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 あれから数日後。アーシャ様が山ほどのお土産を手にして無事に帰ってきた時は心底ホッとしてつい抱きついてしまった。アーノルド様が大丈夫だとおっしゃっていたので大丈夫だとはわかっていたのだが、やはり心配だったのだ。


「ご無事でよかった!アーシャ様がいない間、とても寂しかったです……」


「エ、エトランゼ様がわたくしの身を案じていて下さった上に寂しがってまで……なんというご褒美!我が人生に悔い無しでしてよ!ちょっとお兄様に勝ったかもしれませんわね!とにかく嬉しいですわぁ!わたくしも寂しかったですのよーっ!」


 アーシャ様は興奮気味に私と抱き合いながら、器用に足元だけをバタバタとしてはしゃぎ出した。それを見てアーノルド様が「お前はパタ◯ロか」と呆れ顔でつぶやいている。


「ふふっ、アーシャ様ったら」


アーノルド様の言った意味はわからなかったが、アーシャ様の子供のようなはしゃぎぶりに私も思わず笑みがこぼれてしまった。



 そして、今は離れて暮らす弟の姿を思い出していた。


 あれから何度か実家に手紙を書いたが返事はお父様からばかりで、弟のロナードからはなんの返答もないままだ。お父様はロナードには真実を告げてないと言っていたけれど、学園に通っていればいずれ噂は弟の耳にも届いているだろう。


 ……もしかしたら、ロナードは私の事を情けない姉だと幻滅してしまったのかもしれない。


 それに、私はセノーデン伯爵家ではとても可愛がられているから心配はいらないと手紙にも書いるのだけれど毎回お父様は謝罪の言葉ばかりで決して「おめでとう」とか「幸せにおなり」とか、そんな言葉は書いてくれなかった。お父様の中では私は未だに“金で買われた不幸な娘”のままなのだろう。さすがにセノーデン伯爵一家が予言の力を持っているとか乙女ゲームの話は出来ないし、私が悪役令嬢とやらかも知れないなんて言えば別の心配をされそうなので詳しい事は言えないが……。私がアーノルド様の妻としてもっと頑張れば、いつかお父様も祝福の言葉をかけてくださるかしら……。


「エトランゼ様……なにかおツライ事でもありましたか?」


「えっ、いえ、そんな……」


 いつの間にか私の眉根にシワが寄っていたようで、アーシャ様が心配そうに顔を覗き込んできた。


「はっ!もしやわたくしのいない間にお兄様となにか進展が……?!大人の階段を登ってしまいましたの?!お兄様ったらとうとう我慢のげんkあぶっ!?」


 大人……?階段?


 咄嗟にその意味がわからず首を傾げる私の視界では、さっきとは別な感じで大興奮しだしたアーシャ様の顔面をアーノルド様の大きな手が鷲掴みにしていた。


「うるさいぞ、アーシャ。エトランゼ嬢が困っているだろう。そして早くエトランゼ嬢から離れろ、触り過ぎだ」


「じょ、冗談ですってば!お兄様がヘタレなのはよく知って……痛い痛い痛い!ですってば!

 久々なんですから、もうちょっといいじゃないですかぁ!わたくしもエトランゼ様を堪能したいですわ!」


「ダメだ、減る」


 そうして私からアーシャ様を剥がすと、私の体を隠すように今度はアーノルド様が抱きしめてきたのだ。


「ア、アアアア、アーノルド様?!」


「アーシャの言う事などお気になさらずに……。でも、もし悩み事があるのならば僕に1番に言ってくださいね?僕はあなたの夫なんですから……それに、階段を登るなら夫婦として一緒に、ね?」


 耳元で優しく囁かれ、アーノルド様の息遣いを感じてしまいなんだか急に恥ずかしくなってしまった。顔から火を吹きそうなくらい熱が頬に集中してしまう。




「お兄様、楽しそうですわぁ~っ」


「あらあら、仲良しねぇ」


「孫が楽しみだなぁ」


「伯爵家は安泰でございます」


「「「ですねぇ~」」」



「!」



 アーシャ様と伯爵夫妻、老執事のマートスさん。それに使用人の方々がニマニマとしながら私たちを見ていることに今更気づいて、恥ずかしさが限界突破しそうになった。


「ア、アーノルド様!皆さまに見られていますから!」


「僕としては、ずっとこうしていたいんですが……」


「ダメです!」

 


 なんとかアーノルド様の腕の中から逃げ出し両手で顔を覆っていると、屋敷の外が騒がしい事に気が付いた。アーノルド様が「なにごとだろう?」と扉を開けた瞬間。



「おねーさまを、いじめるなぁ────っ!!」



 そこには、私と同じ髪色と瞳の色を持った小さな男の子が子供用の木刀を持って立っていたのだ。


「ロ、ロナード……?!なぜここに……」


 そう、そこにいたのはなんと私の弟のロナードだったのである。そのロナードが、怒りの表情でアーノルド様に木刀の先を突きつけた。


「お前が、悪い伯爵れーそくだな?!ボクの大切なおねーさまをいじめるやつは許さないぞ!!」と叫びながら。







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