第六話『冒険者ギルド』
『小屋(木製)』と『棒切れスティくん』を回収するべく、一度墓地へと足を運ぶことにした。
「お、久しぶりだな兄ちゃんたち」
「あ、お久しぶりです!」
「久しぶりだね!」
門をくぐり抜けるとそこには、死霊術師に襲われたあの日、助けを呼んでくれた兵士の男がいた。互いに、陽気な調子の挨拶を交わす。
「おうよ。相変わらず元気そうで何よりだわ。ところで、どっか行くのか?」
「ちょっと墓地の方まで」
「そうか。気をつけてな。例の怪人もそうだが、ソイツがやらかした騒動のお陰で、今あの場所は魔術厳禁区域だ。微細な魔力行使でも感知されて、おっかねえ姉ちゃんが飛んでくる」
「「おっかねえ姉ちゃん?」」
『魔術厳禁区域』『魔力行使』など、ファンタジーらしい用語が登場したものの、意味を理解するのに難はない。死霊術師騒動を経ての対策、という主旨も理解できる。となれば、気になるのは『おっかねえ姉ちゃん』だ。
「なんつったらいいのかなあ。あの人を前にすると無理矢理に縮こめられちまう。怒った時のうちの女房と良い勝負だな」
要するに、よく分からないが『おっかねえ姉ちゃん』だと言うことだ。
「その姉ちゃんの連れも癖が強いからよ、出くわしたらまあ、上手くやれや」
「情報ありがとうございます」
「助かる!」
とはいえ、俺らはそもそも魔法が使えない。頭の隅に置きつつも、気負いせずに墓地へ向かった。
〇
「よーし」
小屋は、破損した部分をそのままにミニチュア化し、スティくんは、掘り刻んだ名前を頼りに見つけ出した。
「なんか、愛着湧くなあ」
「みんな様々だからね!」
「だな」
ボロボロになった小屋は、修理してこれからも使っていきたい。スティくんは、言ってしまえばただの棒切れだが、この町まで辿り着くことができたのは、確かに彼のお陰だ。
「さてと。ここらで、この先々で役に立って貰うことになるであろう我々の仲間達を確認しようかシエル」
「新入りだねシンヤ!」
入院中もコソコソと引き続けた、一日一回『アイテムガチャ』の当選品を『仲間』として振り返ることにした。頼りになる、ならないはさておき、中々に曲者揃い。
二人で肩を寄せ合い、アイテム欄を見つめた。
・ビリビリロシアンルーレット[はずれ]
・凹凸鏡筒[大当たり]
・懐中時計[当たり]
・ダガー[当たり]
・手持ち花火セット[当たり]
・ロープ[当たり]
・リュックサック[当たり(気持ち的には大当たり)]
・ゼンマイ式ゴキブリのおもちゃ×2[はずれ]
・魔復ポーション×2[大当たり]
・激苦ドリンク(500mlボトル)×2[大はずれ]
・熊の爪[当たり]
「うむ、中々に面白いやつらだ。これから存分に頼りにさせて貰おうぞ」
「貰おうゾ!」
俺は芝居掛かりながら、その場の雰囲気を盛り上げようとした。シエルも楽しそうに乗っかってくれたから大成功だ。
「それと……」
墓地の出入口に立ち、合掌する。──ここに眠る全ての者の、慰霊を願って。
〇
約一時間前に劇的な別れを告げた病院の隣に、冒険者ギルド【クレエ】はある。街全体で見れば、門を入ってすぐの所だ。
「いつでも挨拶に行ける距離だな」
「ご近所だね!」
既にギルドの中からは、ぼやけた喧騒が聞こえている。
「んじゃ、気合い入れていきますか!」
「出発進行だね!」
強く意気込んで扉を開けると、ドアに隔てられていた空間が、溢れ出すように飛び出して来た。
甲冑を着た大男、ローブを纏った魔法使いなど、ファンタジーを感じる装いの人々が大勢いる。各々が仲間と共に談笑している様子が伺えた。
ワクワクともドキドキとも取れる心臓の高鳴りを響かせながら、受付へ向かって歩く。
その道中、様々なクエストが貼られたクエストボートを見かけた。通り過ぎるつもりだったが、報酬額の桁外れたクエストが視界に入り、つい立ち止まる。
「『アースドラゴンの討伐』……って、報酬六億ゴールド!?」
「だ、大富豪だよ!」
