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無能扱いされた元事務員、異世界ギルドで命を救う受付嬢になりました 〜最強冒険者たちに溺愛指名されています〜  作者: 他力本願寺


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第13話 報告書テンプレを作ったら、冒険者たちの性格が丸見えでした

会計係のドルンさんが、王都の監査から逃れるために横領の証拠となる古い台帳を隠蔽しようとしている。

その動きを視界の端で捉えながらも、私は自分の窓口に押し寄せる冒険者たちの波をさばかなければならなかった。今日の課題は、ギルドを長年悩ませてきた『未処理報告書の山』をどうにかすることだ。

証拠を確実に押さえるための裏付け作業を進めるためにも、私はこの無駄の多い受付業務を根本から効率化し、自分の時間を捻出する必要があった。


「ユイさん! 昨日のゴブリン討伐の報告なんだけど、これでいいか!?」

「俺の薬草採取の報告書も頼む!」


次々とカウンターに提出される羊皮紙の束を見て、私は内心で深いため息をついた。

ルーンベル支部の報告書は、これまで完全な『自由記述式』だった。ある者は討伐数を文字で長々と書き連ね、ある者は読めないようなミミズの這った字で一行だけ書き殴り、またある者はなぜか昨日の晩ご飯の感想まで書いている。


現代の会社でこんな日報を出せば、即座に上司から突き返されるレベルだ。

これでは確認に時間がかかるし、過去の記録との照合も難しい。


「みなさん、今日から報告書の書き方が変わります。こちらの新しい用紙を使ってください」


私はあらかじめ夜なべして大量に手書きしておいた、新しい羊皮紙をカウンターに並べた。

それは、現代の事務員なら誰もが作る『穴埋め式テンプレート(定型フォーマット)』だ。


・討伐対象(採取物):

・数(量):

・負傷の有無:

・特記事項(危険な魔物の遭遇など):


「この四つの項目を埋めるだけで結構です。不要な文章は書かなくて構いません」


「おおっ! これなら字を書くのが苦手な俺でもすぐ終わるぜ!」

「すげえ、項目が分かれてるから書き忘れがねえな!」


冒険者たちは歓声を上げ、次々と新しいテンプレートに記入し始めた。

効果は絶大だった。提出された書類はどれも情報が整理されており、確認と報酬計算の速度は劇的に跳ね上がった。


順調に列が消化されていく中、ふわりと甘い香水の匂いが漂ってきた。


「やあ、ユイちゃん。俺の報告書も提出していいかな?」


カウンターからひょっこりと顔を出したのは、A級斥候のカイルさんだった。

彼は人懐っこい笑みを浮かべながら、新しいテンプレート用紙を差し出してくる。どれどれ、と確認のために目を落とした私は、ピキリと眉間に皺を寄せた。


・特記事項:『今日もユイちゃんの笑顔が最高に可愛い。これが一番の報酬だね』


「……カイルさん。公的な書類に、不要な私語を書かないでください。書き直しです」


「えーっ、事実を書いたのに厳しいなあ! そういう冷たいところも好きだけどね」


隣の窓口でミリアさんが「相変わらず顔面偏差値の無駄遣いね……」と呆れたように呟いている。

カイルさんが大げさに肩をすくめながら書き直しに向かった直後、今度は背後からドサッと重い羊皮紙が置かれた。


「……俺のも、これでいいか」


低い声に振り返ると、黒竜谷から帰還したばかりのレオンさんが立っていた。

彼は基本的に面倒くさがりで、以前は「討伐完了」とだけ書かれた紙切れを出してはセルマ主任に怒られていた。

しかし、彼が提出した新しいテンプレートには、すべての項目に短くも正確な答えが几帳面な字で書き込まれていた。


・特記事項:『なし』


「完璧です、レオンさん! とても分かりやすくて助かります」


私がパァッと顔を輝かせて褒めると、無口な最強剣士は少しだけ気まずそうに視線を逸らした。

そして、私の手から羊皮紙の端をそっと指先でなぞるように触れる。


「……君が作った紙なら、書く」


ただ一言。

それだけの短い言葉なのに、彼の不器用で真っ直ぐな好意がずしりと伝わってきて、私の心臓はまたしてもトクンと大きく跳ねてしまった。

本当に、この人はずるい。


そんな甘いやり取りの裏で、私は静かに、けれど確実に『仕事』を進めていた。


(……見つけた)


テンプレ化された大量の報告書。

書式が統一されたことで、それを過去の台帳と見比べる作業は、以前とは比べ物にならないほど容易になっていた。

綺麗な数字の列の中に潜む、不自然な丸め方。


特定の冒険者の報告書に対してのみ、銀貨や銅貨の端数が常に「ギルドの利益」として丸められている。そしてその処理が行われた書類の筆跡は、すべて会計係のドルンさんのものだった。

彼特有の『不正の癖』が、テンプレートという網によって見事に炙り出されたのだ。


(これで、不正の傾向と証拠は完全に一致したわ)


私は手元の簡易そろばんを静かに置き、ギルドの奥、ドルンさんがいる会計窓口の方を冷ややかに見据えた。


彼は今も、アシュレイ様の監査に怯え、証拠となる元の台帳を革鞄に詰め込んで隠滅の準備を進めている。

だが、遅い。


「……事務員は、大事な書類を一つの場所に置きっぱなしにはしませんよ」


私は小さく呟いた。

現代の会社で、何度も理不尽な責任転嫁をされてきた私は、自己防衛のための『バックアップ』の重要性を誰よりも知っている。


私はすでに昨夜のうちに、彼が隠そうとしている不正台帳の該当ページの『控え(写し)』をすべて手書きで作成し、ギルドの書庫とは別の――絶対に彼の手が届かない安全な場所へ、分散して保管し終えていたのだ。


数字の嘘を暴くための手札は、完全に私の手の中に揃っていた。

あとは、彼が尻尾を出す決定的な瞬間を待つだけだ。

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