第68話 応接側の扉はもう開いていた
近侍が命令を受け、詰所を出ていった。
扉が閉じても、書状を運んだ使者はその場に残された。
兵が左右につく。
使者は扉の方を見たが、そこへ向かうことはできなかった。
王は開かれた書状へ目を落とす。
「返答だけでは済ませない」
使者の喉が鳴った。
「報告元として名が出た。ベンデル卿には説明の場に立たせる」
記録官の筆が動く。
ベンデル卿の名の横に、報告元という言葉が添えられた。
使者はそれを見て、口を閉じた。
王は書状から目を上げ、夜間連絡路副管理官マイゼルを見た。
「マイゼル」
名前を呼ばれ、マイゼルが顔を上げる。
王は、机上の聖会の入宮控えを示した。
「ベンデル卿の名を聞いて、なぜ聖会の入宮控えを確かめた」
記録台のそばで、紙をめくる音が止まった。
マイゼルは少し遅れて答える。
「確認していただけです」
「ベンデル卿の名を聞いて、聖会の控えを確認した。理由があるのだな」
マイゼルの喉が動いた。
「オルディア聖会は、ソレイユにも出入りしています。貴族の名が出ること自体は、珍しくありません」
「施療奉仕で入った者が、なぜその名をここで出す」
マイゼルは返事をしなかった。
ゼクスが記録台へ寄り、聖会の入宮控えを見る。
「名が知られていることと、王宮内の手続きでその名が出ることは別です」
王が問う。
「どこで聞いた」
マイゼルは目を伏せた。
「……聖会の者が、名を出しました」
「何の話で」
「封印具の古い誓約についてです」
ゼクスが、入宮控えから顔を上げた。
カイリアの供述控えにも、同じ言葉が残っていた。
王家が封印具を独占したから歪んだ。
同じ言い分が、別の場所からも出てきた。
王が問う。
「その話に、なぜベンデル卿が出る」
マイゼルは答えない。
ゼクスが言う。
「封印具の話をしながら、ベンデル卿の名も出した」
マイゼルは否定しなかった。
王は近侍の一人へ目を向ける。
「その聖会の者を押さえろ」
近侍が動こうとした時、ゼクスが別の控えを取った。
「待ってください。入宮名目は施療奉仕です。記録上の行き先は治療区画になっています」
王が短く返す。
「治療区画を固めろ」
「それだけでは足りません」
ゼクスは控えの次の行を示した。
「治療区画へ向かう前に、応接側控え室の確認が入っています」
王の視線が鋭くなった。
「応接側?」
マイゼルの表情が固まる。
王はそれを見た。
「治療区画へ行く者が、なぜ応接側の控え室へ入る」
ゼクスが控えを読み直した。
「確認理由は、外部説明者を迎える場合の施療待機、とあります」
「外部説明者だと」
「はい。応接や聴取が長くなる場合に備え、施療担当を近くに置く必要がある、と」
私は聖会の入宮控えを見た。
「入宮名目は、治療区画での施療奉仕です」
次に、応接側の控えへ目を移す。
「施療奉仕なら、治療区画へ向かえば済みます。応接側控え室の確認は要りません」
王がマイゼルへ問う。
「誰が許可した」
マイゼルは言葉を選ぶように答えた。
「奉仕者の案内は、詰所側で一時的に引き受けました」
「なぜだ」
「治療区画が混み合っているとの連絡があり、控え室の確認を先に……」
「誰からの連絡だ」
そこで、マイゼルは言葉を止めた。
王は問いを重ねなかった。
沈黙の中で、使者が目を伏せる。
ゼクスが、さらに別の控えを取った。
「応接側控え室の開錠控えがあります」
王が見る。
「開けたのか」
「はい。聖会の入宮後です」
兵たちの顔つきが変わった。
ゼクスは二つの控えを並べた。
施療奉仕者の入宮控え。
応接側控え室の開錠控え。
治療区画へ向かうはずの者が、応接側の部屋を開けさせている。
私は書状の一文を見た。
宝物庫周辺の騒ぎについて、必要であれば後日、正式な説明の者を派遣する用意がある。
書状には、正式な説明の者を派遣する用意があると書かれている。
応接側の控えには、外部説明者への施療待機。
王宮が受け入れを決める前に、応接側の扉だけが開けられていた。
王はマイゼルへ視線を戻した。
「正式な奉仕で、応接側の扉は開かない」
マイゼルはようやく口を開く。
「私は、開けておりません」
「なら、誰に開けさせた」
マイゼルは答えない。
王が近侍へ向く。
「応接側を押さえろ。中にいる者を外へ出すな。控え室を開けた者、席を用意させた者、案内役、全員の名を残せ」
近侍が頭を下げ、兵へ合図を出す。
詰所の外で足音が走った。
マイゼルが口を開いた。
「施療奉仕の申請に不備はありませんでした。止める理由はありません」
王は即座に返した。
「治療区画へ向かう奉仕ならな」
マイゼルの視線が、応接側の控えへ落ちる。
その時、廊下の奥から別の兵が戻ってきた。
「応接側の控え室が開いています。説明者用の席まで出されています」
王が問う。
「誰の命令だ」
兵は一度、言葉を選んだ。
「説明の者が来ると聞いております」
王はマイゼルを見た。
「誰が来ると決めた」
マイゼルは答えなかった。
王は立ち上がった。
「応接側へ行く。席を用意させた者を押さえろ」
ゼクスがすぐに続く。
兵たちも動いた。
私は書状の最後の行を見た。
正式な説明の者を派遣する用意がある。
その者を迎える席は、王が許す前に用意されていた。
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