Epilogue 「終結、また新たな始まり」
「…………体が、動かない」
神谷士道が瞼を開けると、目の前に広がるのは雲ひとつない晴空だった。
「あ、起きた?」
鈴の音のような澄んだ声音が耳に心地良く響く。
士道の視界に綺麗な黒髪が映った。その方向に顔を向けようとするが、ズキリと痛みが駆け巡る。
「駄目だよ、無理に動かないで。山城があれだけの魔力を練ってから撒き散らした呪詛に、自分から足を踏み入れるなんて自殺行為したんだから。ちょっと動くだけでも体が痛むはずだよ」
ひょこりと視界に映ったのは、憂いのない笑顔を浮かべた浅場優花だ。どうやら士道に継続して治癒をかけているらしい。体が淡い光に包まれている。
「でも、もうしばらく治癒をかけ続けたら、動けるぐらいにはなると思う。戦いとか、無理な動きはもちろん駄目だけどね」
「……そうか。レーナ達は?」
「近くで寝てるよ。『病魔』は山城が意識を失った時点で治ったけど、高熱の中で無理に動いたときに失った体力まで戻せるわけじゃないしね」
「なら、良かった」
「あなたのほうがずっと重傷なんだから、大人しく治療受けてね?」
優花は心配そうに告げる。
士道が「いや、何とか動けなくもないし――」と言いかけたところ、
「治療、受けて、ね?」
「お、おぉ……」
笑顔の威圧があった。
思わず士道も頷いてしまう。
「……ありがとね」
頬を染めて、顔を背けながら優花が言う。
「あなたが、みんなを助けてくれた。それだけが私の望みだった。私が止められなかった山城京夜を止めてくれた。だから、あなたは私の恩人」
滔々と語る。
士道は素直に聞いていた。
「……だから、ありがと。お金とかあんまり持ってないし、感謝するぐらいしかできることないんだけど……」
ちら、と。優花が恥ずかしそうに士道の瞳を一瞥して、また顔を背けた。
「……それとも、体で払う……とか、でも、いいけど」
「え?」
士道は驚きのあまり固まっていた。何を言い出すのかと思えば、その発想はなかった。優花は可愛い。体もそれなりに豊かな曲線を描いているので、不満などあるはずもない。
ただ交換条件のように女の身体を奪うのは好きではない。相手を惚れさせてからでないと、士道はそういうことをする気にはなれない。
よって本気でやるつもりもないが、優花の反応が面白いので士道はからかう。
「いいんだな?」
「……え、いや、だからその、士道くんが望むなら、そうするけど、私、胸とか別に大きくないから、あんまり期待しない……でね?」
体を両腕で抱き、上目遣いで優花は小さく呟く。
士道はニヤニヤしながら、ゆっくりと傷まない程度に右腕を上げて優花の頬に手を添えた。「あ……」と、優花の頬が真っ赤になる。
そんなタイミングで、
「シドーさん? 起きてそうそう何をやってるんですか?」
「うわぁ……なんていうかシドーって、わりと外道だよね」
「あはは……」
女三人の声が近くから聞こえた。
冷や汗が頬を滴る。
「………………聖女さま? あいつらは寝てるんじゃなかったのかな?」
「……いつの間にか、起きてたみたいですねー」
優花は目を逸らす。
なぜ不倫の現場が発覚したみたいな空気に晒されなければならないのか。士道は何となく納得がいかなかったが、体も動かないので離脱手段もなかった。
「……ま、ところで、山城の奴は?」
「あからさまに話そらしましたね」
「ま、まぁまぁレーナちゃん。えっと、王城の地下に拘留されてるよ。意識を失ってスキルシステムが無効化されて、あれだけ溜め込んだ魔力もなくなったし、魔力を練れなくなる手錠と足枷をつけられてるから、逃げられることはないんじゃないかな」
「……そうか。殺さなくて、よかったのか?」
「聞きたいことも多いみたい。魔王軍と一緒に攻めてきたわけだし」
