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無能扱いされた元事務員、異世界ギルドで命を救う受付嬢になりました 〜最強冒険者たちに溺愛指名されています〜  作者: 他力本願寺


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第31話 王都本部から、私を引き抜く手紙が届きました

ルーンベルの街を襲った魔物の大群――その『第一波』の猛攻から、数日が経った。

第二防衛線での激戦の末、レオンさんたち冒険者の決死の奮闘と、私が組んだ補給のピストン輸送が功を奏し、ギルドは奇跡的に一人の死者も出すことなく街を守り抜いた。

しかし、事後処理に追われる安堵も束の間。私を別の意味で大きく揺さぶる一通の分厚い封書が、王都から届いたのだった。


「……ユイ。お前さん宛てに、王都本部からの親書だ」


ギルドのカウンターで、討伐証明書の整理と負傷者の医療費計算に追われていた私の前に、ヴィクトル支部長が重々しい面持ちで一通の手紙を置いた。

豪奢な金色の封蝋が押された、上質な羊皮紙の封筒。


「私宛て、ですか? ギルドの支部長宛てではなく?」


「ああ。名指しで『ルーンベル支部受付嬢、白石結衣殿』となっている。……開けてみな」


支部長に促され、私はペーパーナイフで封を切った。

中に書かれていた流麗な文字に目を通した瞬間、私の頭の中でパチリと弾かれていた暗算の思考が、完全に停止した。


『王都ギルド本部・記録管理特別補佐としての招聘。待遇は現在の十倍、及び王都の一等地に住居を用意する』


破格の条件。

それは、アシュレイ様が以前口にしていた『王都への引き抜き』が、公的な手続きを経て現実のものになったという絶対の証明だった。


「……私の報告書が、王都のトップを動かしたようですね」


背後からふわりと上品な香水の匂いが漂い、アシュレイ様が満足げに微笑みながら覗き込んできた。


「子爵の不正を数字だけで完全に立証し、魔物災害の兵站を一人で管理し切ったあなたの事務能力。……王都の中枢が、その頭脳を放っておくはずがない。ユイ嬢、あなたは今や、国中から必要とされる『至宝』なのです」


「私が、国の至宝……」


手の中にある手紙が、ひどく重く感じられた。

現代の会社では、新しいシステムについていけないと若手から笑われ、「アナログさん」と呼ばれて隅に追いやられていた私。誰からも必要とされていないと思っていた地味な事務能力が、異世界では国の中枢から名指しで求められている。


それは、事務員としてこの上ない最高の評価だった。

けれど、私の胸の内は手放しで喜べる状態ではなかった。


「……王都に行けば、私はもう、このルーンベルの窓口には立てないのですよね」


私がぽつりと呟くと、ヴィクトル支部長が複雑そうな顔で頭を掻いた。


「お前さんの人生だ。こんな辺境のギルドでくすぶってるより、王都で出世した方が絶対に幸せになれる。俺は止めねえよ。……ただ、ギルドの連中がどう言うかはわからねえがな」


支部長の言葉通り、王都からのスカウトの手紙が届いたという噂は、あっという間にギルド中に広まった。


「ユイさん! 王都に行っちゃうんですか!?」


真っ先にカウンターに駆け寄ってきたのは、大型犬のように尻尾を下げたノアくんだった。


「俺、まだB級になれてないのに……! でも、ユイさんが王都に行くなら、俺、もっと早く昇格して、絶対に王都まで護衛の依頼を受けますからね!」


彼は寂しさを堪えるように、真っ直ぐな尊敬と好意をぶつけてくれる。


「おや、ノアくんは健気だねえ。でも、王都までの道中なら俺のようなプロの斥候の方が適任だよ」


ノアくんの背後から、琥珀色の瞳を細めたカイルさんがひょっこりと顔を出した。

彼はカウンターに肘をつき、私の顔を至近距離で覗き込んでくる。


「ユイちゃんが王都に行くなら、俺も情報屋の拠点を王都に移そうかな。……あっちの方が、君とゆっくりデートする口実を作りやすそうだし?」


冗談めかしてはいるが、彼の声には一切の迷いがない。私の行く場所なら、どこへでもついてくるという強烈な執着が透けて見えた。

アシュレイ様からの優雅な求愛、ノアくんの真っ直ぐな慕情、カイルさんの危険な同行宣言。

私という一人の受付嬢の去就に、有能な男たちが次々と自分の意思を示していく。


しかし――。


(……レオンさんだけは、何も言ってくれない)


私の視線の先。

ギルドの少し離れた柱の影に、長身の銀灰色の髪が見えた。

西門の激戦を生き抜き、無事に帰還してくれた最強のS級剣士、レオンさん。


彼は私が王都から手紙を受け取ったことにも、周囲の男たちが私に同行を申し出ていることにも気づいているはずだ。

それなのに、彼は腕を組んだまま、深い青の瞳を伏せて、ただ無言を貫いていた。


『俺は、君のいるこの窓口に帰ってくる』


戦場へ向かう直前、私の頬を撫でながら言ってくれたあの約束。

彼が帰る場所であるはずの私が、この窓口からいなくなるかもしれないのに。彼は引き留めるわけでも、怒るわけでもなく、ただ静かに口を閉ざしている。


(どうして……? 私のことは、もう専属の受付として必要じゃないの……?)


王都からの評価という最高の名誉を手にしながらも、私の胸の奥は、彼が向けてくる不器用な沈黙のせいで、激しく掻き乱されていた。

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