↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/30

第21話 4-3


「リリアン、どうしたのかな? ノックをする暇もないほど慌てて。何か困ったことでもあったのかな?」


「ラルト様……! ここにいたなんて。どうしよう、気まずいよう……。ううん、今はそれどころじゃない、しっかりするのよリリアン!


 ええと、実は私じゃなくてディーゴ君が病気みたいなんです。ほら、ディーゴ君、こっちに来て。ラルト様なら助けてくれるかもしれないわ。相談しましょうよ」


 ディーゴが病気だと聞いて、私はこっそりシーツの端から覗いた。深化してはいたけれど、病気になってはいなかったはず。


「いいんだよ、これは病気じゃないから。殿下の迷惑になるだろ」


 ディーゴは文句を言いながらも、リリアンに抵抗できないのか引きずられて部屋に入ってきた。私はそのディーゴの姿を見て衝撃を受けた。


「室内なのに随分と厚着をしているみたいだね、ディーゴ」


 王太子の言う通り、ディーゴは厚着をしていた。首にはマフラー、腕には手袋。そしてその理由は容易に想像がついた。深化だ。深化が進んで鱗が全身を覆っているのだろう。


 ディーゴは王太子の姿を見つけると、渋い顔をした。あ、これは前回の出来事を知っている顔だわ。


「ラルト様、ディーゴが大変なんです。皮膚が硬くなって鱗みたいになっちゃって。痛いみたいだから治してあげようと、光魔法を使ってみたんですけど上手くいかなくて……。どうしたらいいですか?」


「それは大変だね。こちらに来て見せてくれないか。ひょっとしたら、何か役に立てるかもしれない」


 原因を知っているくせに白々しく王太子が言った。貴方のせいでしょ! と毒づきたくなったけれど、静かにしていた。


 ディーゴは、大人しく王太子の前に近づき、手袋を脱いで包帯を取って見せた。包帯の下には、予想通り鱗がびっしりと生えていた。


「いつからこうなったの?」


「今朝からです」


「そう」


 注意深く王太子は観察していた。有難(ありがた)いことに、ディーゴの腕には触れないでくれていた。気を遣っているのかもしれない。王太子がディーゴに触れれば、深化が進むことは前回のループで実証済みだからだ。


「どうですか?ディーゴの病気は治りますか?」


 リリアンが心配そうに尋ねる。無垢で善良なリリアンはディーゴの鱗のことを病気だと思っているみたいだった。実際には、一族の特異体質なのだけど。それを知っている王太子はどう答えるのかしら。


「これは難しいね。確か昔、古い文献で似たような症状を読んだことがあるよ」


「本当ですか?!」


「うん、間違いない。皮膚が鱗に変化していく難病だ。マティウス家の領地で500年ほど前に何件か報告があったはず」


「治りますか?」


「どうだろう。完治した記録はないんだ。ただ、もしかしたら神殿は別の記録を保管しているかもしれない。リュシアンに尋ねてみたらどうかな」


「そうなんですか。リュシアン君かぁ。ありがとうございます、ラルト様。リュシアン君とは話した事ないけど、聞いてみます」


「リリアン、気にするな。俺のはただの体質だから、放っておいていいんだ。

 それより、殿下に確認したいことがあります」


「何かな?」


「さっき、クティアーナ嬢の姿を見かけたんです。彼女に何かしましたか?」


 私は焦った。ディーゴに姿を見られていたなんて! 流石は筋肉に能力を全振りしているディーゴだわ。鍛えられた動体視力の前には見逃されなかったのね。でもね、ディーゴは知らないだろうけど、今はリリアンと顔を合わせたくないの。友達になろうと言った口で王太子と口を重ねた私は、明らかに裏切り者よ。昔の少女漫画でいう、友達のフリをして近づき、姑息な手段でヒーローを奪う悪役キャラよ。リリアンを傷つけた最低な人間で印象最悪なの。私はシーツの隙間から王太子に合図を送った。お願いだから、今は黙ってて!


 通じたのか、王太子は私に向かって頷いた。その笑顔が妙に生き生きとしていたのが気になるけど、この場を凌げるならそれでいいわ。


「見間違いじゃないかな? クティアーナは確かに先程までここにいたけれど、部屋に戻ったはずだから」


「彼女に何をしたんです? クティアーナ嬢をどこに隠したのですか?」


 ディーゴは静かに怒っていた。あんなに怒っているディーゴ、見た事ないかもしれない。でも、心配するのは無理はないわ。前回のことを覚えているなら、私が王太子に恐ろしい目に遭わされていると思うもの。たぶん、ディーゴも私が前回のループで心臓を握りつぶされたのを見たのではないかしら? そのことをディーゴのおじい様から聞かされているのかも。それなら、王太子のことを警戒するのも無理はない。無理はないのだけど、今だけは放っておいてほしかった……。


「いやだな、そんなに怒らないでよ。

 ここでは言えないけれど――ただ、婚約者らしく2人で仲良くしていただけなのだから」


「で、殿下?」


 ディーゴは戸惑った。私も戸惑う。王太子は何を言っているの?婚約者らしいことって、なに?


「もうすぐ結婚だからね」


 王太子はそう言うと、意味ありげにベッドに視線を落とした。ベッドは私が焦って潜り込んだせいで乱れている。シーツの隙間から王太子と目が合う。ニヤリと笑っていた。この(邪神)、許さないわ! 私に不名誉な噂を立てるなんてっ!


「そ、そうでしたか。失礼しました」


 ディーゴは何かを察して潔く謝った。何でこんな時ばかり敏いのよ!気を遣ったリリアンが行こうよ、と促すと二人して出ていった。


「もう二人とも去ったよ。隠れる必要はないだろう?」


「ひどいですわ、殿下」


 私はムクリと起き上がり、王太子を睨みつけた。


「どうしたんだ? せっかく君の希望通り誤魔化してあげたのに、お礼もないのかな?」


「何がお礼ですか! あんな嘘をつくなんて酷いですわ。私、もう、外を歩けません」


「嘘はついていないよ」


「確かに嘘は仰っていません。でも、だからって誤解されるようなことを言うなんて……! 明日からどんな顔して生きていけばいいんですか?」


「今まで通りでいいと思うがね」


「ああ、人の心も知らない邪神なんかに頼った私が愚かでした……。私は王家に次ぐ権威あるサヴィア公爵家の令嬢で、王家に嫁ぐべく掌中(しょうちゅう)(たま)のように育てられた最高の淑女なのに」


「自分で言うんだ?」


「なのに、婚前交渉を行ったと噂されたら、今までの評判もお終いですわ!」


「でも、君は婚約破棄されるつもりでいたよね?」


「な、なんでそれを?」


「知っているよ、君のことなら前世のことでも」


「前世のことまで!?」


 振り返ってみれば、王太子は繰り返し地球の文明を例えに使ってきた。暇つぶしのプチプチクッションから、古代エジプト文明まで。それにさっきは日本のことわざを持ち出した。ここまで言われればいい加減に気が付く。王太子は私の前世が地球の日本生まれであることを知っているに違いなかった。


「そういえば、言っていなかったね。私がどうしてこの宇宙に来たのか、その理由を」


 王太子が頑固にカールした私の赤い髪を一房とり、強く引っ張ってまっすぐに伸ばした。艶々と赤金色に輝く私の髪をいたずらに弄んでいた。いつのまにか後ろから抱きかかえられて、いつでも命が刈り取られる無防備な格好になっても、何か恐ろしい真実を告げられそうで私は身動きできずにいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。