第29話 酒に合う
「それにしても、この味はエールも欲しくなるなあ……」
「ああ、本当だぜ……」
「バカ、野営中にお酒は絶対に駄目よ!」
タコスを食べながらそんなことを言う男2人とそれを咎める女性の冒険者。
俺もそうだが、基本的に野営中に酒は駄目だ。一応護衛の人もいるけれど、移動中は何が起こるか分からないからな。
……ただし、そっちの2人が言っていることもよくわかる。温かくスパイシーなタコスには冷えたエールがよく合うことだろう。そしてメキシコといえば竜舌蘭の一種であるアガベから作られた蒸留酒のテキーラが有名だ。
テキーラはないが似たような蒸留酒があるので、俺もつい飲みたくなってしまう。俺の場合は超健康スキルでそこまで酔うことはないのだが、俺が飲んだせいで他の人も一緒に酒を飲んでダウンしたら大変だ。悔しいが我慢である。
「ははっ、私や商隊の護衛もいるので、遠慮なくお酒を飲んでも大丈夫ですよ」
「ええ、遠慮は無用ですよ」
「いえ、どちらにせよお酒を持ってきていないので大丈夫ですよ。ご配慮ありがとうございます」
……俺の方はバックパックにいろんな種類のお酒はあるのだが、この雰囲気であるとは言えないな。
護衛の屈強な男性と御者の方はそう言ってくれるが、俺もこの場では止めておくとしよう。
「それでは明日は朝に出発しますので。お休みなさい」
「ええ、お休みなさい」
晩ご飯を食べ終えたらすぐに休む。明日も日が昇ったらすぐに出発するから、夜は早い。
夜は商隊の人たちと一塊となって、周囲の三か所に見張りの人を置いている。馬車を外側にして、真ん中にテントを張って、俺はその中で寝る。ヴァルドたちも2つのテントで寝て、御者の人は馬車の中で寝るそうだ。
一応見張りの人はいるが、いつもの魔導具である腕輪のスイッチは入れておく。魔石も王都で補充したし、念には念を入れておきたいところである。
「さて、テントの中に入ったことだし、そろそろいいだろう。そういえば王都にいる間は女神と一緒に食べていなかったな。また怒っていなければいいが……」
テントの中ならおれがいなくなってもわからない。多めに作っておいたタコミートとトルティーヤを取り出して手を合わせた。
「くう~この料理は酒とよく合うのじゃ!」
「……相変わらずいい飲みっぷりだが、仕事もあるんだからほどほどにしておけよな」
幸せそうな顔をしてタコスをつまみつつ、エールと酒精の強い蒸留酒を交互に飲んでいく女神。
少女の姿でうまそうに酒を飲む姿のギャップがひどい……。
「こちらの世界にも似た料理はあるのじゃが、こっちの方がうまい気はするのう」
「やっぱり何かに包む料理はいろいろとあるだろうな。中身を替えるだけでもいろんな味が楽しめるんだよ」
タコス以外にもトルコのケバブ、中国のチュンピン、ベトナムの生春巻きなど世界にはいろんな料理がある。当然こちらの世界にもそういった料理はたくさん存在するぞ。
「ビミレの実はこれくらいならちょうどいいだろ?」
「うむ、少し辛味があってうまいのじゃ。あの辛い鍋と同じ材料を使っていると聞いた時はどんな味がするのかと心配したのじゃが、この料理は当たりじゃな!」
以前にビミレの実を使って作った鍋は若干失敗してしまったからな。辛いもの好きの人から聞いたレシピだったから、俺と女神にとっては少し辛かった。
確かにこれは当たりと言ってもいいだろう。レシピをメモしておくとしよう。
「酒にもよく合うな。エールもいいし、こっちのルナベリルもいいな」
やはり思った通り、このタコスは酒によく合う。中に入れたチーズとトマトソースがたまらないんだよ。
酒精が弱めの酒と強い酒、どちらも良い感じだ。
「それにしても、ガクトは本当にいつも旅をしているのじゃ。ひとつの場所に留まり続けたちと思う気持ちはないのかのう?」
「安定した生活にも憧れないわけじゃないけれど、少なくとも今はまだこの世界を旅していたいな」
ニッグのような安定した生活を送ることにも憧れるが、やはり今は旅をしていたい気持ちの方が強い。
……まあ、そんなことをいいつつ、前世も含めたら10年以上ふらふらと旅をしているんだけれど。
「ふむ、ちゃんといろんな料理を広めてくれているようじゃし、ガクトの自由にしてよいぞ」
「ああ、ありがたく自由にさせてもらうよ」
今日のタコスもそうだが、料理のレシピを聞かれたら教えている。カトレアたちにもいろんな料理を教えてきたし、女神の頼みはちゃんと聞いている。
こうやって自由に旅ができるのも女神からもらったスキルのおかげだからな。しっかりと恩は返していくとしよう。




