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第67話 報告元を言え

 兵が戻ったのは、王の命令から間もなくのことだった。


 詰所の扉が開き、ソレイユの書状を運んだ使者が連れて来られる。


 使者は部屋へ入るなり、記録台の上を見た。


 ソレイユの書状。

 聖会の入宮控え。

 細い金具。

 押されたばかりだった管理印。


 使者は記録台の前で足を止めた。


 王は使者を見た。


「名を」


 使者は姿勢を正した。


「ソレイユ王国より書状を運びました、伝令役の――」


「役目は聞いていない」


 王の声は荒くない。


 それでも、使者の言葉はそこで途切れた。


 王は書状を示した。


「その書状を、誰から預かった」


 使者は、机上の書状へ視線を移した。


「私は、書状を持って来ただけです」


 詰所の中で、兵たちの視線が使者へ集まる。


 マイゼルは記録台の端を見たまま、何も言わない。


 王は続けた。


「なら、報告元を言え」


 使者の口元がわずかに動いた。


「私は、中身を知りません」


「中身は聞いていません」


 私はそう返した。


 使者の目が、こちらへ向く。


 私は机上の書状を見た。


「その書状が、誰の報告をもとに出されたのかを聞いています」


 使者は答えなかった。


 ゼクスが書状を手に取る。


 封はすでに開かれている。

 文面も、王宮側で確認済みだ。


 ゼクスは余計な部分を読まなかった。

 必要な行だけを示す。


「国境付近の混乱については、追跡行為を現場判断の過失としています」


 使者は少しだけ息を吐いた。


 そこまでは、逃げ道として用意された文なのだろう。


 だが、ゼクスの指は次の行へ移った。


「そのあとに、宝物庫周辺の騒ぎについて、必要であれば後日、正式な説明の者を派遣する用意がある、とあります」


 使者の表情が固まった。


 王が問う。


「宝物庫周辺の騒ぎを、誰から聞いた」


「私は、書いた者ではありません」


「そこは問うていません」


 私は書状を見たまま返した。


「誰の報告をもとに、この文が書かれたのかを聞いています」


 使者は言葉を返せなかった。


 ゼクスが書状を記録台へ戻す。


「国境付近の混乱なら、ソレイユ側が書けるでしょう」


 彼は書状の該当箇所を指で押さえた。


「ですが、宝物庫周辺の騒ぎは、外から見える話ではありません」


 王が使者を見る。


「現場判断では済まない場所だ。誰から聞いた」


 使者は答えない。


 王は聖会の入宮控えを記録台へ寄せた。


「この名は、書状を預かる場でも出たか」


 使者はすぐには答えなかった。


「オルディア聖会は、ソレイユでも施療奉仕を行っています。名が出ること自体は、不自然ではありません」


「名が知られていることを問題にしていません」


 私は書状を見た。


「宝物庫周辺の騒ぎに触れた書状です。その受け渡しで、なぜ聖会の名が出たのですか」


 使者は袖口を握った。


 王が問う。


「誰が、その名を出した」


「私は……そこまでは」


 ゼクスが、もう一度書状の一文を示した。


「正式な説明の者を派遣する用意がある」


 使者は、その行を見ようとしなかった。


 王が使者へ問う。


「その説明を出すと言ったのは誰だ」


「私は、そこまでは……」


 私は使者を見た。


「説明役の名までは知らないかもしれません」


 使者が、ほんのわずかに息を吸う。


 だが、そこで終わらせない。


「ですが、誰の報告として扱うよう言われたかは、聞いているはずです」


 使者の口が閉じた。


 王は短く告げる。


「報告元を言え」


 使者は書状を見た。

 次に、聖会の入宮控えを見る。


 そこで視線が止まった。


 記録官のペンだけが、かすかに動いている。


 使者は、ようやく口を開いた。


「……その件は」


 声がかすれた。


「ベンデル卿の報告として、扱うようにと」


 言い終える前に、自分の言葉に気づいたのだろう。


 使者の口が止まった。


 記録官のペンも、そこで止まる。


 マイゼルは、机上の控えを見たまま動かなかった。

 王の視線が、一瞬だけマイゼルへ動く。


 ゼクスが顔を上げた。


「今、報告元を言いました」


 王は使者を見た。


「ようやく名が出たな」


 記録官のペンが走る。


 ベンデル卿。


 使者が慌てて息を吸った。


「いえ、私は、その名を――」


「消すな」


 王の一言で、使者の声が止まる。


「今の名を残せ」


 記録官は、書き終えた名の横に確認の印を入れた。


 王は書状を見た。


「この書状には、正式な説明の者を派遣する用意があると書かれている」


 近侍が顔を上げる。


 王は続けた。


「ならば、その説明を求める」


 詰所の中で、誰も声を出さなかった。


 王はソレイユの書状を記録台へ戻した。


「ソレイユへ使者を出せ」


 近侍が頭を下げる。


「国境付近の混乱、追跡行為、宝物庫周辺の騒ぎ。その三つについて、正式な説明を求める」


 王は書状を指した。


「説明の者を出すと書いたのは向こうだ」


 使者は書状から目を逸らした。


 王は言う。


「報告元として名が出たベンデル卿に説明させろ」


 近侍がもう一度、深く頭を下げた。


 王は続ける。


「返答だけでは済ませない。説明に立つ者を名で出させろ」


 ゼクスが、早馬経路の控えを記録官へ渡した。


「受け取った者、開いた者、運んだ者は揃っています。空いていたのは、報告元だけです」


 記録官が頷き、控えを受け取る。


 王は最後に門の方角へ目を向けた。


「門の記録も出せ。誰を止め、誰を入れたか、一つも落とすな」


 近侍が走る。


 使者は、もう書状を見ていなかった。


 記録台の上では、ベンデル卿の名に確認の印が入っている。


 王はその名を見たまま言った。


「次は、本人に答えさせる」

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『短編版』婚約破棄で聖女契約が切れました。――この国は“5分後に”崩壊が始まります。
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