情報は金なり
夜になっててベルの宿が昼とは別の賑わいを見せて酒と女と男が入り混じる。
俺は、カウンターで静かに酒を飲んでいた。
ウィレームと飲もうかと思って誘ったが、奴はたった一杯でぐっすりと寝ている。
「ぐー‥‥」
ビールジョッキ一杯だけで寝落ちsるとは、酒が弱いなら弱いと一言言えばいいのにビール一杯で寝落ちしてしまうとは思わなかった。
騎士団では、まったく酒は飲まないのだろうか。
「で、結局どうするのクローブちゃん?」
カウンター席の向こう側から、ベルが飲み物を作りつつ話かける。
「もちろん、一緒に旅をする」
「魔王討伐の旅でしょ。本人にそのことも聞いたの?」
俺は、なるべく抑えて笑ったベルが不思議そうに見る。
「スマートだってさ」
「スマート?」
「かっこいいってことさどうも感性が違うらしい。でもそんなのでよくも自分の人生を決められるな」
「勇者っていうのは男の子の夢でしょ」
「私は商品に傷をつけさせない。…カシスオレンジ追加」
「ふーん、クローブちゃん商品なのね。妬けちゃうわ」
「なにいってんだ」
「いいのよ。はい、どうぞ」
赤とオレンジがまだらになってグラスの中に入りおまけであろうオレンジが縁に飾られている。
飲むと甘い味とカシスとオレンジの酸っぱさが身に染みた。
「いつ飲んでもここのカシスオレンジは美味しいな」
「いける口なんだからたまには一緒に別なのを飲みましょうよ♪」
ドンと出された徳利には、"豪快"の二文字が堂々と書いてあった。
「今日完全に酔うとだめになりそうなので、やめておきます」
「ちぇー、仕方ないな~。好きな人と好きなだけ飲める酒は美味しいのに」
ベルは、唇を尖らせて拗ねるがこんなもの序の口だ。
「もう一回ここを立ち寄ったら好きなだけ一緒に飲んであげますよ」
「うーん、それはない気がする~」
「それは私が旅の途中で死ぬということかな。レッドアイ一つ」
「えー、レッドアイ頼むの?美味しくないでしょ」
批判的なことを言いながらも、ベルは手際よくレッドアイを作り始める。
ビールとトマトジュースそして隠し味でほんの少しの岩塩だ。
甘いカクテルが好きだがトマトの中にも苦みがある、レッドアイが飲みたい時だってある。
「たまには違うのを飲みたい気分なんですよ。それでなんで一緒に飲まないと?」
「女のカン~♪それ以上はお~しえない♪はい、レッドアイ」
真っ赤でドロッとしたレッドアイがカウンターに置かれた。
そう言えば今寝ているがクローブが赤い目だった。
「ベルの女のカンは信じられないですね。とりあえず本題でこの場に情報屋は何人いる」
「私を除いて5人。そのうち2人が詐欺師、3人が本当の情報屋だけど。赤毛の男は虚言癖、青と緑は大金をふっかけられるわね」
青と緑はぼったくりで赤毛は虚言癖か‥‥。
「赤毛の虚言壁の内容はわかるか」
「三賢人の一人の居場所を知ってるとか。黒い光が上がる瞬間を見たとか。河童のミイラを見たとか。信憑性のない内容を言ってた気がするわ」
「そうか。なら、聞きにいこう」
「えっ??」
俺は、カウンターを後にして赤毛の男が座るテーブルに座った。
「なんだいきなり。人が気持ちよく酔ってたのによっ」
「あなたの情報を買いたいのですがおいくらですか」
「俺っちの情報?お前俺がどんな内容の情報を持ってるか知ってるのか?」
「珍妙、奇天烈、破天荒な話だと聞いています。ですが、その話の中に一つだけ信じられる話があったのでお聞きに上がりました」
「んっ?信じられる話ってなんだ」
「河童のミイラは、私も見たことがあるんですよ。15年くらいまえにシユーでね」
シユーと言った途端に、男の顔色が変わった。
さっきまで興味なさげに聞いていた顔から、目をギラギラさせ俺を見る。
「シユーのどこだ」
「ヨナでしたかね?」
5歳位の時の記憶だから間違っているかもしれないが。
衝撃的なものだからそうそう間違えるものじゃない。人間にはない頭の皿や干からびた水かきが特徴的なミイラだった。
「もしかして‥トレジャーハンターのリーグとアンナは‥」
「私の父と母です」
「そうか!そうか!そう言えば息子がいるとか言ってたしアンナの顔にそっくりだな。いや~懐かしい。でも、親父さん達は気の毒だったな」
「あれは事故。まぁ、トレジャーハンターをしていて墓に遺体があるのは幸運だと思っています」
生死がわからず待ち続けるより残酷だが、遺体があれば現実を見つめられた。
そこに両親がいるのだと見つめるいい機会だった。
「もしかしてリーグさんと同じトレジャーハンターをやってるのか?」
「いえ、城下で商売をしてました。今は色々あって旅に出てます」
男は、俺を見て目を丸くしている。
「ふーん、そうか」
「話がそれてしまいましたが情報を売ってくれますか」
「いいともよ。そもそもユーグお前は、俺の情報をやる第一段階の問題をクリアした。だから俺の情報はお前さんに売ってやれる」
男は歯を見せながら笑った。よく見ると下の犬歯がない。
「お前さんが欲しい情報はなんだ?」
