15 とあるギルドでの出来事
時間は、エトランゼたちがセノーデン伯爵家で小さな襲撃者と対峙している現在より少し遡る……。
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コンコン。と、乾いた音が部屋に響く。その部屋の装いは簡古素朴ではあったが古びた様子はなくどこか重厚感を漂わせている。そして、そんな部屋の中心には男が1人。薄暗い部屋ではその人物像は判別しにくくさらにその顔は仮面で覆い隠されているが、その雰囲気からは只者ではないことだけが伺い知れた。
男が「入れ」と口を開いた。
「失礼致します、ギルド長。実は……」
少し焦った様子で入ってきた青年が頭を下げた。その手には1枚の紙が握られていて、男にはその内容が手に取るようにわかっていた。
「あぁ、王家からかな?どうせ、うちのギルドが持っている在庫を寄越せとか言っているんだろう……。やっぱり宥められなかったんだな」
「は、はい!どうやら《《例の件》》で異国をかなり怒らせたようで、献上品をうちのギルドで用意しろと……。しかも国の緊急事態なのだから無償で協力しろとの王命です。そのかわりに今後は王国御用達の称号を授けるとかなんとか……こっちが平民のギルドだからって全く馬鹿にしていますよ!」
憤慨するギルド員だが、一応王命となれば無視するわけにもいかないのではないかと困っているわけだ。
「そうだね、うちは平民のギルドだ。良い物を必要としている人へ、安定した価格で販売する。確かに他国の王家に献上出来るだけの高級品も扱っているが決して王家の尻拭いをするためにあるわけじゃない」
そうして男は青年からその紙を受け取り、ビリッと真っ二つに破いてみせた。
「ギ、ギルド長」
「他のギルド員を集めてくれる?塩とダイヤモンドは安定供給出来るから、それで物々交換して品物をかき集めるんだ。これから王国のコインは価値が下がるから溶かして金塊にして保管ね。でも平民のお客様には今まで通りの金額で対応するようにと。さぁ、物流が本格的にストップする前に動いてくれ!」
「了解しました!」
破いた王命の紙をゴミ箱に放り込み、男はやれやれと肩を竦める。これまでこのギルドは平民の集まりのギルドのくせにと高位貴族から難癖をつけられていた。それでも扱う商品は文句のつけようがない一流品だ。しかもそれを安価で平民に分け隔てなく売るものだから余計に反感を買ったのだ。特別感を欲する貴族が平民と同じ物を買うなどプライドが許さないと……。もちろんそんな貴族ばかりではないが、そんな貴族が多いのも真実である。
まぁ、あの馬鹿王子もそんな馬鹿げた貴族の仲間であったのだが。
「散々王子が“こんな得体の知れないギルドなどこの国に相応しくない”とお忍びで来るたびに馬鹿にしていたギルドに王子の尻拭いを頼むなんてどこまで切羽詰まっているのだか……今更こっちが王家御用達の称号なんか欲しがると本気で思ってるのかな?」
《《あの噂》》が飛び交ってからそれなりに時間が経ってから打診がきたということは、おそらく他の貿易ギルドや商業ギルドには断られたか、相手が喜びそうな品物が無かったのだろう。
それにしても、怪文書に異国の姫様へのプロポーズとは……。これだけ大騒ぎになることなんて想定内だろうに、《《あいつ》》、絶対に楽しんでるよな?
まぁ、きっと根回しもしているだろうから別にいいのだけれど。
「さぁて、お仕事しますかねぇ」
軽くノビをした仮面の男は「楽しくなりそうだなぁ」と呟いたのだった。