ドラゴンが存在すること。そしてその首には六億の価値があること。俺もシエルも声を張り上げて驚いてしまった。しかし冷静に考えよう。
「超次元すぎて、俺達には関係なさそうだな」
早々に見切りをつけて、他のクエストに目を移す。
「『私の愛犬を探して』……報酬一万ゴールド」
「こーゆーのからだねシンヤ」
「うむ、そうだなシエル」
常識的なクエストがあることに安心し、踵を返して受付へ向かった。受付カウンターにはギャルっぽいお姉さんが複数人いる。『受付嬢』というやつだ。
「すみません、『冒険者登録』したいのですが」
「はいはーい、ご案内しまーす! 二名様でよろしいですか〜?」
「はい、大丈夫です」
「ではこちらへどうぞ〜!」
ギルド嬢は陽気に受け答えをすると、俺らを別の部屋に案内した。部屋には、その一室を埋め尽くす程の巨大な機械が設置されている。機械の中央には一人分の椅子が置かれていた。
「ではまず、この椅子に座っていただいて〜……あっ、どちら様から致します?」
二人で顔を見合わせた。シエルは巨大機械を前に目を輝かせている。
「シエルからでいい?」
「いいぞシエルからで」
「ではシエルさん、この椅子へ」
ソワソワしながら椅子に座るシエルの頭に、機械からぶら下がっているヘルメット状のギアが装着される。
「では登録を始めます。私が良いと言うまでは、そのヘルメットは絶対に外さないでくださいね! 脳に傷がつく可能性があるので」
「怖っ!」
「はい、本当に怖いので気をつけてくださいねー」
「合点承知!」
直前になっての恐ろしい説明に、つい恐怖が口から漏れ出てしまった。ギルド嬢はそれを軽く受け流し、シエルは任せろと言わんばかりの表情で理解を示す。
「では始めまーす」
巨大な機械に付いている幾つかのレバーの内、赤いレバーを拳で叩くようにして下ろす。ガコンッ、と衝撃音が鳴った直後、機械の歯車が回り始め、汽笛のような音が鳴り、天井を突き抜けた二本の真鍮製パイプが唸りを上げる。
──『スチームパンク』という言葉が頭に浮かんだ。
そのおどろおどろしさに男心が擽られ、ついニヤけてしまう。
十数秒ほど経つと、機械側面に付いている長方形の箱から、何かを書き記したカードが徐々に出てくる。さらに十秒ほどで、カードは受け皿に落ちた。
「まだ外さないでくださいねー」
と、機械の音に掻き消されないよう、少し声を張り上げてギルド嬢は言う。それからアッパーをするようにレバーを上げた。
徐々に機械の音は止み、歯車の回転も遅くなる。
「まだですよー」
さらに念を押してから数秒、トースターのベルに似た音が鳴った。
「はい、外してくださーい」
シエルはヘルメットギアを外して立ち上がる。
「それでは、このカードの説明をしますね〜」と、ギルド嬢は箱から出てきたカードを取り出して、その概要を説明する……はずだった。
「あれえ?」
ギルド嬢はカードを凝視しながら首を傾げる。
「どしたの〜?」
「それがですね、なんにも書かれてないんですよ」
シエルと俺は、ギルド嬢の両隣に並んでカードを覗き込んだ。あれだけ派手な演出をもって、完成したのが空白のカード。
機械の故障なのか、はたまた、この異世界のシステム的なエラーに彼女が引っかかってしまったのか。ガチャのカプセルから出てきた少女、というイレギュラー性を加味すれば、ありえなくもない気がしてしまう。
思えば俺は、彼女の出自を詳しく知らない。
「点検してもらったばかりなんだけどなあ」
機械をペシペシと軽く叩きながら、ギルド嬢は凹んだ声色で言う。
「すみません。安全を考慮して、本日は冒険者登録装置を運用休止させていただきます。お手数お掛けしますが、また後日来ていただければ」
「分かりました。また後日、お世話になります」
「お世話になりマス!」
そうして俺らは、巨大機械の部屋を後にした。ギルド嬢は「報連相しなきゃ〜」とため息混じりに呟いていた。
〇
「さて、どうしようかシエル」
「詰みだねシンヤ」
「そこまでではないぞシエル」
「じゃあヘッチャラだねシンヤ」
