夏休み
「――それじゃあ、明日からのお休み、目一杯楽しんでねみんな」
「はーい!」
「でも、宿題も忘れないでね? まあ、みんななら言うまでもなく分かってるとは思うけど」
「……は、はーい」
それから、一ヶ月ほど経て。
二年五組の教室にて、壇上にてそう口にする清麗な女性。彼女は稲垣先生――去年も僕の所属クラスを担当なさっていて、そしてバレー部の監督をなさっていることもあってか、去年から僕のことを気にかけてくださっている優しい先生で。
さて、教室内はいつも以上の盛り上がりを見せているわけだけど……まあ、それもそのはず。なにせ、本日は終業式――明日から、みんな大好きな夏休みを迎えるわけで。……まあ、僕はそうでもないんだけど。
「――今、少しお時間いいですか? 弥夢くん」
それから、少し経過して。
ホームルームを終え、昇降口へと向かう廊下にて凛とした声が背中に届く。だけど、さほどの驚きもなく、むしろ予想通りと言っても差し支えなく。ともあれ、返事と共に振り返るとそこにはクラスメイトで幼馴染み――そして明陽バレー部のエースたる美少女、東藤蒼那さんのお姿が。それから、少しの間をおいて――
「……その、貴方のお気持ちは理解しているつもりではありますが……ですが、できれば次は……」
そう、躊躇いがちに話す蒼那さん。止まった言葉の先は……まあ、流石に分からないはずもなく。ほどなく開催される、高校バレーの近畿大会を見に来てほしいとのことだろう。
その名の通り、この大会には近畿の2府4県からそれぞれの予選大会の上位校が出場することになっているのだけど――なんと、彼女らは府内で準優勝。我らが明陽の歴史に革命を起こした去年以上の成績を引っ提げ近畿大会へと乗り込むわけで。なので、明陽の生徒――更には、この更なる革命の立役者である彼女の友人という立場からも是非とも応援に行くべきだろう。……だけど、
「……申し訳ありません、蒼那さん。その、今年も仕事がありますので……ですが、今年も全力で応援させていただきます」
「……そう、ですか……はい、ありがとうごさいます弥夢くん」
そう、申し訳なくも伝える。……うん、嘘はついていない。実際、去年と同じく今年も仕事はある。ただ、去年に関しては《《仕事があるから見に行けなかったわけじゃなく》》、《《行かない口実を作るために試合の日は店長にお願いして全て仕事にしてもらった》》、という我ながら狡い事情があるんだけども。……まあ、きっと気づいてるだろうけどね、蒼那さんも。
そして、今年も明陽の試合の日は全て仕事で。……ただ、去年と違うのは――
「――今日もありがとね、弥夢さん!」
「いえ、こちらこそありがとうございます三神さん」
その日の宵のこと。
指導を終え、三神家の扉の前にて定例の挨拶を交わす僕ら。……まあ、相変わらず指導と言えるほどのことはできてないけども……それでも、以前よりは多少なりともできるようになってる気もして……まあ、そもそも流石にもうそうなってなきゃダメなんだけども。……なにせ、明日は――
「……ねえ、弥夢さん」
ふと、そう口にする三神さん。ぎゅっと、僕の裾を掴みながら。そして、僕の瞳をじっと見つめ言葉を紡ぐ。
「――それで、明日なんだけど……精一杯、全力で頑張るからちゃんと見ててね、私のこと」




