食事は戦場けど楽し
「これは酷い‥‥」
ウィレームが眉間に皺を寄せて呟く。
「確かに‥‥」
あまりに酷い光景だった。
豊かな緑は荒らされ魚が恨めしげをこちらを睨みつける。鳥は足をもぎとられて悲痛の叫びが聞こえそうだ。唖然とこの光景を見る者、必死に打開しようと働く者がいる。
「酷い、酷いって何回いっているんですか?私はただご飯を食べているだけです!」
「行儀が悪いと言っているんです。サラダは紫キャベツだけ残して食べる。魚は全て食べられるのに頭だけ残す。鳥の丸焼きは切り分けるのに引きちぎる。それともう少しゆっくり食べなさい。村長殿の細君が忙しすぎて目を回しそうですよ」
「そんなこと、気にしなくていいよ!」
夕方にプーマ村に到着し宿屋を探した見つからなかった。
村人に聞いてみると、旅の人が来るのは珍しく宿がないとのことだった。
可哀想に思ったのか村人が村長に掛け合い泊めてもらえることになった。
「お客さんがくるのが久しぶりで私も夫も嬉しいんだよ。ただこのお嬢さんがこんなに食べるとは思わなかったけどね」
「お腹空いてたしおばちゃんの料理が美味しいからついつい食べちゃたの。クーちゃんもそう思うよね♪」
「うん!おばちゃんの料理美味しかったよ」
「うれしいこと言ってくれるわね。おまけつけちゃう」
テーブルにはガラスの器に盛られた肌色の物が置かれた。マリアの目がさらに輝く。
「アイスクリン!」
「アイスクリン?これはアイスクリームだよ。その顔なら食べたことありそうだね」
「これ大好き!暑い時に食べるときはものすごく美味しい」
はしゃぐマリアと対照的にクローブが眉を寄せてアイスクリームを見ていた。
「クローブ、アイスクリーム苦手か?」
「違うよ。俺もアイスクリーム大好きだけどアイスクリームにのせるトッピング。チョコかキャラメルかなかなか決められなくて、父さんに怒られたの思いだした」
「そうか」
「結局母さんが二つのせてくれた」
「そうか、溶ける前に食べろ」
「うん」
クローブは、黙々とアイスクリームを食べ始めた。さっきまでうるさかったマリアも黙って食べている。
「クローブ君だっけ。アイスクリーム美味しいかい?」
「うん、おいひいです」
「私は、甘いものが苦手だから私の分をあげよう」
ウィレームがクローブに差し出した。クローブは、お礼を言うとアイスクリームにかぶりつく。
「そうそう、食べたらお風呂入っといで」
「はーい」
「何から何までありがとうございます」
「いいのよ」
村長の細君は、ニコニコと答える。
「あとで村長さんとお話したいのですが。お仕事はいつ終わりますか」
「あぁ、いますぐ行っても構わないよ。あの人の仕事は、明るいうちに終わってるからね」
細君は、皿を片付けながらいった。
ずいぶん皿の数が、多いので手伝ったほうが良さそうだ。
「そうですか。ありがとうございます」
「お礼をいわれるようなことじゃないんだけどね。そういえばあんたたちなんでこの村にきたんだい?若い人と子どもばっかりでさ。トレジャーハンターでもなさそうだし」
「我々は、魔王討伐の旅に出ているのです」
一瞬の出来事だった。
人のよい笑みを浮かべていた細君の顔が凍りつく。
ただ本当に一瞬の出来事で気のせいかと内心思う。
「へぇ、それはすごいことをしているんだね。ということは、旅で疲れてるんじゃないかい?あとで温かい飲み物を持って行ってあげるよ」
「何から何まで申し訳ない」
「魔物には、あたしらも困ってるからいいわよ。さぁさ、部屋で休んでください」
ありがたく部屋で休ませてもらう。村長に話を聞きに行くと、村長は用事が出来て夜中なのに出ていった。
「本当にこの村人は親切ですな」
「えぇ、そうですね」
「ホットワインを持ってきたよ。アクセントにスパイスと砂糖をいれた特製のね」
ありがたく木のカップを受け取る。カップには、赤い湯気のたつ液体が入っていた。
「ユーグ殿、ワインを飲んだことがあるか?私は、初めてみた」
「えぇ、以前飲みました。ヤーマでは、珍しいですがこちらではこれが普通ですね。試しに飲めばわかりますよ」
「うぅむ、そんなものだろうか‥‥。よし、私も男だ」
ウィレームは、ぐいっと勢いよく飲む。
だが、一気飲みがいけなかった。すぐに酔いが回りフラフラしだした。まだ温めていたからよかったこれが普通なら昏倒しているだろう。
「すみませんが水を持ってきていただけますか。あとはこっちで飲ませますので」
「えぇ、いいですよ。ちょっと待っててください」
クローブにもカップを渡すと細君は台所に戻って行った。
「あら、先に寝ていてかまわないのに」
細君が戻ってきた時俺以外はもう完全に寝ていた。ウィレームの場合いびきまでかいている。
「これを頼んだのは、私ですからちゃんと受け取るまで寝れないと思いまして。商人の性ですね」
「何か売ってるのかい?」
「ヤーマで日用品や小物の販売をしています。今は、ウィレーム様に付いて新しい商品を探している途中なんです」
嘘だけどさ。
そういえば言い忘れていた。
「入れていただいて申し訳ありませんが。この量、私には多すぎますので下げていただいてもいいですか」
半分空けてあるカップと空のカップを渡した。空のカップは、クロープのものだ。
「無理強いはしませんから。では、ゆっくりお休みください」
細君が部屋をでると部屋がシーンと静まり返った。時折ウィレームのうめき声が聞こえる。
まだ起きそうにないから俺も横になって目をつむった。




