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ハズレ奇術師の英雄譚  作者: 雨宮和希
第五章 悲劇に咲く一輪の花よ

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第20話 「道具の使い方」

 神谷士道は険しい表情を浮かべて膝をついていた。戦闘の衝撃に耐え切れず、頭上から落ちてきた瓦礫を腕で払いのける。鈍痛が軋む体に響いた。

 すでに光源はない。地面の崩落により埋め尽くされた地下空間。暗闇の中で、それでも音や気配から、 瓦礫の合間を縫うように広がる空洞を移動し、松山を探して士道は駆ける。

 しかし見当たらない。

 士道と戦闘中だったはずの松山だが、数十秒前からその気配は消えていた。


「……、マズいな。外に逃げられたか?」


 士道は呟く。となると、士道も早く脱出しなければならない。精霊であるフィアたちが追いつかれるということは流石にないだろうが、放っておけばいずれ『異界同盟』を引き連れて再び捕まえにいくだろう。そうしてまた、彼女らを苦しめる計画を再開するのだ。そんな未来を、士道は絶対に許しはしない。 あの男は、ここで止める。

 士道はレベルオーバーに至っている身体能力と『瞬間移動』を駆使しつつ、狭い空洞をこじ開けて地下空間を昇っていく。やがて大きな岩盤どうしに囲まれ、体育館程度の大きな隙間ができている空洞に辿り着いた。そろそろ地上も近いのだろう。

 細々とした隙間からは僅かな光が差し込んでいる。――そこで、気配がした。


「……なっ」


 絶句。士道は目を瞠った。なぜなら 円形をしているタイヤのような物体が、高速回転しながら肉薄してきたからだ。ギャギャギャ!! と岩盤を削るような音を鳴らし、士道の眼前へと押し寄せる。咄嗟に跳躍して回避した。眼下をタイヤが通り過ぎていく。

 よく見るとそのタイヤの接地面はゴツゴツとしていて、鋭く尖っていた。あんなものを受ければ、士道の肉体は魔導服もろともボロボロに引き裂かれるだろう。

 やがて通り過ぎたタイヤは急カーブを曲がるように方向転換。士道に向けて再び突進してくる。

 ――そして、そのタイヤはひとつだけではなかった。背後からギャルル!! と爆音を鳴らして二つ目のタイヤが迫り来る。一つ目に気を取られていた士道は反応ができない。一つ目がすでに爆音を発しているので、音の聞き分けをし辛いのだ。

 ――不覚だ。『瞬間移動』を行使。とはいえ、ここは薄暗い地下の空洞。下手に遠くへ転移しようとすると生き埋めになるかもしれない。ゆえに、現在地より数メートル先に空間跳躍。そして出現した。一瞬前まで士道がいた場所をタイヤのような殺戮兵器が駆け抜けていく。注意深く耳を澄ますと、三つ、いや四つ目の音まで聞こえた。

 ――マズいな、と士道は思考を回す。十中八九、松山が開発した兵器の一種だろう。そのうちの大半は魔導兵部隊のように、魔王軍に対抗するために運用されていると思っていたが、ここにもまだ隠されていたのか。

 すでに固有スキルは何度か使用してしまっている。残存魔力は三割強。これ以上は慎重に使わなければ命取りとなる。相手は現代きっての天才科学者、松山鬼一だ。

 何をしでかすか、何を生み出してくるか、何を考えているのか、まったく分からない。仮に予想したところで簡単に上回ってくるだろう。士道は剣で兵器タイヤを受け流しつつ、周囲の警戒を強める。確かに面倒だが、こんなものでは士道は殺せない。その程度の分析は当然、松山ならしているだろう。――ならば、 次の一手はどう仕掛けるのだ。

 そう考えていた直後。

 ゴバッッッ!! という凄まじい轟音が、地下空洞で乱反射した。

 薄暗い暗闇でよく見えない中、何かが士道の肉体を横殴りに急襲してきた。激痛が脳内を埋め尽くす。

 士道は「があっ……!?」といううめき声を漏らした。その体に叩きつけられたには、数千もの礫のようなものだった。その小さな物体が、士道ですら反応できないほど高速で殴りつけてきたのだ。たまらずよろめく。そこへタイヤ兵器が迫ってきたので、転がりながら剣で受け流していく。ギャリリ!! と擦過するも、士道は強引に吹き飛ばした。



