利害の一致はその場のみ
「「お腹空いた~」」
「グローブはともかくマリアまで一緒になって言わないでください。ちゃんと毎食出しているはずですよ」
「だって~、3週間前から薬草のスープばっかりで飽きたの~。私は、肉汁たっぷりのお肉が食べたいですぅ」
確かに出発して1週間は、ベルが持たせてくれた保存食でなんとかなった。
だがその後は、ベルの本を参考にして過ごしたがどうやら限界のようだ。
「マリアあと少しで着きますから我慢してください」
「そんなぁ~。あれ?いいにおーい♪肉~」
マリアがフラフラと匂いがするどこかに足を向ける。
「マリアさん!?」
三人でマリアを追いかける。
あの馬鹿、どこに行くつもりだ。こんな森に肉なんて‥‥?
「確かに焼いた肉の匂いするかも。獣人の俺より嗅ぎ分けるなんてすごいなぁ」
グローブが首を傾げるが、これが普通の対応だ。
動物は肉を焼かない。肉を焼くのは…人間と…。
「あれ?羊がいる。しかも肉焼いて食ってるよ」
「クローブ君あれは羊ではなく魔族です!」
魔族の存在に気がついていないのかマリアは突っ込もうとしている。
食い物に走り出したマリアを止めるのは、そうそう出来ない一か八かの賭だ。
「マリア!止まらないと納豆を食べさせますよ」
マリアがピタッと動きを止めた。マリアはよく食べるが納豆だけはどうしても駄目。俺が食べようとすると涙目で阻止させるほど苦手である。
「ふう、止まりましたか」
「でも、あの魔族気がついちゃったみたいだよ」
子どもの落書きのようなデフォルトされた羊のつぶらな瞳と目が合った。
「ん?人間が4匹か」
羊という見た目に似合わず渋い声が聞こえた。
「仕事終えてビール飲んでたのにまたもう一仕事しなくちゃいけないのかよ‥‥。来るならせめて一杯飲み終わってからにして欲しいぜ」
羊は、深々と溜め息を吐くとビールを一気に飲み干した。
「さっきから文句が多いがお前魔族か?」
「あっ?そうだよ。‥‥‥‥‥なぁ、お前らビール持ってねぇ?樽一つでもあれば見逃してやるぞ」
「ビールの樽なんてかさばるもの持っているわけが「ありますよ」
ウィレームが信じられないとばかりに目を見開いて俺を見た。
まぁ、そうだろうな。マリアが腹減ったと騒ぐほど食料がないのにビールがあるなんて思わないだろう。
「山賊に会ったら貢ぐつもりだったビールが二樽あります。それで今回は、見逃してもらえませんか」
「お前話のわかるやつだな~。よし、見逃してやろう」
俺は自分の鞄に手を入れた。実は俺も異界バックを持っていたりする。そこにいろいろ入れていた。
後は、取り出すだけだったがウィレームが襟を掴んで鞄から引きはがされた。
ウィレームは俺に小声で言う。
「ユーグ殿!相手は魔族。討伐せずに貢いで通るとは何事ですか。あなたは勇者でしょう!」
「ウィレーム様お忘れのようですが私は、もともと勇者ではなく商人で利益が第一。今回は利害が一致したのでビールを渡すだけです」
「しかしですな!」
「おーい、内輪揉めやめてくんねぇ?俺消化は長いけど気が短いんだ」
羊の口調と話の内容からイライラしているのがわかるが羊の為表情が変わらない。
「今出しますから待ってください」
「ユーグ殿!」
ウィレームが五月蝿い、なんで気がつかないかな。
「こちらの言葉が話せるほど知能が発達した魔族にいままで会いましたか?」
「ないですな」
「ここまですらすら話せませんでしたが、私は会ったことがあります」
「それがどうしたというんです」
「そいつは言いました自分は"上位魔族"だと。そいつはあっという間にその場にいた30人近くを殺してしまいました」
いま思い出しても恐ろしい光景だ。俺が生きているのが奇跡というくらいにな。
「そんな奴相手に戦いを挑むのが馬鹿です。状況はわかりましたね?ビール樽を出しますからどけてください」
ウィレームは、今度こそ何も言わなかった。
鞄から樽を二つ出して羊の前に置くと羊は樽に鼻を近づけた。
「この香り!まさしくビール!!やっぱりビールは、人間の世界のが一番だな♪」
かなりご機嫌なようで、おしりにある小さな尻尾が引きちぎれんばかりに左右に振られている。
「それでは、失礼いたします」
「あっ、女の子は置いてってね。ビール注いでもらうから」
「二つ樽を置いていけば全員見逃すと仰りましたが嘘だったのですか」
「ん?俺は全員見逃すなんて言った覚えはないぞ。見逃してやるとは言ったがな。せっかく美人がいるのに酌してもらわなかったら男の恥だろ」
羊なんだからビールじゃなくて草食ってろよ。
「ジャーキーやるから」
「する!」
「「「即答!?」」」
そこはヒロインとして躊躇え!しかもあの羊なんでジャーキー持ってんだよ。
「そういえば羊さんの名前はなんていうんですかぁ?私の名前はマリアです」
「へー、マリアちゃんか。俺はエリだ」
「女みたいな名前」
「女みたいな顔のおまえさんに言われたくねぇな」
こんにゃろう、聞こえてんのかよ。しかも人が気にしてることをいいやがって。
「マリアさん相手は魔物なんです。逃げてください」
「食べ物をくれる人に悪い人はいないもん♪」
ジャーキー程度で上機嫌になりやがって。
「前に知らない人から食べ物を貰わないと約束しましたよね?言うことを聞かない悪い子は置いて行きましょう」
「うわーん、ユーグさんに置いていかれるのは嫌~っ」
「えっ、ジャーキーいらないの!?」
「私方向音痴なのでここで迷ったら絶対ユーグさんを見つけられません~!」
とたんにマリアが涙と鼻水を流す。まるで小さい子どもだ。
「置いていきませんよ」
「本当‥ですか?って、あれは人魂ですかぁ!?」
マリアが指さした方向には、紫色の炎が浮いていた。
「ちょっと、あほ羊!なにやってんのよ。とっとと戻らないと思ったらこんなところで油売ってたの!?」
「やれやれ、面倒なやつに見つかったな‥‥」
「なぁにが!面倒なやつよ。あんたの方がよっぽどめんどくさいわ。時間と金は有限なんだから無駄使いさせないで!」
この炎のやつと意見が合いそうだ。
「へいへい、それじゃあ。状況が変わったんでとっとと倒されてくれ」
「そんなこといって倒される馬鹿はいないわよ!最初から本気だしなさい」
「ほいほい」
本当にやる気なさそうだが油断できない。なんて思っていると毛の中から丸いものがついた棒が出てきた。
「あ~、魔威苦テス魔威苦テス」
羊の声が大きく聞こえた。どうやら声を増幅しているらしい。ウィレームと目配せして武器を手に羊へ向かう。
「それじゃあ、いくぞ。メイムの唄第一章ー羊ー」
羊が歌いだすと同時に俺の意識は闇に落ちていった‥‥