「……あれだけ世界の人間を苦しめたのですから、どのみち始末されるのですよ」
士道と優花の会話に、静かな調子でミレーユが口を挟む。当然の帰結だろう。それは認めるしかない。士道は国の決定に逆らうつもりはないし、犯した罪はきちんと裁かれるべきだとも思っている。
あれだけ純粋に争いのない世界を願った人間を失いたくない――というのは、ただの士道の我が儘だ。
「……それで、山城のことなんだけど、草薙さんっていう方から伝えたいことがあるそうで……」
「――草薙さんが?」
不安そうに言う優花に、士道は目を細めた。
♢
王都へ着いた援軍が、戦いに間に合わなかったことを悔やみつつも復興作業を精力的に進めている。
主に山城の"地震"が壊滅的な被害を与えていたが、すでに避難民は仮設テントに収容されている。
人々は活気を持って、廃墟と成り果てた場所を再び王都に戻そうと取り組み始めていた。
おそらくは周辺の都市でも、被害は王都ほどではないにしろ似たような光景が繰り広げられているだろう。
その小さなテントの一角で。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」
「我慢してくださいよ。無茶な戦い方してたのは自分じゃないですか」
草薙はララの治療から逃げようと暴れていた。
ララが治癒を強くかけているのだが、強くかけると早く治る分、痛い。
「くっそー……。山城の奴、めんどくせぇ戦いやらせてくれたな。ちくしょうめ」
うつ伏せになりながら悪態をつく。
「どうせ民衆は殺せないだろっていうクサナギさんの心理を見抜いてましたね?」
「うっせ。もうそういうのは嫌なんだよ。……そのせいで追い詰められてたんだとしてもな」
「あはは」
「……自分でも多少は傷を負わせてでも強引に無力化するべきだと分かってたんだけどな」
「……いいじゃないですか、そういうとこ、わたしは好きですよ?」
「えっ」
「な、なんですか? 二度は言わないですからね」
「ララ……」
「や、やめてくださいよ。急にそんな真剣な顔して。ちょっと惚れ直すとかやっぱり好きだなぁとかそんなこと全然考えてないのでやめてください」
「……」
「……?」
「……ぐぅ」
「寝てるんですか、このタイミングで!?」
ララは思わず叫ぶが、こういう人だったと思い返す。
ため息を吐きながら、傷が痛んで起きないように、弱く優しく治癒をかける。
目の前にはあどけなさの残る青年の顔があった。
ボサボサの髪を整えるように、ララはそっと細い指先を添える。
「……はぁ。まったく、もう」
♢
王都から主要都市に繋がっている幾つかの街道。そのうち一つの道を足早に歩く者がいた。
純白のローブに身を包んだ葉山集は、体の要所をほぐしながら足を進める。
面倒臭い騒ぎになってしまった。国のゴタゴタに巻き込まれるのは嫌なので、さっさと逃げてきたのだ。
そもそも集の目的は単に、『真実の四使徒』の一人である優花が裏切っているかもしれないという話を受け、それを確かめに来ただけだ。
それがいつの間にか世界の変革にも関わる事態にまで発展してしまったが。
「……フン、聖女は無事で、裏切ったわけでもなかった。これで構わないんだろう?」
「ああ」
反応したのは天使族の青年だ。周囲に人がいないことを確認しながら、下に降りてくる。
「……なぜ『天軍』は動かなかった?」
「さあね。女神様の指示だよ。まあ俺たちには測り知れない深い考えがあるんだろう」
「……まあ、そうか」
「それより、なんか面白い話があるよ。魔王側にしてやられてばっかりだし、天使長が人間の不甲斐なさにイライラしてるのか知らないけど、言い出したんだよ」
「何を? 前置きが長いぞ」
「――勇者会議を開くんだと。要は一国の核である勇者を集めて、魔王軍を討ち倒す方策を伝えてやるとか、士気を上げてやるとか、熱く語ってたぞ」