「そうだ、ヘッチャラだシエル」
ギルドのメインフロアには、机と椅子が多く並べられている。冒険者達は、そこで食事をしたり、仲間との交流を深めているようだ。
俺とシエルは空いている席に座り、今後の方針について話し合うことにしたが……
「あっ」
俺の腹の虫が鳴いた。
ちょうどお昼時。周りの冒険者らも昼食を摂っている。美味しそうな匂いが漂う中で、お腹が空かないはずがない。
「シエル、腹は減っているか」
「うん、実は減ってる」
「よし、なら悩む前に、まずは腹ごしらえだな」
「だね!」
「とはいえ、こんな所でガチャを引いたら脚光を浴びてしまう。門の外の草原でピクニックと洒落こみますかねシエルさん」
「『ピクニック』?」
「自然を楽しみながら食事をすることだよ」
「乙ってやつだね!」
「そうだ、乙ってやつだ」
俺たちは立ち上がり、ギルドを出た。
※
俺、『エドモン・オジェ』は、一家の父親兼、冒険者の町『エルネヴァ』の兵士だ。
墓荒らしの怪人騒動から十四日。
シンヤとシエルは無事に退院したようで、今日も門番をしていると、墓地に用事があるらしい二人が門をくぐった。
それから、墓地での用事を終えた彼らは、一時間もせずに、今しがた帰ってきた。
今度は冒険者ギルドに行くらしい。
門をくぐり抜け、彼らは再び町の中へと入っていった。
「若いですね、先輩」
「おう、ありがとよ」
「違いますよ。今の男女がです」
「そうか。そうだな」
後輩の兵士『エミール』が、シンヤとシエルを見て、その若々しさを称えた。しかし、五十歳の俺にとって、二十五歳のエミールも子供みたいなものだ。
「それでいったら、お前も十分若いだろーよ」
「でしたね」
「ま、俺も心はまだまだピチピチだ」
「……」
軽口を、慣れた様子で無視したエミール。二人は何事も無かったかのように、再び門番の仕事に徹していた。
「志ざっこ♡ もっと男らしい気概を見せないさいよ弱虫」
「はいはい気合い気合い。頑張るぞ〜」
「気持ちが籠ってないわよ。芯からヨワヨワね」
町の中から、シンヤとシエルではない男女が、門外へ出てきた。
「数分前の噂が今になって回収されやがった……」
数分前の噂。それは、シンヤとシエルに話した『おっかねえ姉ちゃん』の話だ。そう、この色気と幼気さの混じった喋り方をする姉ちゃんこそが、『おっかねえ姉ちゃん』だ。
「あら、久しぶりね門番さん♡」
「あ、ああ、久しぶりだな」
まただ。彼女に見つめられると、無理矢理に縮こめられてしまう。心臓の鼓動が極端に早まり、冷汗が溢れ出る不快感。
「さっさと終わらせて昼飯食おうぜ〜」
「生産性と消費量が見合ってないわよ穀潰し」
鶴の一声。彼女の連れの兄ちゃんが呼びかけることで、おっかねえ視線は逸れ、脈拍が正常に戻る。
「またね、二人の門番さん♡」
「「……っ!」」
別れ際に、彼女は再びこちらへ視線を向けた。全身がビクリと震え上がる。それから彼女は墓地の方へと歩いて行った。
「先輩」
「なんだ?」
「あの人たち、またこの町に帰って来ますよね?」
「そりゃな」
「怖いですね」
「まあ、怖いけど、悪い人達じゃないさ」
「それは、分かっているんですけど……」
彼らは約一ヶ月と半月ほど前に、この町にやってきた。
『おっかねえ姉ちゃん』の名前は『ベルナルディタ・ラフエンテ』。連れの兄ちゃんからは『ベル』と呼ばれている。
人形のような黒いドレスと黒いキャペリンハットを身に纏い、常に金属製の傘を持ち歩いている。髪色も黒で、艶やかな長髪だ。
眼球は美しくも不気味な紫色で、いつも微笑を浮かべている。
連れの兄ちゃんの名前は『トグサ・ヒナタ』。気怠げなタレ目に、金色の装飾が施された眼鏡が特徴的だ。話し方も気怠げで、その内容も気怠げ。
どこからともなく物を出現させる能力を持っているらしい。その点は、シンヤに関する噂にも共通している。
大好きな嫁さんと子供が、健気なシンヤとシエルが、恋しくなった父親兼兵士であった。