「く、そ……!?」


 士道はぐるりと転がって立ち上がる。不意打ちで、その攻撃を目で見ることもできなかったが、予想だけはついていた。――マシンガンだ。すなわち、銃。この文明レベルが低いこの異世界でどのように造り出したのか、まったく想像もつかない。だが、敵は松山鬼一だ。そんな畏怖を感じている場合ではない。士道は闇の中で目を凝らした。タイヤ兵器のせいで聴覚は頼りにならないが、視覚はまだ通用する。

 ――来る。

 士道は跳躍した。轟!! と、機関銃の掃射の如く、岩盤が蜂の巣にされていく。

 これは銃による攻撃だという予想は的中していた。分かった理由は『鑑定』。

 この掃射に使われているのは、鉛弾だった。士道はその発生源に向けて、大友慎也から受け継いだそれ――拳銃を引き抜いた。銃を扱えるのは松山だけではない。

 松山の銃はこの最先端技術都市アルスフォードで研究し、魔法技術も取り入れつつ、武器として開発したもの。だから厳密に言えば銃ではないのかもしれない。

 だが、自衛官である大友から引き継いだ士道の拳銃は本物の地球産だった。躊躇わずに引き金を引く。そこから放たれるのは松山のような鉛弾ではない。

 魔力による、鋭く、青白い光線だった。固有スキル『魔銃』。大友から受け継いだ遠距離攻撃用のスキルが真価を見せる。やがて光線が地下空間を貫き、爆発音が響いた。

 それまで跳躍していた士道は着地した瞬間、膝を曲げ、銃撃の方向に突貫していく。


「――見つけたぞ」


 士道は笑う。軽機関銃のようなものが、破壊された状態で地面に打ち捨てられていた。

 その先に、松山鬼一が立っている。「ふむ」と彼は淡々と言った。

 だが、松山の片眼鏡の奥からは、ギラリとした刃物の如く鋭い眼光を見せていた。


「結局ワタシたち転移者にとっては、どんな兵器を生み出すよりも、自分のスキルで戦ったほうが強いんデスよねぇ……。量産兵器は、その戦力を高めて均一化することに価値があるとはいえ、哀しいものデス」


 そう言いながら、ゆらりと掌を士道に向ける。

 『衝撃』――が放たれる刹那を見計らって士道は『瞬間移動』。松山の背後に出現。だが彼はそれを見越していたかのように前方へと跳躍した。躊躇いなく振り抜かれた士道の剣は辛うじて届かない。即座に拳銃に持ち替え、『魔銃』を放った。松山は振り向きざま、『衝撃』で光線を逸らしていく。僅かに宙を浮いていた士道は着地。

 直後――嫌な予感が警鐘を鳴らした。松山がさらに遠く離れていく。後退しながら、松山はひどく酷薄な笑みを口元に刻んだ。士道は本能に従って跳躍。


「ただ――やはり、道具というモノは使い方次第。頭を使って戦うことが大切デス」


 その言葉の直後の出来事だった。

 士道が一瞬前まで立っていた地面が膨張し、炎が姿を見せ、吹き飛んでいく。端的に言えば爆発だった。すなわち地雷。それもおそろしい量、または性能だった。周囲一帯がまとめて膨張し、爆発の予兆を見せる。士道はあまりの危機感に、一秒が引き伸ばされたような世界に飛び込んだ錯覚に陥っていた。

 戦慄で身が竦む。

もともと地雷を地面に埋めて置き、そのうえで士道をこの場に導いた。ここまでの戦闘を計算していたというのか。だが、考えている場合ではない。跳躍しただけではかわしきれないと判断した士道は、そろそろ限界に近付いている魔力を駆使して、『瞬間移動』を行使して逃れようとする――その直前。

 ドッッッ!! と、脇腹に激痛が走った。そちらを覗けば、すでに姿がほとんど見えなくなるほどに遠くまで離れていた松山が、ライフルのようなものを手に笑っている。――道具というモノは使い方次第。松山の言葉が脳裏で再び過ぎる。なぜなら、士道の『瞬間移動』の行使が、突然の激痛により、中断されてしまったからだ。

 すなわち。


「チェックメイト――デス」


 士道は巻き込まれれば怪我では済まないだろう圧倒的な爆発に、そのまま呑まれていくことしかできなかった。そうして――地下空間、『異界同盟』の本拠たる地下研究所は、完全に崩落した。



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