「イリアスね……フン、勇者を一箇所に集めたりすれば魔王側に狙われるだろう」
「それは予期しているから備えられるしな。ていうか元々『四強』が首脳陣で密かに対魔王軍の会合を開こうとしていたみたいだから、そこにねじこんだらしい」
「ほう……なるほど、そういう事情か」
集は得心したように頷く。
こうなると、自分への指示も想像がつく。
「その勇者会議とやらは場所がバレれば、確実に魔王軍に狙われる。その防衛戦力に加わるべきか」
「ま、そう言われるだろうな。もちろん"聖女"の方も現地で治療役はさせると思う」
「……。それで、場所と日時は?」
「ちょうど一ヶ月半後。レーノ共和国にある世界最先端の技術力を誇るところ。魔導都市アルスフォードっていうらしいぜ」
♢
ハインケル・ミラーリン――国王は、いまだ人手不足の現場で、自ら現場に立って復興の指示をしていた。
「完全に機能回復するまで……数年はかかるでしょう」
専門家の話を聞きながら、別の主要都市を一時的に首都とする準備を進めていく。
この一件で家を失ってしまった者も十分な補償と共に、他の都市で収容してやらなければならない。
魔王軍に関する情報も他の大国と共有し、いまだに実態が把握されていない山城の人形が攻め込んだ件についても当然、説明が求められている。
それでもハインケルは何とか休む時間を見つけると、足早にその場所へ赴いた。
「……ヤマト」
先客がいた。
名前を呼ばれた中肉中背の少年は、国王を相手に振り向きもしない。
だが、ハインケルはそれを咎めなかった。
咎められるような立場でもなかった。都市の防衛にアイリスの『未来視』を頼っていたのは自分だからだ。だから未来が見える彼女は自らの責任に追い詰められ、戦場に出て――敵に殺された。
綺麗な四角に切り揃えられた石碑に、十字架に似たミラ教会の紋様が刻まれている。
"アイリス・ミラーリン、ここに眠る"
簡素な一文。淡々とした言葉の綴り。そこにはこれ以上ないほどの重みがあった。
「……王様」
「…………何だ?」
眩い朝焼けが振り向く少年と重なる。
華奢な体つきに端正な美貌は影になり、シルエットでしか確認できない――が、その瞳だけは透き通っていた。深海の如く。どこまでも。異様なほどに。
「ぼくはこの世界が憎い」
淡々とした、感情が読めない口調で言う。
「アイリスがいない世界なんていらない」
「……そう、か」
ハインケルは知っていた。
アイリスと大和が両思いであったこと。女神に選ばれし勇者となら結ばれても良い、それどころか、喜ばしいことだと、心から祝福していた。
大和は心優しい少年だった。少し頼りないところもあるけれど、娘は元気の良い性格だ。
きっと、相性は良かった。
二人で城を抜け出したり、くだらない悪戯をするのには手を焼かされたけれど。
「――でも、彼女はこの世界を愛していた。そう言って笑っていた。……だからと言って、ぼくが愛せるわけじゃない。だけど、彼女の望みは叶えてあげなきゃならない。それだけがぼくに残された役目だから」
「……そう、気を張り詰めすぎるな。娘は、お前がそこまで思い詰めることも、きっと、望んでいない」
「アイリスは優しすぎたから、そう思ってるかもしれない。でも、それは勘違いです、王様。ぼくは別に思いつめてなんかいない」
"光の勇者"。
舞い降りた五人の勇者の中で、正統な初代の後継者だと目されている『聖剣』の使い手。
神懸かり的な戦闘の天才。窮地に陥れば実力以上の力を発揮し、上位悪魔二体と新魔王を相手にしても戦闘を有利に進めていた、との報告も受けている。
ただ、戦いを怖がること、誰かを傷つけることを恐れるのが唯一の欠点だと言われていた怪物が、この世のすべてを見下すかのような瞳で、嗤う。