「三賢人の居場所とエルフの森への行き方。もしわかるのならば魔王の本拠地の場所」
「いいだろう。対価は?」
「私が生きてあなたの前に戻ってきて旅の話をすること」
生きた情報には、正確な真実を返す。
金以上に情報やにとって得難いものだ。
「生きて帰って来れなかったらどうする?」
「情報が嘘か罠なのか判断材料になるというのはどうでしょうか。もしくはこの情報には危険が伴うとも」
「うーん、仕方ないな。それで手を打とうとするか。はい」
男は、俺になんの変哲もない一枚の紙を渡してきた。
「それにさっき聞いてきたことの情報が載ってる。いいかくれぐれも"信用できる奴以外と読むな"。わかったか」
「はい」
俺は、紙を懐に入れて席を立つ。
「おぉ、そうだ。次に会う時は"赤毛のジョー"で探せば見つけられるぞ」
「赤毛のジョーですね。わかりました」
「お前さんの旅にイガナジの加護があればいいな」
イガナジは、ヤーマで崇拝されている最高神でありこれは旅先の幸福を願う言葉であった。
「はい、あなたにも」
「おうよ!」
最初は気難しそうな印象をうけたが、意外にいい人なのかもしれない。
席に戻るとウィレームは未だに爆睡中だった。
これが知り合いの店でなかったら、邪魔だから財布の中身をとって外に放り出されているだろう。
「どう?いい情報もらった??」
「まだ、確認してない。とりあえず部屋で中身を確認したいんですが‥」
ウィレーム様は未だに夢のなか、置いておくわけにはいかないが体格がいいから一人で運べる自信がない。
「ウィレーム様、ウィレーム様、起きてください」
「起きそうにないわねぇ。運ぶの手伝う?」
「そうしてもらえると非常に助かる」
仕方なく二人で、引きずって上まで連れて行った。
次はぜ絶対に飲ませない。
「よし、疲れた‥」
「私も疲れたわ。それにしても同じ部屋に二人きりって久しぶり♪」
「ウィレーム様が寝ていますが?」
「寝てる人は数に入れないのよ。それより…いいことしない?」
ベルは俺に詰め寄るが、俺は平常心を顔に面をつける。
「やりません」
「えー、いいじゃない」
ベルが頬を膨らませる。
「だいたい、ベルあなたは」
「ユーグ殿‥とベルさんは恋人だったのですか?」
さっきまで寝ていたのにウィレームが目を覚ましていた。
しかもこちらを凝視している。
「そーでーす♪キャハ」
「違うだろうが!」
「照れちゃてー」
ウィレームは目をキョロキョロさせる。どれだけこういうことに耐性がないんだ。
「それなら私は邪魔だろうから外に」
「行かなくていい。そもそもこいつは"男"だ」
「‥‥‥‥」
顔が呆けて動かなくなったが、めんどくさいので頭を叩く。
「いたっ!ってええっ!?男には見えません。ベルって名前は女性では‥‥」
「そーお?うれしー。でもね、ベルは愛称で本名がベルモンド。体は男だけど心は女なの~♪」
ベルは、お清いウィレームはニコニコと爆弾発言をする。
「困った癖とは、この女装癖のことですか」
「違う。気に入った相手(男)がいると隙さえあれば襲うんだよ」
「私なりの愛情表現♪」
これさえなければベルモンドは比較的気の許せる相手だ。
商売柄か性格はさっぱりしてるし、自称心は女だから女性を対象にした商売のとき参考意見を聞ける。
「だってー、ユーグさんモロ好みなのよねー。顔綺麗で~細身で~あと、ちょっとかわいい顔してるのもツボ~。あと、意外に毒舌なのがギャップ萌」
「はぁ、そうですか」
ウィレームの目が泳いでいる。突然ベラベラと好みの話をされても困るだろう。
「ベル話はそれくらいにして部屋から出ていけ」
「はぁ~い、あとユーグさん敬語なくなってるよ。バイバーイ」
ベルが部屋から出て静寂が訪れる。
確かに途中から地がでて敬語でなくなってしまった、気をつけなければ。
「ウィレーム様、情報屋から買った情報を確認しますが見ますか」
「ううむ、わかった。それにしても切り替えが早いですな」
「慣れてますので。とりあえず情報はこれです」
紙を机に広げると大きさが15センチ四方ある、中にかかれているのは文章のみ。
「この文章の意味がわからない‥」
「文章?私には何も見えないが??」
「何も見えないということは白紙に見えると?」
ウィレームが頷くが、ウィレームが見えない原因がわからないが、埒があかないので内容を別の紙に書いた。
緑の者は竜を守る
黒の者は裏に住む
愚か者は最も上に
怠け者は最も中に
呪う者は最も下に
「確かにこれは意味がわからない。そもそもこの文は情報屋が考えたのか?」
「それはわかりません。どういうことか聞こうにもウィレーム様が起きた時に外へ出るのを確認しましたから聞けません」
明日も店に顔をだすだろうか。
いや、これ以上聞き出したら何を対価にとられるかわからない。
僕が出せる中で最大限の条件を引き出したつもりだ。
「‥‥とりあえず明日考えるべきでは?今日はもう遅い」
「それもそうですね」
明日になって何かわかるだろうか?
だがわからなければ次に進めないということは確かだった。




