意外と普通?
「……ねえ、弥夢さん。ここって、どう考えればいいのかなぁ?」
「……ああ、ここはですね――」
「……うん、なるほど。ていうか、ほんと教え方上手いよね弥夢さん。そういう経験あるの?」
「……あ、ありがとうごさいます三神さん。……そうですね、経験と言ってよいのか分かりませんが……もしかすると、受験の時期に友達に頼まれて勉強を教えていた経験が活きているのかも……」
「……ふぅん。その友達って、あの人だよね? あの綺麗な幼馴染みの」
「……はい」
一週間ほど経た、ある放課後のこと。
可愛らしい円卓にて、鉛筆を片手にほのぼのと会話を交わす僕ら。……いや、ほのぼのでもないか。最後の方とか、ちょっと不穏な雰囲気だったし。
さて、今いるのは本棚、ベッド、勉強机、クローゼットなどが整然と置かれた綺麗なお部屋――温かな白を基調とした三神さんのお部屋で。
『――ねえ、弥夢さん。もうすぐ期末テストで、明日から部活が休みに入るんだけど……勉強も専属コーチをしてくれないかな? まあ、弥夢さんもテスト前だし無理のない範囲でいいんだけど』
昨日の夜のこと。
我ながらまだまだ未熟な指導を終えた後、少し改まったご様子でそう口にする三神さん。今は六月下旬――確かに、そろそろ期末テストの時期で。……ところで、細かいかもしれないけど『テスト前だろうし』とかじゃなくて『テスト前《《だし》》』なんだね……まあ、流石にもう驚かないけども。
ともあれ、なにか返答しなきゃ。……でも、これに関しては迷うこともなく――
『……はい、もちろんできる限りでお役に立てたらと思いますが……ですが、報酬は結構です』
『……へっ?』
そう伝えると、ポカンと目を丸くする三神さん。……まあ、そうなるよね。コーチを引き受けた理由を完全に報酬が目当てだと告げていた僕から、よもやこんな慈善とも思えそうな発言が出てくるなんて思ってなかっただろうから。
だけど、自分が善人だなんて思い上がっているつもりはない。ただ、自分のための申し出――本業の方であの高い報酬に見合った仕事がまだできていないから、せめて勉強で少しでもお返ししようという、言ってみれば僕自身の罪悪感を少しでも減らすための狡い戦略でしかなくて。
さて、そういうわけで現在、僕のできる限りで勉強のお手伝いをしているのだけども――
「……それにしても、少し意外でした。こう、何と言いますか……」
「意外と普通の部屋だなぁ、って?」
「あっ、いえそんな――」
「ふふっ、気を遣わなくていいよ? この家がそれなりに裕福なのは自覚してるし。でも、それを思えばそのわりに普通だよね、ここ。でも、どんな部屋がいいか両親から聞かれた時に私がお願いしたんだ。こんな感じがいいって」
「……そう、なのですね。はい、僕も好きです、こういうお部屋。何と言いますか……こう、温かな雰囲気ですごく心地が好いです」
「……そ、そっか……うん、それならよかった」
続けて、そんなやり取りを交わす僕ら。彼女自身が言うように三神家が裕福なのはご自宅の外観、トレーニングジムがあることなど様々な要素から客観的にも明白なのだけど――これまた彼女自身も言うように、そのわりにはお部屋が意外と普通だったのに驚いて。
だけど、悪く言う意図など全くなく、本当に心地の好い空間で。それこそ、いつか一人暮らしをするとなったら僕も――
(……そっか、じゃあ将来は……)
「……ん?」
「あっ、ううん何でも!」
すると、微かな声が鼓膜を揺らす。でも、何を言ったかまでは分からなくて。まあ、もちろん詮索する気もないけども。




