約束
「…………すごい」
そう、ポツリと声が。つい先ほど嬉しそうにコートに入っていった三神さんが、それはもう鬱憤を晴らすかのように潑剌とプレーしているのだけど……うん、やっぱりすごい。もちろん他のみんなもすごいし、みんながそれぞれに重要な役割を果たしているのだけど――それでも、明らかに一人際立っている。相明の背番号4――三神望夢がチームの中心であることが、恐らくは誰の目から見ても疑いのないほどに。それこそ、お客さんだけでなく相手チームの選手までもが見蕩れちゃってるくらいに。
その後も、有利に試合を進めていく相明。三神さんが入ってからは、いっそう点を取るのが早くなって。そして、とうとう相明のマッチポイントに――
『……精一杯、全力で頑張るからちゃんと見ててね、私のこと』
ふと、頭を過る三神さんの言葉。……うん、分かってる。ちゃんと約束したんだし、そもそも僕は彼女のコーチ――そんな約束なんてなくても、最後まで目を離さず見るのが全く以て当然の責務で。……そう、だからちゃんと最後まで――
「――お疲れさまです、三神さん。そして、おめでとうございます」
「……まあ、まだ初戦だけど……でも、ありがと弥夢さん」
それから、数時間が経過して。
そう、労いと祝福の言葉を送る僕。すると、柔和に微笑み感謝を告げてくれる三神さん。もちろん、本日の試合に関してで。
ところで、今いるのは三神家に設置されたトレーニングジム――なんと、試合だった今日まで自主練習をするとのことで。なので、もちろんコーチである僕もこちらにいるのだけど……うん、僕はいい。もちろん、僕はいいんだけども……でも、三神さんは大丈夫? 流石に控え目にするとは言ってるけど、それでも明日も試合だというのに……まあ、彼女がすると言うのなら僕にどうこういう権利はない。ないの、だけども――
「……あの、三神さん。本当に、無理だけはしないでくださいね? もちろん、余計なお世話だと分かってはいますが……それでも、三神さんが悲しむような結果には絶対になってほしくないですから」
「……へっ? あ、その……うん、大丈夫……」
そう、じっと瞳を見つめ口にする。……うん、分かってる。こんなのが、頗る余計なお世話だということくらい。……それでも、どうしても言わずには――
「……ねえ、弥夢さん。一応の確認だけど、他の女性にも言ってないよね? そういうこと」
「……へっ? あっ、はい……」
「……あの、綺麗な幼馴染みにも?」
「……? はい、言ってないですけど……」
「……そっか。うん、それならいいけど……」
「……?」
そんな懸念の最中、不意に届いた思いも寄らない三神さんの言葉。……いや、誰にも言ってないけど……えっと、どゆこと? あと、蒼那さんに対しては、同じような状況であれば同じようなことを言うかもしれないけども……でも、今のところはまだ……ところで、結局なんだったのかな? 今の質問。
「――今日もありがとね、弥夢さん」
「いえ、こちらこそありがとうございます、三神さん」
それから、しばらくして。
三神家の前にて、ほのぼのといつもの挨拶を交わす僕ら。ところで、仕事が始まってから経った時間自体はいつもとさほど変わらないんだけれど――三神さんが事前に言っていた通り、練習はいつもよりも早く終わらせていて。そして、その後は彼女のお部屋にて雑談などをしながらしばしのんびり過ごしていたわけで。
……でも、ほんとによかったのかな? その方が回復になるから、なるべく一緒にいてほしい――三神さん自身からそう言われ長々と居座ってしまったけれど……彼女は明日も試合なわけだし、今更ではあるけどやっぱり一人でゆっくり休んでた方がよかったんじゃ――
……いや、もしかするとそうでもないのかも。一人でいたら、明日のことを考えすぎて逆に休めないから僕に一緒にいてほしい……うん、そういう事情なら確かに僕といる方がまだしも回復になるのかも――
「――ところで、弥夢さん。目を逸らしてたよね? 最後の方」
「…………それは」
そんな推測の最中、ふとそう問いかける三神さん。何の話か……なんて、確認するまでもない。相明のマッチポイントとなったあの時――僕は、目を逸らした。全力でバレーに打ち込むみんなが、三神さんがあまりにも眩しすぎて――つい、目を逸らした。……うん、全く以てコーチとして失格で――
「……別に、怒ってないよ。だって、私が弥夢さんの立場でもそうなっちゃうだろうし。……ううん、私だったらもっと早い段階で目を逸らしちゃうかも。だから、別に怒ってないよ」
「……三神さん」
「……それでも、次は最後まで見ててほしいな。お金のためなのは分かってるけど……それでも、弥夢さんは私のコーチなんだから」
「……はい。申し訳ありません、三神さん」
そんな自己嫌悪の最中、柔らかに微笑みそう告げてくれる三神さん。そんな彼女に、何とも弱々しく謝意を口にする。……うん、ほんとにごめんね、三神さん。




