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どういうわけか、この度バレー部エース(美少女)の専属コーチになりまして。  作者: 暦海


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……うん、気まずい。

 さて、その後もしばし勉強を続ける僕ら。そして、その中で改めて分かったことだけど――三神みかみさんは、ものすごく理解が早い。僕の教え方が上手い、と彼女は言ってくれたし、もしかするとそれも事実なのかもしれないけど……それ以上に、三神さん自身の理解力がものすごく高い。……ところで、それはそれとして――



「……あの、三神さん。ずっと気になってはいたのですが……心做こころなしか、些か距離が近いような……」

「えっ、そう? でも、こっちの方がノートとかも見やすいでしょ?」

「……まあ、それはそうなのですが……」


 そう、控え目に尋ねてみる。というのも、今言ったように些か……いや、だいぶ距離が近いわけで。それはもう、密着してると言って差し支えのないほどに。……いや、分かりますよ? あんまり遠いとノートが見えにくいし、向かい合ったらこちらからは三神さんのノートが逆になるのでこれまた見えにくい――なので、この状況が理には適ってるということは分かりますよ? ……ですが、やはりこの状況は――



「…………すぅ、すぅ……」

「……ん?」


 ふと、思考が止まる。見ると、僕の膝に頭を乗せ寝息を立てる三神さんの姿が。……えっ、急に? さっきまでそんな様子は……いや、そうでもないかな? よくよく思い出せば、ちょっと眠そうにしてた感じもなくはなかったし……うん、そりゃ疲れてるよね。いつも、あんなに頑張ってるんだし。


 ……とはいえ、このままじゃよくない。僕が恥ずかしい、という理由もなくはないけれど……それ以上に、きちんとした体勢で温かい毛布にくるまれぐっすり眠ってほしいから。


 ……ただ、一つ問題があるとすれば……うん、僕が彼女をベッドまで連れて行く必要があるということで。もちろん、ご自身で行ってくれるならそれに越したことはないんだけど……でも、起きる気配もなさそうだし無理に起こすのも憚られて……うん、恥ずかしがってる場合じゃないか。なので、いわゆるお姫さまだっこをすべく膝に乗っている頭に手を――



「…………え」


 刹那、動きが止まる。というのも――まるで離れまいとするように、三神さんがぎゅっと僕のスクールシャツを掴んでいるからで。



「……あの、三神さん……?」


 そう、躊躇いつつも名前を呼んでみる。だけど、反応はなく……まあ、寝てるから当然なんだけども。


 ともあれ……さて、どうしよう。ちゃんとベッドで寝てほしいけど、どうにも離してくれる気配がない。もちろん、無理やり引き離すこともできるけど……でも、流石にそれは躊躇われて……うん、もう少しだけ様子を見よう。それで、僕から離れたり掴む力が弱くなったらその時に……その、時に――





「…………あれ」



 ポツリと、声が零れる。そして、ぼやけた頭で視線を落とすと、僕の膝ですやすやと眠る可憐な少女が……ああ、そっか。あの後、僕も眠って――



「…………あ」


 ふと、微かな声が鼓膜を揺らす。だけど、それは僕ではなく――そんな僕らを、開いた扉の前にてポカンしたお表情かおで見つめる優美な女性の口からで。



 しばし、沈黙が場を支配する。今、目の前におはするのは三神さんのお母さま。お団子らしきもの二つ乗せたトレイを持っていらっしゃるご様子を見るに、何のために来てくださったのかは分かるんだけども……うん、気まずい。きっと、お母さまの方もたいそうお困りで――


「……あら、いけない。ちょっと急用を――」

「お願いですからちょっと待って!!」


 すると、何とも楽しそうな笑顔で去っていこうとする女性。いやお願いだから待って!! あと、ごまかし方が古典的すぎません!? ……いや、それよりも――


「……あの、大変申し訳ありません! つい、不躾な口の聞き方を……」

「ううん、気にしないで。むしろ、そんな感じで話してくれる方がおばさんも嬉しいし」

「……あ、いえ、それは流石に……」


 たどたどしい口調で謝罪をするも、ご気分を害した様子もなく、むしろお言葉の通り嬉しそうな笑顔で答えてくださるお母さま。……いや、そう言ってくださるのはありがたいのですが、流石にそれは――


「ところで、ごめんね弥夢ひろむくん。でも、ノックはしたのよ? でも、返答もなければ何の声も音も聞こえないから、もしかしたら倒れてるんじゃないかって心配になっちゃって」

「……あ、その……すみません」


 一人困惑していると、柔らかに微笑みお話しになるお母さま。……まあ、そうだよね。寝息とかはしてたかもしれないけど、僕らの位置から考えても流石に部屋の外からは聞こえないだろうし。……うん、本当に申し訳ない。



「ううん、二人とも無事でよかったわ。あと、さっきご近所の方にいただいたお団子なんだけど、よかったら二人で食べてね。それじゃあ……ふふっ、後は若いお二人でごゆっくり」

「……あ、ありがとうごさいます……」


 その後、トレイをそっと円卓に置きつつすこぶる楽しそうな笑顔でお話しになるお母さま。……あの、さっきからちょくちょく古典的じゃないですか? いや、もちろん何も悪いことじゃないんだけども。


 ……ところで、それはともあれ――既に背を向け遠ざかっていくお母さまへ、躊躇いつつも言葉を口にする。



「……あの、お母さま。申し訳ないのですが、毛布をかけてあげてくれませんか? ……その、望夢のぞむさんに」








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