それにしても懐かしい、まさかこの魔法具をまた見る機会があるとは。今も役にたっているようですね」
アルバは、懐かしそうに腕輪を触っている。
「この腕輪のことを知っているのですか。オークの住処にあったのですが」
「ということは、あなたがこの魔法具を見つけ出したのですね。この魔法具には、ドラゴンの呪いがかかっています。これを盗んだものはオークに襲われて死んだのでしょう。自業自得です」
もしやマリアが嫌な感じがすると言ったのはドラゴンの呪いのことをいっていたのだろうか。
「ドラゴンの呪いってなぁに?僕何もしてないよ??」
「これは、あなたにとって大事なものなのでしょう。強い思いは、願いとなり奇跡を起こす種になるが同時に呪いにもなる。
とくにドラゴンは、我々と同じ力の強い一族。持ち物にまで力の干渉が起こりうる。それを理解してくださいね」
「わかった気をつける」
ピアンは素直に頭を下げる。そんなピアンをアルバが、かわいい孫を見るような優しい目で見ていた。
「さてと…、あなたは私に聞きたいことがありそうですね」
アルバがユーグに向きなおった。ユーグは、アルバの目をまっすぐ見つめ浮かんだ答えを口にする。
「あなた方はエルフですか」
「はい」
たった一行でもユーグが知りたかったことだ。ユーグは、エルフを探していたのだから。
「なぜ我々がエルフとわかりましたか。我々は、人間でいう天使や精霊、妖精といったものの姿に似ていると認識していました」
確かにアルバ達は、全員緑の翼がある。
ユーグは、エルフに翼がないと認識していた。
それは、物語で語られるエルフが白髪や銀髪もしくは緑色の髪でみなスラッとした感じだからだ。
しかしそれは、イメージの問題で実際のエルフが同じと言えないのではないかと思ったからである。
「固定概念を捨てヒントを拾ったらでてきたんです」
「ヒント・・・ですか?」
「まず第一に情報屋の言葉に"緑の者は竜を守る"というのがありました。竜というのは、この子のことでしょう」
ユーグは、ピアンを見るがピアンは、わけがわからず首をかしげる。
「我々は、ドラゴンを封印しても守っていたわけではありません。考え違いではないでしょうか?」
「ではなぜ討伐しなかったのですか。エルフは、強力な魔法を使うことができる。エルフや人間が集まればドラゴンの討伐も可能でしょう。そういう風に扱いたくない理由があったのではないですか」
「えぇ、ドラゴンを討伐しない理由がありました。でもあなた方に話すつもりはありませんよ。これは、私が死ぬまで持つべきものです」
アルバは、そう言ってピアンを見る。正確には、ピアンの角に引っ掛かった腕輪にだろう。その表情は、どこか嬉しそうででも哀愁を感じる。
「ややこしい話は、おいておきましょうか。アーデルの村長兼エルフ族の長アルバの名によりあなたたちを我らが村に招待します」
「「おぉ~~!!」」
村に入った瞬間マリアとクローブが感嘆の叫びをあげる。声をあげなくとも俺やウィレーム、ピアンも驚いていた。
村と言われつれてこられた場所には、何本かの気が互いに絡みつくようにして大樹となっていた。一本一本が大人七人から八人必要な太さなのにそれが三、四本もあつまればとても大きいのだ。そしてその大樹から緑の羽が生えたエルフたちがさまざまな表情、感情を俺たちに見せている。
「驚きましたか?あの集まった木が我らの家なのです。詳しいことは、私の家についてからお話ししましょう。興味深々なものもいるようですし」
「おじさんの家に行くの?」
「ピアン君は、さすがに入らないから外にいてもらおうかな。それかそこのものたちに遊んでもらえばいい」
そこのと呼ばれたエルフの三人は、皆顔を真っ青にしている。ドラゴンの遊び相手は、大変そうだろうしな。力強いだろうし。
「あぁ、我が家はあそこです」
アルバが指差した場所にあるのは、蛇のように互いを絞めあっているような二本の木だった。
「以外に小さいですね」
「独り者ですからこれくらいでいいのですよ。さて、みなさん中にお入りください」
アルバの手の先には、木があるが入り口にあたるところがない。どうやって中に入れというのだろか。試しに木を触ってみるがなんの変化もない。
ユーグたちが困惑する顔をみてアルバは、いたずらが成功した子どものように笑う。
「さすがにあなたでもここの入り方がわかりませんか。中に入るには、日の当たっていない幹の場所を押すように進めばいいんですよ。こんな風に」
突然クローブの体が、木に沈み消えた。しかしすぐに木から頭だけをだしてきた。
「幼いほど順応性が高いですね。老いた身には、羨ましいことです。さぁ、皆さんもお入りください。お茶と軽いものならお出しできますよ」
「軽いものってなに?」
「マリアあなたがそこまで馬鹿だとは、思いませんでした。軽いものとは、軽食のことですよ。お茶の付け合わせです」
「そうなんだ!甘いお菓子がいいな~」
礼儀作法を店員としてだす前にみっちりしたというのに忘れたのかこいつは…。
「いざ、いっくぞー」
