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羊はおいしい

目をあけると俺は、果てしなく続く草原にいた。


「森にいたよな?」


羊のヤローが歌う同時に意識がなくなったのは覚えている。

状況的にみて奴が精神攻撃をする類の魔族であることは明確だった。


「つっても、攻撃されてるのかこの状況は?」


呟いた途端に目の前に柵が現れた。

よく家畜などが逃げないように使うあの柵だ。


と、観察していると地平線からなにやら白いものが走っているのが見えた。それは徐々に近づきこちらに向かってきている。


「羊ですね」


慌ててよけると羊は、柵を飛び越えて止まった。


「羊が一匹?」


よくみたらまた羊が走ってきて柵を飛び越える。


「羊が二匹」


また羊が来る。


「羊が三匹」


またまた羊がくる。

何匹羊が来るのか数えたが十で嫌になった。


「‥‥‥あぁ、うざい!毛を刈り取って肉食うぞ!!もう決めたからな。あの羊ヤローが嫌がっても俺はやる」


袖に仕込んでいた隠しナイフを取り出した。てっきりないかと思ったけれど、爪が甘い奴らしい。

メェメェ鳴いていた羊が悲鳴のような泣き声で逃げ出す。

柵を越えようとしていた羊が跳ぶのを止めて引き返す。


一匹の羊の毛を掴み刈り取ろうとした瞬間に、どこかに引っ張られる感覚がした。




目が覚めると元いた森にいた。


「ありえねぇ!こんないたいけな羊相手に、毛むしって肉食おうとするか普通!?お前魔族より恐いんだけど」


「だからなんだ、羊の毛は売れるし肉は癖があるがうまい。私は、商売人。売れそうなのを見つけたら売れる形にして提供する」


「なんだか、羊がかわいそうね‥‥‥。って、なんでこの男の術解いちゃったのよ!」


炎がボボッと大きくなる。


「だって自分が殺されてるみたいで恐かったんだもん。てへ♪」


「おっさんの濁声でそのセリフいうのやめなさい!気持ち悪い」


今のうちに周りの様子をみると全員穏やかに眠っているようだ。と、思ったらクローブも起きた。


「あれ‥‥?森の中に戻ってりゅ。おいしそうな羊だったのにもったいないなぁ」


「この小僧人間だと思ったら狐の亜人かよ!狐に八つ裂きにされる。狐に八つ裂きにされる。狐に八つ裂きにされる。狐に八つ裂きにされる。狐に八つ裂きにされる‥‥」


羊の顔が真っ青になった。相当狐が苦手らしい、そういえば狐は家畜を襲うな。


「なぁに!震えてるのよ。あたしと同じマーキスならしっかりしなさい」


「マーキス!?侯爵クラスなのですかその羊」


通りで言葉に不自由してないわけだ。侯爵は、魔族でも上位に分類する。


「そうよこのあほ羊は、マーキス・スカイマン・エリ・セレナイト。

そしてこのあたしは、マーキス・クレイトン・イアナジ・ジャスパー。クレイトン様とお呼びなさい」


自己紹介を終えると同時にクレイトンの炎が激しく燃え上がり羊を覆い隠した。


「運のいい人間ね。今日の所は、こいつが使えなくなったからおしまいにしますわ。次会う時はないでしょうけど」


炎が消えるとそこにいたはずの羊の姿も消えていた。


「ユーグ、さっきの炎すごかったね!炎がブワッてなってパッと消えちゃたんだからさ。ねぇ、ユーグ聞いてるの?」


「えっ、ええ。そうですね」


本当はクローブの話を聞いていない。さっきの侯爵クラスの魔族との遭遇は自分の中でも衝撃的だった。


俺は、弱い。


世の中どうしようもないことがかなりある。それでもなお知識を尽くし、伝手を使い、気力を尽くしてなんとかする。

心が強ければ勝てるなど子どもに見せる幻想だ。強さは道具と知識と技でしかない。


だからエルフと三賢人にあう必要がある。魔王と対峙するならあの二人もいるはずだろうから。


「クローブ君、マリアとウィレーム殿を起こしてくれないかな」


「いいよ!」


クローブは、ウィレームに近づくと体当たりするように飛びついた。

寝ていたウィレームは、のしかかられる形になり潰れたカエルのような声が聞こえる。


「羊に押しつぶされ‥‥‥あれ?クローブ君なぜ私の上に乗っているんだい‥‥」


「ユーグに起こせって言われたから起こした!これよく効くだろ」


自信満々なクローブにウィレームがため息をついた。


「効きすぎです。まさかマリアさんにも同じことをしていませんよね」


「マリア姉ちゃんにはやってないよ。でもどうやって起こそうかな?」


クローブは、イタズラしたくてたまらないといった顔でウィレームを見る。今度は何をするつもりだろうか。


「マリアさんは私が起こそう」


「エロいことするなよ~」


腕に頭を載せニヤニヤとした笑みを浮かべてクローブはたっていた。


「!?私は騎士です。そんなことはしない!」


「とおちゃんが前に言ってたぞ。真面目そうな奴ほどむっつりだって」


「ご両親が言ったことだからといってすべて正しいわけではないのですよ」


ウィレームは、内心マセ餓鬼と怒りたいがここは大人として抑えることに決めた。


「そうなの?」


「えぇ、もし親のいうことが正しいなら先生も学舎も必要ないでしょう」


「うーん、なんとなくわかった」


クローブは一応納得する。そのことを確認するとウィレームは、マリアを起こしにかかった。


「マリアさん、マリアさん」


「‥うぅ‥ユーグさん‥‥もうちょっと寝たい‥‥です」


「マリアさん、森のど真ん中ですよ。寝たいなら村についてからにしてください」


「も‥森‥‥?‥‥‥‥はっ、羊さん!いたぁーい!」


起き上がったマリアの頭がウィレームの顎に当たった。

マリアは頭をおさえて痛がる。だがウィレームは、あまりの痛さと衝撃に声がでなかった。


「なにをベタなギャグをしてるんですか。日が暮れる前に村につけなくなりますよ」


「ギャグじゃないもん。痛いけど美味しいもの食べたいから頑張る」


「ユーグ早く行こー」


「‥‥‥」


ウィレームが顎に手を当てたまま頷いた。


「さぁ、行きますよ。プーコ村に」

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