「ぼくは、この世界を救う。――余計なことは考えてませんよ。思い詰めるなんて、とんでもない」
♢
一ノ瀬拓真は船の甲板上で、ひたすらボーッと空を見上げていた。
なにせ、それ以外にやることがない。体は拘束されている。主に包帯で。そもそも体にガタがきていて動くこともままならないのだ。仕方ないだろう。
「……なぁんつーか、また微妙な結末だな……結局オレ山城と戦ってねェじゃねえかよ……」
「生きてるだけマシじゃねえか」
ククっと笑うのは超級冒険者のアイザックだ。
ちょうど拓真を回収に来ていたらしい。
元々の気質が似ているせいか、手を組むことは多いのだが、まさか全く動けないところを船に載せられるとは思っていなかった。
「つってもな、葉山の奴はそこそこ強かったけど、アイツは炎ブッパばっかだから面白くねえんだよなァ。そりゃ奴にとってはアレが効率良いのは分かんだけどよ」
「死にかけてたくせに良く言うぜ」
「どうでもいいだろオレの命なんざ。死んだら死んだで戦いたいとも思わねえんだから」
拓真は心底不思議そうに言いながら、
「勇者もオレとは相性悪かった。ん? この場合は良かったっつーべきなのか? ……まあとにかくあんま面白ェ敵じゃなかった。やっぱ山城だな。ヤツの戦いにおける駆け引きの仕方はゾクゾクする。士道も同じだ。もう一度戦いてェ。ああいう策略を練るタイプの連中を力で捻り潰してやりてぇ」
凄絶に笑う。
アイザックは阿呆を見る顔で「……病気だな」と呟いていたが、
「うるせぇな迷宮バカ。テメェに言われたかねェよ」
「あぁ!?」
これもまた二人にとっては、いつも通りだった。
♢
霧崎翔。
王都での激戦。その途中で完全に姿を晦ましていた忍術師は、独自で行動を開始していた。
(……『異界同盟』。これを漁る。転移者関連だ。情報を集めれば、必ず何か掴めるはず)
都市から都市を渡り歩き、密かに標的へと近づいていく。その脳裏に浮かぶのは、軽薄そうな大学生程度の青年――鷹山祐介だった。
魔王軍の意向とも関係なく翔は己の目的を果たすために歩みを進める。
足音すら、立てることはない。
♢
――レーノ共和国東域。首都よりも人口が多く、独立していると言っても過言ではないほどの発言力を持っているのが、技術力では世界最先端を行く魔導都市、アルスフォードである。
特に最近の急発展は異常の域に達している。
その要因に転移者が関わっているのは火を見るより明らかだった。
「いえいえ、どうせワタシの研究の副産物デス。都市の運営に役立つのなら、どうぞご自由に」
地下に広がる研究所の一角。
跪く者達に、白衣の男は適当に告げる。
彼らが魔導都市の運営に携わっている高位の者だと理解していてなお、白衣の男の態度は変わらない。
男達の窺うような視線に苦笑しながら、鷹山祐介は肩をすくめる。
「博士が良いって言ってるんだから良いんじゃないスか? サーシャ、契約書とか諸々のことお願いできるッスか?」
「はーい」
自らの奴隷の一人に指示を出し、鷹山はサーシャと共に去っていく彼らを眺めていた。
直後、ズズン……!! という振動が響く。
「うわっ、何スか!? 山城さんの"地震"みたいな響き方ッスけど」
「ヤマシロはんはいませんよ?」
「まあ失敗して、捕まったか殺されちゃったんですよね……。正直、嬉しいような悲しいような」
「それはそうと、今のは木暮さんと博士が開発した新型鎧を着た兵士の性能実験に関わる音じゃないかと」
「ていうかご主人様、ビビりすぎー」
眉目秀麗な奴隷達が次々と言う。
割と遠慮とかなかった。
異世界に来て奴隷ハーレムを作り上げた鷹山は、「なんか思ってたのと違う」と、いつものように首をひねるのだった。
「鷹山くん」
「何スか博士?」
「吉野くんと『未来視』を手に入れた蒼井くんを調べるついでに、確かに勇者会議の実現性が限りなく高いことが分かりました。いいスキル、デス」