マリアは、木の中に入っていった。追いかけるようにウィレームも入っていく。得たいの知れないもののなかによく入れると逆に尊敬する。
「用心深いのですね」
「誰かそういう役目を受け持つ必要があるでしょう。じゃないと全滅します」
「いいえ、あなたは恐いのですよ。世界の優しさを知りながら理不尽さも知っている。でもこれだけは胸に留めてください。世界は貴方を愛している」
「はっ!?ちょっと、どういうことだよ!」
訳知り顔でアルバは、木の中に入っていった。追いかけなければ話の意味を聞くことができない。ユーグは、拳を握ると木に手を添え進んだのだった。
木の中は、ユーグが思ったより広く暖かかった。さらに言えばどうやって光源をとっているのか不思議なくらい明るい。驚きで声も出せないユーグに対して興奮して走り回っているのが二人ほどいるが無視する。
「お気に召されたかな?」
「不思議ですね。神殿に似た神聖な雰囲気がある」
「ふふっ、さすがジルバーシュタインといったところでしょうか。この光は、恵みの光。神のおわす場所にもっとも近い光といえます。さぁ、こちらに座ってください」
大きな丸いテーブルには、艶々輝いている果物とお茶がおかれている。ユーグが椅子に座ると白葡萄に似たさっぱりした甘い香りが漂った。しつこい感じではなく力んでいた体が、弛みそうな落ち着いた香りである。
「いい香り・・・。飲んでも甘いかな?」
「残念ながら果物の甘さを引き立たせるためにお砂糖は、使っていません。でも果物は、とりたてですから美味しいはずですよ。とくにこれとか」
アルバは、マリアに葡萄を渡した。マリアは、手を合わせいただきますというやいなや葡萄の粒を口に入れた。
「美味しい!!」
「ズルいマリア姉ちゃん、俺も食いたい」
アルバから葡萄を1房貰うとクローブは、口一杯に頬張った。
「ほんとだ!すげーうまい」
「話し合いに来たのに君達は、食い気ですか」
「実際美味しいですよ。これは、干し林檎でしょうかね。甘みがと旨みが集まってとても美味です」
こいつもかよとユーグは、内心溜め息をつく。見たところおかしな食べ物は、見当たらないので好き勝手にさせたほうが楽だと自分を納得させた。
「あなたは、食べないのですか」
「私は商人。交渉の場で食事をしている場合ではありません」
「ふむ、一理ある。口にものを入れて話すのはそちらでは無作法でしたな。それで商人ユーグ、あなたは、何を望む」
「特殊魔法に耐えうる杖を一本作っていただきたい。対価は、払えるだけ払う」
「対価を払えるだけ払う・・・ですか。でも杖を使うのはあなたでは、ありませんよね。だから対価を支払ってもらうべき相手でなければこの話を進めるわけにはいきません」
「対価の相手・・・」
「ユーグさんそれって私のことですよね」
マリアが果物を食べていた手を止め俺を見た。その瞳は、濁りなく晴れわたる空のように暖かく包み込まれそうな気分になる。なぜ今その目をするのか。・・・いや、いまだからこそかもしれない。ただの天然で馬鹿なら自分の近くに置かないのだから。
「えぇ、そうです。特殊魔法を使うための代償を私は知っています。でもマリアは、使うでしょう?そしてその特殊魔法は、私も必要としている。だから魔王討伐の旅に連れてきたんです。たとえその特殊魔法の代償が「言わないでください」
有無を言わせぬ口調でマリアは、俺の言葉を遮る。
「私がここにいるのは、私の意志です。いま私を縛るものは何もない。いま私を縛るのは私自身。そしてその行動の代償を受けるのは、私以外の誰にもない。ユーグさんがしようとしているのは私の意志を踏みにじり尊厳を踏みにじる行為です。私が本当に欲しいものじゃない」
見たことない人がいると思った。いま目の前にいる女性は誰だと。
俺が知っている彼女は、天然で世間知らずで大食漢で子供みたいででもそこが憎めない人物だったはずだ。
でもいま目の前にいる人物にそんなとぼけた雰囲気はない。
「いい心構えです。これなら彼女も納得するでしょう」
彼女?
「とりあえず今日は、皆さんここに泊まっていってください。マリアさんだけは、別の所に泊まっていただく必要がありますが」
「わかりました!それでどこに泊まればいいんでしょうかね??」
「しばらくしたら家の手伝いをしてくれている少女がきますから彼女についていってください。夕食は、ここでとってください」
それから夕食をとることになった。夕食は、野菜や果物中心の料理でマリアが掻き込むように食べていた。クローブは、肉がないとちょっと不満げだ。
「我々は血の汚れをあまりうけつける訳にはいきませんから」
「血の汚れ?ってどういうこと??」
クローブがグラタンを食べながら質問する。
「字のごとく血がだめなんです。たぶん原因は、先祖に由来するのでしょう。聞きたいですか?」
クローブでなくても聞きたいはずだ。エルフにエルフについての話をきけるなんて贅沢である。
「うん」
「わかりました。ちょっと長いですよ。説明するにあたりあなたがたが神話と言っている話からする必要がありますからね」




