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【ガチャ】が運命る異世界生活  作者: マネキ・猫二郎
第一部『天国篇』第一章『スタートライン』
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8/10

第七話『暗雲』

 「気持ちがいいなあ」

 


 町から少し離れた所。晴空の下、草原の上で、そよ風に吹かれながら辺りを一望した。視界の端では、シエルと蝶が追いかけっこをしていた。



 「よーし、それじゃ久々にガチャガチャタイムと行きますか! おーいシエル、昼ごはんにするぞ!」

 「はーい!」

 


 返事をし、彼女は蝶に向かって小振りに手を振った。それから「みそしる♪ みそしる♪」と御機嫌に歌いながら歩いてきて、俺の隣にピタリと並ぶ。


 

 「さあ、出てくるかなあ」



 一日六回『食事ガチャ』を選択すると、どこからともなくガチャガチャ機が現れる。



 「先に引くかいシエル」

 「うん!」



 シエルはガチャガチャ機のハンドルを持ち、勢いよく回す。掻き混ぜられたカプセルが、いよいよ落ちて、シエルの手の中に収まった。カプセルの色は黒だ。


 「んっ!」と声を漏らし、力を込めると、カポッと心地良い音と同時にカプセルが開く。彼女は、中に入ってる紙を取り出し、そこに書かれている内容を読み上げる。

 


 「『ラザニア』?」



 すると目の前に、ガチャガチャ機同様、どこからともなく『ラザニア』が現れた。

 しっかりとボリュームがある。ホカホカの湯気からは、香ばしいチーズと、食欲を誘うミートソースの香りがした。


 念願の味噌汁ではないが、シエルの反応は……



 「美味しそうだね!」



 至って前向きな反応だった。


 続いて、俺もガチャを引いた。

 カプセルは青色で、これまでの傾向からして、これは『ハズレ』。満足できないボリュームの単品が出てくると予想する。


 しかし、食べるのも苦しい『大ハズレ』よりはマシだ、とカプセルをカポっと開けた。

 


 「あっ……『味噌汁』」



 シエルの欲しがっていた物を、自分が当ててしまった。何となく恐る恐るシエルの方を見やると、羨ましそうに目を輝かせている。恨めしそうでなくて良かった。



 「いる?」

 「いる!」



 味噌汁の入ったお椀をシエルに差し出す。シエルも同じように、ラザニアが盛られたお皿を差し出した。



 「半分こ!」


 

 〇

 


 「「ごちそうさまでした!」」

 


 シエルは、当たり前のように食事終わりの挨拶をした。教えたことを率先的に行い、そして定着させている。無邪気な言動とは裏腹に、しっかり者だ。

 

 お腹の満足度としては腹六分目くらい。

 しかし何より、言うまでもなく、()()()の提案が嬉しかった。


 空になって役目を終えた食器は、瞬時に消えた。最初こそ驚いたが、その驚きも段々と薄れて、今では当たり前になっている。


 原っぱに寝っ転がると、シエルも真似するようにゴロンと寝っ転がった。青空を流れる雲を目で追っていると、徐々に眠気を誘われて欠伸が漏れる。俺のが移って、シエルも欠伸をした。


 ──こんな生活で、神様から罰を食らわないだろうか。

 


 「なあ、シエル」

 「なあに、シンヤ」

 「もしかしたら、当たり前のことかもしれないんだが、一つ聞かせてくれ」

 


 俺は空を眺めたまま、問い掛ける。

 


 「故郷に、帰りたいか?」



 俺に与えられた目的は『魔王討伐』。しかし、それは他者から与えられた目的で、まるで宿題と同じようなもの。


 やる気は未だ出ない。──『したい』と思える目的を持たなければ、人の脚は動かない。

 彼女が故郷に帰りたいと、そう言うのであれば、それが俺の目的だ。


 シエルは少し間を開けてから、口を開いた。



 「帰りたいよ」


 

 落ち着いた口調だった。言葉は重く、彼女を故郷から引き剥がした自分自身の心を、潰すように伸し掛る。



 「じゃあ!」

 「でもね」

 「──っ」



 なるべくいつもの調子で「じゃあ故郷を目指そう!」そう言うつもりだった。が、彼女の言葉がそれを遮り、身構えた俺は言葉を飲み込んだ。



 「帰っても誰もいないし、きっと何にも残ってないよ」

 「……え」



 思わず空からシエルの方へ目線を移すと、彼女も空を見上げていた。今まで見た彼女の表情で、最も明度の低い表情だった。無表情だ。


 そのまま数秒、ジッと見つめていると、それに気づいたのか彼女はこちらを向いた。俺の表情を見た彼女は、ハッと驚いた顔をした後に、

 


 「心配ご無用だよ!」



 と、アタフタしながら言う。


 久々にディープな話題だった為か、先程まで明るかった草原も、微妙に暗くなった気がする。いや、明らかに暗くなっている。


 違和感を感じて背後を振り向くと、空に赤黒い暗雲が立ち込めていた。



 「────」



 ただあんぐりと口を開けて驚く。


 何とかすぐに我に返り、良くないオーラを放つ暗雲から逃げる指示を出そうとした。ところがシエルは、徐々に空を覆う暗雲を前に、身体を微細に震わせながら目を見開いている。



 「逃げて」



 彼女が俺に放った言葉だ。



 「この雲が見えなくなるところまで、逃げて」

 「どうして!?」

 「ここがもうすぐ──戦場になっちゃう」

 

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