「……あ、やっぱりそうなんスか? 嫌だなぁ。強い人が集まるのは」
「それに」
「それに?」
「魔王軍が、本格的な攻勢をかけてくるようデス」
「うわ……」
厄介事の匂いに、鷹山は眉をひそめた。
♢
空に君臨する荘厳なる魔王城は、悠然とした速度で海を渡っていく。目指すは魔大陸から目と鼻の先にある中央大陸――レーノ共和国である。
魔王城に乗り込んでいる悪魔達は、翼を駆使して本国と行き来して食糧の補給や、『浮遊装置』への魔力供給、そして鍛錬など慌ただしく動き回っていた。
この要塞は数々の古代兵器を積んでいる。悪魔の拠点であると同時に、魔王軍の最大の武器なのだ。
だから自ら本拠を動かし、退路を断った上で人間共を一気に殲滅する。そういう計画だ。
山城の一件により、『病魔』から逃れるために少し予定を早めざるを得なかったが。
龍魔王はとある少女に力を奪われ、不死魔王がヴァリス帝国に潜伏。新魔王は上位悪魔を率いてミラ王国に奇襲を仕掛けた現在、魔王城の指揮を担当しているのは老年の中位悪魔――ルドルフ・フィーベルだ。
白髪に紳士服を着た老人である。しかし、紅い瞳から放たれる眼光は異様に鋭く、若々しい。
百年前の戦争において、中位悪魔の身にして上位を上回る戦果を上げた怪物である。
上位と中位では、レベルが上がれば上がるほど身体能力や魔力量に隔絶する程の差が見えてくるのだが、ルドルフは強い敵を油断させ、戦術的に倒していくことが非常に上手かった。だから認められ、中位悪魔にして魔王城の指揮を任されるほどの地位に立っているのだ。
流石に戦闘能力には衰えが見えるが、その卓越した指揮能力はいまだ健在だと評判である。
「ルシア様」
魔王帰還の報告を受け、即座に治癒室に向かったルドルフは驚きを顕にしていた。
「……『再生』を持つ貴方がそこまでの傷を負うとは」
「"光の勇者"。アレは思っていたよりも遥かに厄介だ。それに俺様では相性が悪い。計画は失敗だ。元より成功率は高くなかったとはいえ、ドムとブレットを失ったのは誤算だ。邪魔な転移者が多すぎた」
「……そうですか。ドムとブレットがやられましたか」
「そして『異界同盟』とかいう妙な連中の横槍を受けて『次元移動』も奪われた。キリサキが独自に追うと言っているから好きにやらせるが……まったく、今回はやられ放題だ」
「ホッホッ。そう気を落とされるな。王都を壊滅させたのですし、ミラ王国の国力はこれまでより遥かに落ちるでしょう。『次元移動』による奇襲は確かに成功です。奪われたのはちと痛いですが」
「……そうですな」
ルシアと共に帰還したグライブが言う。
ルドルフが頷くと、ルシアは嘆息しながら告げた。
「まあ『次元移動』を失った以上、正攻法でいくしかない。レーノ共和国を力ずくで押し通り――不死魔王が待っている帝国に魔王城を侵入させるぞ。それができなければ、本国の守りをほぼ捨てて全兵力を強引に連れてきた意味がない」
♢
そして。
地の底で、その影は嗤っていた。
天の上で、その影は嗤っていた。
互いに互いの存在など認知できない遥か遠くに存在しながら、互いが己を見ていることを確信していた。
「……」
何ひとつ言葉を発することはなく。
魔神と女神は、その他すべてを捩じ伏せるかのような威圧を撒き散らしながら、射殺すような視線で向け続けていた。いつまでも、いつまでも。
この世界の誰よりも憎んだ復讐相手のように。
この世界の誰よりも愛した恋人のように。
四章――完。
次章――第五章「絶望に咲く一輪の花よ」
今章は反省点が多かったです。いつも感想で指摘してくださり、ありがとうございます。
完結まで残り二章。指摘を活かしつつ、物語を盛り上げるつもりなので、この先も読んでいただけると嬉しいです。




