92話 香ばしい
エレノアちゃん達に遅れる事30分程でエーリッヒも起きてきた。
「交代して良いってか?」
「そう言ってた」
「んじゃ、撤収準備も済ませとくか」
エレノアちゃん達もテントを撤去していつでも出発出来る状態になった。
ただ、テーブルと椅子だけは出したままだ。地面に直に座るのも微妙だし。
「いやぁ、ミトに言われたが気が急いて無理させ過ぎたな。すまん」
と、エーリッヒが頭を下げている。
教えている相手に自分の非を認めて頭を下げられるっていうのは凄い事だ。
日本に居た時のクソ上司にエーリッヒの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。もう寧ろエーリッヒの身体の垢もそのまま食わせてやりたい。大量に。
2回のアタックで先遣隊としての役目を終えたので後は帰るだけだ。
家に帰るまでがダンジョン攻略とは言わないがまだまだ気を抜くとゴタゴタに巻き込まれる可能性はあるのでなるべく大人しくしているようにと自分に言い聞かせる。
騎士様達が広場に入ってきて、エーリッヒが引き継ぎを行い俺達の仕事は一応終わった。
一応というのは有事の際に備えてダンジョンの外で待機はしないといけないらしい。学術調査兼学生達の現地実習が終わるまで・・・。
とはいえ、そんな問題が早々起こるはずも無いので帰りはもう完全に気が抜けてる。
エレノアちゃん達の会話が聞こえてきたが。
騎士達は何もしてない。何をしに来てるのか意味が分からない。もっと働け。
等と中々に辛辣だった。
でも、考えてみて欲しい。
彼らの仕事は荒くれの冒険者と学者や生徒達が接触しないよう隔離する事。
そして、彼らは貴族や貴族に準ずる騎士爵だったりとこの世界において絶対的な権力を有しているはずが俺達に対して高圧的に接する事はない。
それは軋轢を産まない為に必死に我慢しているのだろうと思う。
最初から俺達の監視をする為に随伴していた騎士様は俺からサンドイッチを受け取り去っていった。
その後、こちらに来なかったので休憩に入ったのだろうと思ったが。その後、また戻って来ていたので彼のデスマーチはまだまだ続いているはずだ。
クライアントの安全を守り、ご機嫌伺いを絶やさず。下請け業者にも気を使い不眠不休で働き続ける中間業者の更にしがらみに塗れた中間管理職といった所だろうか。
子供達にはまだ分からないかな。
うん。でも、エレノアちゃん達はそんな事を知らないままスクスクと育って欲しい。
「やっと外だ」
エレノアちゃんの誰かが呟いた。
ダンジョンの中でも飲み食いに不自由はしないし光量はそこまでじゃないにしてもランプがある。
太陽を見れないというのは多少鬱屈とした気持ちになる時もあるかもしれないが雨に降られる事も無いのでそこまで悪いものではない。
ただ、1つだけ厄介な事があった。
これは1人で放り込まれた時には気付かなかった事だが・・・トイレ問題。
人の目があるので好きには出来無い。
音や臭い、それに出した物を見られたくないので皆から離れたい。
でも、離れ過ぎると危ないので離れられないというジレンマ。
これがパーティーで潜るダンジョンの1番厄介だと思った事だが。
おっさんでもそう思うんだから年頃の女の子達ならばもっとキツかっただろうと思う。
あぁ、風呂に入れないというのもキツそうだ。
俺はクリーンと唱えるだけで1発で身体は綺麗になるし。服や靴なんかもアイテムボックスに入れて汚れを分離してしまえば臭いも汚れも完全に落ちる。
エレノアちゃん達は気にして濡らした布で身体を拭っていたようだがそれだけではやっぱり落ちきらないようで色々と気にしていた。
そして、エーリッヒは普通に香ばしい臭いをまとっている。
「これからどうするんだ?」
「何も無いとは思うが待機だな」
「テントはどうする?」
「一応、お前もちっさい方にしとけ」
「おけ」
「タープは出しといてくれるか?」
「おう」
ダンジョン入口付近は常に誰かしらが居るし1番近い開けた場所には学者様達の拠点があって近付いてはいけない。
なので、少し離れた場所で何とか平らな場所を探して設営をする。
ちなみに冒険者達の共同の拠点も常に人が多くて落ち着かないので避けている。
俺のアイテムボックスを隠す為とエレノアちゃん達が絡まれない為でもあったりする。
まずこの依頼をされた冒険者な時点で素行不良な冒険者は弾かれている。その上で協調性が無いやつも排除されている。
なので問題を起こすやつは早々居ないはずではあるが、こうも待ち時間が長く暇を持て余すと何かをしでかすバカが出てもおかしくはない。
それはさておき。
エーリッヒにお湯を入れた桶とボロ布を渡しておいた。
それを見ていたエレノアちゃん達が羨ましそうに見ていたのでついでにと渡しておいた。
食事の為ならまだしも、身体を拭う為だけにお湯を沸かすのは流石に手間が勝ち過ぎるので。




