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「えぇっ?!あの王子がこの国と貿易をしているたくさんの友好国に怪文書を送り付けてたんですか?!」
そんな王家の恥ともいえるビッグニュースが私の耳に届いたのはアーシャ様が「わたくしの携わる商売のことでちょっと野暮用がありますの」と言ってここしばらく屋敷を空けている最中の事だった。
確かアーシャ様は身分を隠してダイヤモンド鉱山関連の事業に携わっておられるとのこと。セノーデン伯爵家の名前を使わずに事業を展開しているそうなので、なにか問題が起こったら自分で解決しにいかねばならないのだ。もしや何日も帰ってこないのは王子がそんな問題を起こしたからでは?と心配になってしまった。アーシャ様の身に危険が及ばないといいのだけれど。
「どうやらあること無いことを書き綴り、脅迫紛いの文書を送り付けていたらしいんです。最初は友好国も信じていなかったようでしたが、王家しか知らないはずの詳しい内容も全部知っていて、さらには偽造出来無いはずの王家の封蝋印に王子の直筆サインとなれば疑いようもないかと」
「でも、王子はなぜそんなことを……」
「簡単に説明すると“秘密をバラされたくなければ袖の下を寄越せ”みたいな内容ですね。その秘密とやらはめちゃくちゃな事が書いてあったようですが、国王陛下にヒロインとの交際をよく思われていなかったようで自由に使える金を貰えてなかったのでは?……どうぞ」
アーノルド様は肩を竦めながら私の前にお茶を出してくれる。私の好きな薔薇の香りがふわりと広がった。
「そういえば、貿易大国として有名な異国へは“第三皇女を妻にしてやるから自分を支援しろ”などというふざけた内容だったとかで、あちらの皇帝は大層怒り狂っているようですよ?あの国の皇帝が末っ子の第三皇女を溺愛しているのは周知の事実です。《《第三皇女が望んだわけでもない》》のに無理矢理なんて皇帝が許すはずもないですね。ましてや、第三皇女とはこの国で運命の出会いをして将来を誓い合った仲だと吹聴しているとか。ふふっ……第三皇女は未だ《《祖国から一歩も出たことなどない》》というのに、どうやって運命の出会いとやらを果たしたのか疑問でしかありませんね。王子は手紙を送ったのは異国のみでその他の怪文書などは送っていないと否定していますが誰も信じませんよ。おかげでそれぞれの友好国は大激怒みたいで抗議文が殺到しているとか。国王陛下が謝罪してなんとかしているようですが、下手をしたら国際問題ですから王子も無罪とはいかないでしょう。というか、それなりの罰を与えなければ本当に友好国が敵国に変わりかねません」
その先を想像しただけでゾッとしてしまう。ましてや貿易大国と名高い異国を怒らせるなんて命知らずにも程がある。この国の王子はどれだけ愚かなのだろうか。そう言えば、アーノルド様たちが教えてくれた王子ルートでは最後はお金欲しさに私に罪を擦り付けて殺そうとするんだったわ。そう考えると元よりそんな人だったのだろう。
「いくらお金が欲しかったからってなんてことを……。それに王家の封蝋印なんて使ったら今更誤魔化すなんて無理ですわ。アレは1つしか存在しない上に王家の人間しか使うことが出来ないように厳重に管理されているはずですもの」
「全くですね。だって《《この世界》》には封蝋に使う印を《《完璧に模造》》したり個人のサインを《《完璧に再現》》する技術なんてないんですから……フッ」
一瞬、アーノルド様が笑いを堪えたように思えて首を傾げる。いや、気のせいだろう。まさか自身たちが暮らす国の一大事に笑うなんてことはないはずだ。
「そうですわね。そんなことが出来たら世界がひっくり返ります……。それよりも、これから国はどうなるのでしょう?貿易が出来なくなれば大変な事になるのではないでしょうか」
「それならご安心下さい。実は父さんは色々な国の貿易ギルドなるところのギルド長をしておりますので、すでに手を回してあります。今は多少混乱していますが、2週間程したら落ち着ける手筈になってますから。……まぁ、王室が好むような物は難しいですが、貴族や平民が一般的に好む物は問題ありません」
「セノーデン伯爵はすごいですね!だってそれも、別名でやってらっしゃるのでしょう?」
「もちろん。食料や日用品、それからちょっと特殊なモノから色々と輸出入してますし在庫もありますから父さんの貿易ギルドから輸出入した物は値段も上げることなく安定した配給が出来ます。あとは、本当に友好国が敵国になるかどうか次第ですから、しばらくは様子見ですけどね」
最近は私も感覚が麻痺してきたのか、セノーデン伯爵家なら本当になんでも出来る気がしていた。でも、やっぱり王室の好む物は難しいのね。まぁ、王室御用達なんて贅を尽くした物ばかりで、無くても困らない物ばかりだろうし問題は無いのだろう。昔だったらこんな風に考えたりしなかったのに、私の世界はすっかり変わってしまっていた。もちろん、いい方向に。
「それからアーシャも無事ですよ。もう少ししたら帰国すると手紙がきていました」
「本当ですか!よかったぁ……!
それにしても王子には困りましたね。だいたい異国の第三皇女と運命の出会いをしたとか将来を誓い合ったなんて誰が聞いても嘘だとわかりますのに……」
「本当に。他国に関する勉強をしていないにも程があります。《《どうしたらそんな事を思いつくのか》》。なにせ異国の第三皇女は……」
「まだ5歳くらいのはずですもの」
異国の皇帝がお年を召されてから出来た第三皇女は他のご兄弟からもそれはもう溺愛されていると聞く。確かに産まれたときから婚約者がいる人だっているが、溺愛しすぎてどこにも嫁にはやらないと豪語している皇帝があんな王子との政略結婚なんて許すとは思えないのだ。
「確かに異国の皇女を妻に出来れば安泰でしょうけれど、策略を巡らすにしてもどうして1番嘘だとわかる第三皇女を狙ったのでしょうか……」
「策略なのか甘い夢でも見たのか……「え?」いえ。まぁどのみち、第三皇女を利用したとなれば異国は王子を許さないでしょうから……王家は大変でしょうね」
そうしてアーノルド様は「お茶のおかわりはいかがですか?」と優しく微笑んでくれたのだった。




